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バチカン奇跡調査官 ラプラスの悪魔 [読書・ミステリ]

バチカン奇跡調査官ラプラスの悪魔 (角川ホラー文庫)

バチカン奇跡調査官ラプラスの悪魔 (角川ホラー文庫)

  • 作者: 藤木 稟
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2012/05/25
  • メディア: 文庫
評価:★★☆

カソリックの総本山、バチカン市国。
世界中から寄せられてくる "奇跡" に対して
その真偽を判別する調査機関『聖徒の座』。

そこに所属する「奇跡調査官」である
天才科学者の平賀と、その相棒で
古文書の読解と暗号解読の達人・ロベルト。
この神父二人の活躍を描くシリーズの第6作。


アメリカ合衆国次期大統領候補の呼び声も高い、マリニー上院議員。
彼が地元の教会で演説しようと登壇したとき、
突如として上空に黒雲が湧き、滝のような豪雨が降り始める。
そして次の瞬間、議員の身体は閃光に包まれた。

絶命して倒れ伏した彼の死因は落雷ではなく、
心臓の "破裂" によるものだった。
さらに、両方の掌に鉄杭らしきものの貫通痕が。

事態を重く見たアメリカ政府から連絡を受けたバチカンは、
平賀とロベルトを調査に向かわせた。
二人はFBI調査官のビル・サスキンスとともに真相を探り始める。

掌の傷跡は死亡する数日前のものと思われた。
その頃、議員はロッキー山中で行われていた
秘密の "降霊会" に参加していたという。

会場となった屋敷は、軍需企業・レイセオン社の創業者らが
わが身に降りかかる "呪い" や "悪霊" を
封じ込めるために建設した秘密の "ゴーストハウス"。

そこでは時おり、政財界の要人やハリウッド・セレブなどが
参加する降霊会が行われていた。

平賀たち3人は、そこで開かれる降霊会へ潜入するが、
そこでさらに "人体消失" などの驚愕の事態に遭遇する・・・


このシリーズは、壮大なホラ話だと思ってる。
それには、如何に大風呂敷を広げるかが勝負だ。
そして、それを如何にうまく畳むかも。

前作は、"吸血鬼" をテーマにさまざまな怪異や謎を提示し、
それを実に "それらしく" 理屈づけて説明してみせた。

基本はホラーで、本格ミステリではないのだから、
多少の強引さやこじつけがあってもOK。
整合性や実現可能性よりも、"らしさ" が優先される。
「まあ、そういういふうに考えられなくもないかな」
くらいで充分かと思う。

もちろん、読み手を満足させるハードルの高さは
人によって異なると思うのだけど、
私としては、通常のミステリ作品よりは
かなりおおらかに受け止めてるつもりだ。

しかし今作はどうか。

周囲に誰もいない状況で、被害者の心臓のみを破壊する。
衆人環視の中、みるみるうちに人間の姿が消えていく。

一見して超常現象のように思える事件も、
裏には人為的なからくりが潜んでいる。
そこまでは、いい。

ところが、その真相は・・・

衆人環視の中の人体消失の謎については
「いくらなんでもそれはないだろう」
心臓破壊による遠隔殺人に至っては、
作中に仄めかされている程度では、正直言ってさっぱりわからない。
そもそも説明しようという気が作者にはなさそうに思える。


ひょっとしたら、
私がこのシリーズに求めるものと、
作者がこのシリーズで描きたいものは、
根本的に異なっているのかも知れない。
今回、それを強く感じた。

 八百屋に行っても魚は買えない。
 「魚が置いてない」って怒る客がいたら
 それは客の方が悪いよねえ。

本来なら星2つかなあと思ったんだが
平賀とロベルトの主役二人が好きなので、星半分増量した。

でも、この傾向がこれからも続くようなら、
そのうち読むのを止めるかもなあ。

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彼女の狂詩曲(ラプソディ) 穗瑞沙羅華の課外活動 [読書・SF]

彼女の狂詩曲―穂瑞沙羅華の課外活動 (ハルキ文庫 き 5-8)

彼女の狂詩曲―穂瑞沙羅華の課外活動 (ハルキ文庫 き 5-8)

  • 作者: 機本 伸司
  • 出版社/メーカー: 角川春樹事務所
  • 発売日: 2013/05/15
  • メディア: 文庫

評価:★★★

人工授精によって(つまり "天才" の遺伝子を用いて)
誕生した少女・穂瑞沙羅華(ほみず・さらか)。

16歳にして大学4回生まで飛び級したものの、
思うところあって大学を中退、
現在は "普通の女子高生" として生活する日々。

彼女の大学時代の "元・同級生" にして、
沙羅華嬢設計の量子コンピュータで
よろず請負仕事をしているネオ・ピグマリオン社の社員、綿貫くん。
彼の業務は沙羅華嬢の "お守り役"。

天才美少女・沙羅華さんの大活躍、というよりは
凡人代表みたいな青年・綿貫くんが彼女に振り回される
"苦労話" が綴られた(笑)シリーズも、早いもので4作めとなった。


沙羅華の基本理論のもと、未知の新素粒子発見をめざして建造された
巨大粒子加速器 "むげん"。

しかし竣工以来、めぼしい成果を挙げられない。
このままでは「事業仕分け」の対象にされてしまう。

さらに、"むげん" にとっての強力なライバルも出現する。
国際共同エネルギー実験機構が建造した粒子加速器 "アスタートロン"。
"むげん" を遙かに超える大出力を誇り、
未知の "重ヒッグス粒子" の発見も時間の問題かと思われた。

綿貫君は仕分けを回避すべく、沙羅華の助力を得ようとする。
「現在の出力では新発見はムズカシイ」と言いながらも、
"むげん" 存続のための方法を、
自ら設計した量子コンピュータに考案させるが・・・・

出てきた答えは何と
「沙羅華をアイドルデビューさせ、世間の注目を集めて
 "むげん" への理解を深めるべく広報活動させる。」
というもの。

てっきり断られるかと思いきや、彼女は何故か引き受ける。
芸能プロダクションも巻き込んで、歌・ダンス・コスチュームも
トントン拍子に決まり、沙羅華はデビューに向けたレッスンを始める。

しかし公開イベント前日のリハーサル中、
沙羅華は突然、アイドルプロジェクトからの降板を宣言してしまう・・・


今回のテーマは「父と娘」。

沙羅華の母は、人工授精で彼女を授かったが、
その遺伝子を提供したのは素粒子物理学者の森矢慈英教授。

そして沙羅華の母が森矢教授と結婚したことにより、
森矢教授は名実ともに沙羅華の父親となった。
ちなみに沙羅華の戸籍上の本名も「森矢沙羅華」となった。

しかし生まれてから16年間、父親のいない生活を送ってきた沙羅華が
突然現れた "父親" とうまくいくはずもない。

もともとうまくいっていなかった母親との仲も、
さらにぎくしゃくとしてきて、母親はノイローゼ状態に。
そして極めつけは、森矢教授が
"アスタートロン" のスタッフとなって渡米してしまったこと。

今回の沙羅華嬢は、"むげん" の事業仕分けだけでなく
「家族の崩壊」という、さらに困難なものも
相手にしなければならないわけだ。

彼女の突然の "降板宣言" も、その背景には森矢教授の存在があった。

そんな中でも、綿貫くんはあくまで沙羅華の味方である。
誰よりも彼女のことを心配し、彼女の傍らにあって励ましたりと
涙ぐましいまでに沙羅華に尽くしてる。

だけど、ときたま「男子としての欲望」が暴走してしまって
彼女の逆鱗に触れてしまうのは、もう毎度お馴染みの光景(笑)。

しかし物語は、事業仕分けや家族の問題を越えて
巨大粒子加速器がもたらす(かも知れない) "大災厄" へと広がっていく。

その可能性に気づいたのは沙羅華のみ。
彼女はそれを回避すべく、父親のもとへ向かうが・・・


本シリーズでは、綿貫くんが苦労を重ねていく様子が綴られるんだけど
それと同時に、沙羅華嬢の成長も描かれている。

今回、「家族」の問題を乗り越えたことで、
彼女はまた一段上のステージに進んだ。

ラストシーンで綿貫くんが沙羅華嬢からもらう "メッセージ"。
そこには、いままでの彼女からは思いもよらない振る舞いが。
ある意味、本書のクライマックスはここだと思う。

作者はこのシーンが描きたくてこの物語を書いたんじゃないかなぁ・・・

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