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僕らの世界が終わる頃 [読書・ミステリ]


僕らの世界が終わる頃 (新潮文庫nex)

僕らの世界が終わる頃 (新潮文庫nex)

  • 作者: 美月, 彩坂
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2018/03/28
  • メディア: 文庫
評価:★★★☆

主人公の工藤渉(わたる)は14歳。
進学校でもある中高一貫校に通っていたが、
1年前のある ”事件” がもとで不登校となり、
自宅に引きこもる生活を送っている。

11歳年上の兄・貴史は成績は優秀、人格は円満で
絵に描いたような順風満帆な人生を送っており、
それもまた渉にとってコンプレックスだ。

自室への引きこもりで、有り余った時間を
ネット・アニメ・マンガ・小説などへの逃避で
消費するうちに、渉はふとしたきっかけで小説を書くことを思い立つ。

主人公・門倉詩織は、渉にとっての ”理想の少女” として設定し
周囲にはクラスメイトや兄の友人などをモデルにしたサブキャラを配置、
舞台のモデルも、渉が住んでいる町だ。

ストーリーは、詩織が通う学校の女生徒が次々と
謎の殺人鬼の手にかかって死んでいく、というホラー・ミステリ。

小説を書くことに高揚感を覚えた渉は、ネットでの公開を思い立ち、
大手SNS〈モバイルシティ〉の小説投稿サイトに参加する。

『ルール・オブ・ルール』とタイトルをつけ、
作者名(ペンネーム)を「匿名少年」として投稿した渉の小説は
頻繁な更新もあって徐々に注目を集め始め、
やがて小説投稿サイトの人気第1位を獲得するまでになった。

しかし、それと同時に渉の周囲で不審な出来事も起こり始める。
連載中止を求める脅迫メッセージ、発信者が非通知の脅迫電話、
そして、渉の小説のシチュエーションそのままの状況で
女性が襲われるという殺人未遂事件まで起こる。

恐れをなした渉は『ルール・オブ・ルール』をサイトから削除するが、
こんどは何者かが「匿名少年」というペンネームで
勝手に ”続き” を書き始めてしまう。

そしてその ”続き” の通りに、さらなる事件が起こっていく・・・


あらゆるものから逃避して引きこもっていた渉が、
小説を書いてネットの世界に公開したことから
否応なく外の世界に関わらざるを得なくなっていく。

前半では、次々に起こるトラブルから逃げ回っていた渉だが、
いまでも彼のことを気にかけてくれるクラスメイトである
風間大悟と中村加奈の存在によって
(加奈も『ルール・オブ・ルール』のサブキャラのモデルの1人)
後半になると ”殺人鬼” の犯行を食い止めるための
”反撃” を考えるようになる。

中盤過ぎからの、ネット小説を通じての ”対決” というのは
面白い趣向だと思う。渉と犯人の ”頭脳戦” 的な要素もあり、
いままでダメダメだった渉くんも、ここでやっと主人公らしくなる。

”犯人” は小説の舞台が渉の住む町であることに早々に気づいているし、
しかも渉の個人情報を手に入れることができることから
彼の周囲、それもそう遠くないところにいる人物だろう・・・
というのはかなり早めに見当がつくのだけど、
そういう風に考えると誰でもOKなように思えてきて、
読む方としてはなかなか ”こいつ” と絞り込めない。
そのあたりのコントロールというかさじ加減は上手いと思う。

渉は長い引きこもり生活で、何に対してもすっかり臆病になっている。
それもあって、冒頭からずっと陰鬱な雰囲気が続くのだけど、
曇り空の隙間からちょっと晴れ間がのぞいたような、
希望を感じさせるエンディングを迎えるので、読後感は悪くない。

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