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死霊狩り(ゾンビー・ハンター) 〔全〕 [読書・SF]


死霊狩り【ゾンビー・ハンター】〔全〕 (ハヤカワ文庫JA)

死霊狩り【ゾンビー・ハンター】〔全〕 (ハヤカワ文庫JA)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2018/06/19
  • メディア: 文庫
評価:★★★★

昔、「週刊ぼくらマガジン」というマンガ雑誌があった。
1969年11月から71年6月までと、約1年半という短命な雑誌だったけど
なぜか我が家にはあったんだよねえ。弟が買ってたのかも知れない。

どんな作品が載ってたのかも覚えていないんだけど、
なぜか1作だけ記憶に残ってたのが『デスハンター』という作品。

人間に取り憑いて凶暴化させる謎の生命体「デス」。
それが憑依した人間を密かに発見し、抹殺する組織「デスハンター」。
そのメンバーとなった元カーレーサー・田村俊夫の物語だ。

原作・平井和正、作画・桑田次郎という、
『8マン』を産み出した黄金コンビによる作品で、
平井和正はこの漫画の原作を小説形式で執筆していたという。
のちにその原作原稿を全面的に改稿し、細部を加え、改題したものが
本書『死霊狩り』(ゾンビー・ハンター)3部作。

第1巻が72年12月にハヤカワ文庫から刊行され、
のちに75年5月に角川文庫から再刊、同じく角川文庫で
第2巻が76年10月に、第3巻が78年1月に刊行されて完結した。

そして40年ぶり(マンガ『デスハンター』から数えれば約50年ぶり!)
に再刊されたのが本書である。
タイトルの後に〔全〕とあるのは、その3冊を合本してあるためで
文庫で650ページという堂々のボリュームになっている。

〔死霊狩り1〕
主人公・田村俊夫は、天才と呼ばれたカーレーサーだった。
姉の由紀子、恋人のブラジル人留学生ジャンジーラとともに
順調なレーサー生活を送っていたが、レース中に大事故が発生する。
負傷からは奇跡的な回復を果たしたものの、
事故発生の責任を負わされ、チームから解雇されてしまう。
自暴自棄に陥った俊夫は、再起に必要な大金を得るために
謎の秘密機関〈ゾンビー・ハンター〉に身を投じる。
密林での想像を絶する過酷な生存試験を突破し、
最終試験では重傷を負いながらも生き残る。
欠損した体の一部をサイボーグ化された上に、
さらに徹底的な暗殺テクニックを仕込まれ、俊夫は完璧な戦士となった。
〈ゾンビー・ハンター〉とは、宇宙からやってきた謎の生命体で
人間に取り憑いて凶悪化させる〈ゾンビー〉を抹殺する機関だった。
しかし、人間の命を軽視する ”司令官S” に反発した俊夫は
一方的に組織を抜けることを宣言するのだが・・・

〔死霊狩り2〕
〈ゾンビー・ハンター〉に復帰した俊夫は、司令官Sの命令で
アメリカ政府高官ロバート・ロスの暗殺を実行する。
しかし、ロスは〈ゾンビー〉ではなかったことが判明する。
「たとえ〈ゾンビー〉ではなくとも、
 〈ゾンビー〉を利する行動をとる者は抹殺対象である」
Sの言葉に、〈ゾンビー・ハンター〉が際限なく人を殺していく
暗殺機関になってしまうことを危惧する俊夫。
そして次のターゲットは、電機メーカー大手・コスモ電機の
技術者・加賀昭(かが・あきら)だった。
コスモ電機は密かにCIAと協力して軍事技術の開発をしていたが
その計画が頓挫してしまい、その陰に加賀の暗躍があったことが判明。
加賀を〈ゾンビー〉と判断したSは、俊夫に対して
幼い子ども二人を含めた加賀の家族全員の抹殺を命じるのだが・・・

〔死霊狩り3〕
カリブ海の孤島にある〈ゾンビー・ハンター〉基地に帰還した俊夫は
精神的な弱さを克服するために徹底した洗脳措置を施され、
一切の人間的感情を無くした殺人機械へと化していく。
そんなとき、基地に潜入した〈ゾンビー〉によって
動力源の原子炉が暴走を始め、パニックが広がる。
暴走は食い止めたものの、ハリケーンの襲来によって
本土との交通・通信は途絶し、〈ゾンビー〉の存在に怯えた
人間たちによる同士討ちが始まってしまう。
指揮官Sは、施設・人員に多大な損害を被った基地を見捨て、
自分が脱出した後に、核兵器によって
島ごと〈ゾンビー〉を葬ることを決断する・・・


本作が書かれた1960~70年代は、いわゆる冷戦時代。
アメリカもソビエトも、人類を何回も滅ぼせるような核兵器を
大量に保有してにらみ合っていた。
両国の代理戦争的な、ベトナム戦争も続いていた。

『ノストラダムスの大予言』なんて本がベストセラーになってしまうし、
”人類滅亡” なんて単語がけっこう身近に語られていたような気がする。

二度にわたる世界大戦を経験しながら、
いまだに戦争を止められない人間たち。
「人類って救いようがないくらい愚かだ」って思う人も多かっただろう。

戦争で金儲けをする ”死の商人” によって産み出された
改造人間兵士を描いた『サイボーグ009』(石ノ森章太郎)の
連載が始まったのが64年。

ラストが人類の滅亡で終わるマンガ版『幻魔大戦』
(平井和正・石ノ森章太郎の合作)が67年。

こういう時代背景のもとで描かれた本作『死霊狩り』(『デスハンター』)
も、陰惨で陰鬱な雰囲気に満ちている。

第3巻の「あとがき」で、平井和正は本書を
”人類ダメ小説” と呼んでいる。

 人類はできそこないである。
 人間だけが、仲間内の殺し合いを大がかりに、
 それも熱中してやってのける。それはどんな猛獣も及ばない。

本書の中でも、人体の破壊や殺戮の描写は凄惨の一語。
現代の基準からすれば、あまり過激に感じない人もいるかも知れないが
当時からしたら十分衝撃的だったし、ましてや
当時思春期だった青少年には大いなるショックだっただろう。

〈ゾンビー〉抹殺のためには、人間の命など歯牙にもかけない指揮官S、
そして、人間性を失って殺人マシンと化していく
俊夫をはじめとする〈ゾンビー・ハンター〉たちの描写は、
ある意味〈ゾンビー〉よりも恐ろしい存在に思えてくる。

そして、極めつきはそのラスト。
救いようのない結末というのは、このようなものを言うのだろう。


もっとも、その「あとがき」の中で平井氏本人は
”人類ダメ小説” はこれで打ち止め、と宣言しており、これからは
「このような末法の世を越えた先に ”救世主” が降臨する、
 ”浄化の時代” を描いていく」とも語っている。

それが作品として結実したのが、『死霊狩り』3部作が完結した翌年の
1979年から始まった『幻魔大戦』(小説版)と
『真幻魔大戦』だったのだろう。


本書を読み終わってみたら、マンガ版『デスハンター』と
大筋はほとんど同じだったのだけど、
いちばんの大きな違いは「エピローグ」の有無。

マンガ版では、後日談にあたる「エピローグ」が存在したのだが
小説版ではカットされている。
まあそのほうが、より ”人類の救いようのなさ” が
強調されると思っての判断なのだろう。

マンガ版に「エピローグ」があったのは、
少年誌での連載だったことを考えて、あまりにも ”希望の無いラスト” を
少しは緩和しようという配慮があったのかも知れない。

ちなみに、同じハヤカワ文庫から出ている
『日本SF傑作選4 平井和正』(日下三蔵編)には、
マンガ版『デスハンター』の「エピローグ」部分が
小説形式で収録されている。

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