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カササギ殺人事件 (上下) [読書・ミステリ]


カササギ殺人事件 上 (創元推理文庫)

カササギ殺人事件 上 (創元推理文庫)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2018/09/28
  • メディア:文庫
カササギ殺人事件 下 (創元推理文庫)

カササギ殺人事件 下 (創元推理文庫)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2018/09/28
  • メディア: 文庫
評価:★★★★

2018年に邦訳が刊行され、瞬く間に評判になって
各種の海外ミステリ・ランキングの1位を総なめにした作品。


物語は、出版社《クローヴァーリーフ・ブックス》の編集者、
スーザン・ライランドが自宅で新作ミステリの原稿を
読み始めるところから始まる。

作品名は『カササギ殺人事件』。
スーザンが担当している人気ミステリ作家アラン・コンウェイによる
「名探偵アティカス・ピュント」シリーズの最新作だ。
それはこんな話である。

*********************************

1955年7月。
舞台はサマセット州の田舎町サクスビー・オン・エイヴォン。
地元の名士、准男爵サー・マグナス・パイの屋敷で
家政婦メアリ・ブラキストンが死亡する。
彼女の死は事故として処理されたが
メアリの息子ロバートが殺したのではないかとの噂が広まっていた。

ロバートの婚約者ジェイ・サンダーリンクはロバートの汚名を雪ぐため
アティカス・ピュントを尋ねて助力を乞うが、
彼は「私にできることは何もない」と、彼女を追い返してしまう。

しかしその数日後、サー・マグナス・パイが首を切断されて殺される。
2人の死に関連があるとみたアティカスは
サクスビー・オン・エイヴォンに赴いて調査を始める。

その結果分かったことは、メアリにもマグナスにも、
殺害の動機を持つ者が少なくないことだった。

 実際、主要登場人物のほとんどに、2人の死を願う理由がある。
 いやあ、ここまで嫌われてる被害者たちも珍しい(笑)。

しかし、関係者への聞き込みを粘り強く続けたアティカスは
ついに真相にたどり着く・・・

*********************************

しかし、アランの原稿はここで終わっていた。
肝心の謎解きが行われる最終章がまるまる欠落していたのだ。

驚いたスーザンが《クローヴァーリーフ・ブックス》に出社すると、
さらなる衝撃が彼女を襲った。

編集部宛にアラン直筆の遺書が郵送で届き、それによると、
彼は不治の病で医師から死の宣告をされていたのだという。
さらに、アランが自宅の屋上から投身自殺をしたという知らせが。

スーザンはアランの自宅に向かい、原稿の残りを探して
関係者の人々と接していくうちに、
アランとその周囲の人々の関係が、『カササギ殺人事件』での
サー・マグナスとその周囲の人々の関係と
そっくり相似形をなしていることに気づく・・・


ひとつの長編ミステリの中に、まるまるもうひとつの長編ミステリである
『カササギ殺人事件』が組み込まれているという特異な作り。

しかも、作中作の長編自体がアランの死を巡る事件の
手がかりとなっているという、なんとも壮大な ”伏線” だ。

『カササギ殺人事件』の結末部が失われていたのも、
もちろん意味がある。

”アラン殺し” のパートでは、スーザンが探偵役となる。
彼女が最終的にたどり着く真相は、かなり意外なもの。
犯人の名前もそうだが、その動機がまた意外。
”ホワイダニット” の面でも傑作だろうと思う。

一方、作中作の『カササギ殺人事件』の方はどうか。
これも各所で言われているけど、クリスティへのオマージュ満載。
ユダヤ系ドイツ人という出自を持つ探偵役アティカスは、
外国人であるところやその前歴がポアロを彷彿とさせる。
舞台になる田舎町も、ミス・マープルが歩いていそうな雰囲気。
それ以外にも、あちこちにオマージュが ”仕込んで” あって、
熱心なクリスティー・ファンなら、ニヤリとしてしまうだろう。

行方不明だった最終章も後に発見されて、ちゃんと読むことができる。
こちらもクリスティー風かなぁ。真犯人の隠し方なんかまさにそれ。

端正につくられた本格ミステリをたっぷりと楽しめる、
「一粒で二度美味しい」贅沢な作品。


最後に余計なことを少し。

アガサ・クリスティーは、自ら産み出した名探偵である
エルキュール・ポアロが大嫌いだったらしい。
ポアロ最後の事件である「カーテン」を書いたときには
さぞやせいせいしたんだろうね(笑)。

横溝正史は金田一耕助に対してどう思ってたんだろう。
最後の事件である「病院坂の首縊りの家」で
アメリカへ旅立たせてしまったけど、
その後にも「悪霊島」を書いたし、
金田一耕助の登場する作品をもう一作くらい構想してたはず。
少なくとも嫌ってはいなかったのだろうな、とは思うが。

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