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自薦 THE どんでん返し [読書・ミステリ]

自薦 THE どんでん返し (双葉文庫)

自薦 THE どんでん返し (双葉文庫)

  • 作者: 綾辻 行人
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2016/05/12
  • メディア: 文庫

評価:★★★

いやはや凄いタイトルだ。
「どんでん返し」ですよ。「自薦」ですよ。
いったいどうなっちゃうんですかねえ奥さん(誰?)。

ミステリというのは多かれ少なかれ結末に意外性を伴うもので
「やられた!」とか「いやあ一本取られたなあ」とか
思わせるものが傑作なんだろうと思う(私基準ですが)。

「どんでん返し」なんてのはその最たるもので
その箇所にさしかかったら「えぇ~!」とか「まさかそんな!」とか
"叫ぶ" まではいかなくても、それに近い思いを
読み手に味わわせなければいけないだろう(これも私基準)。

そして、どんでん返しがある作品は、
結末に「どんでん返し」があると知らずに読んだほうが
驚きが大きいと思うんだけど、
最近は、帯や裏表紙などの惹句に「最後のどんでん返しがスゴイ」とか
堂々と書いてあるものを時たま見かけるんだよねぇ。

 あれ、どうなんだろう。
 わざわざ作品の価値を下落させてると私なんか思うんだけど
 それよりも、出版社はすこしでも部数を稼ぎたいのかなぁ。

閑話休題。

本書は、「結末に "どんでん返し" があります」って宣言してる作品集。
しかも短編なので、短いストーリーの中で
読者を驚かさなければならない。
いやあ、どこまでハードルを上げてるんですかねえ双葉社さん。

でも、そんな "自分で自分の首を絞めてる" ような作品集に
自作を提供した作家さん。スゴイです。頭が下がります。
作家名を見ると、そうそうたるビッグネームばかり。流石です。


「再生」綾辻行人
 17歳も年下の教え子と結婚した大学助教授。
 しかし、妻には恐るべき "秘密" があった。
 トップバッターに立つだけのことはある傑作。
 最終ページでの驚愕は、"どんでん返し" があるって
 予告されていてもなお、強烈なインパクトがある。
 個人的には、本書ではベスト作品。

「書く機械(ライティング・マシン)」有栖川有栖
 才能はあるのに、いまひとつブレイクできない作家・益子。
 彼の潜在能力を極限まで引き出すべく、
 伝説的な "名伯楽" と謳われた編集者が
 益子を連れていった場所は・・・
 ミステリと言うよりは、不条理SFに近いかな。
 1970年代あたりの小松左京か筒井康隆、
 あるいは藤子不二雄あたりが描きそうな雰囲気を感じる。

「アリバイ・ジ・アンビバレンス」西澤保彦
 両親のケンカから逃れて家を出た主人公が見たものは、
 同級生の淳子が中年の男性と逢い引きしているところ。
 しかしその時間、淳子の家では殺人事件が起こっていた。
 そしてなぜか、アリバイがあるはずなのに
 淳子は「自分が殺した」と供述しているらしい・・・。
 終盤、淳子の供述に込められた深~い意図が明かされると、
 ほんとに良くできてると感心する。
 "どんでん返し" とは思わないが、細部まで計算が行き届いた作品。
 とくに "サブ(?)ヒロイン" の琴美ちゃんがいい味出してる。
 西澤保彦って、デビューした頃は結構読んでたんだけど
 何となく「私には合わないなあ」って思って
 途中から読まなくなったんだよねえ・・・

「蝶番の問題」貫井徳郎
 大学時代の先輩であった作家のもとへ主人公の刑事が持ち込んだのは、
 当事者5人が全員死亡していたという事件。
 被害者が残した手記から、真相を突き止めようするが・・・
 この部分は良くできたミステリになってるけど
 ラストのこれは "どんでん返し" かなあ・・・
 気の利いた "オチ" ではあるけどね。
 最近、ドラマ化や映画化が相次いでいる貫井徳郎さん。
 この人も、デビューした頃は結構読んでたんだけど
 ここ数年は読んでないんだよねえ・・・

「カニバリズム小論」法月綸太郎
 元医学生の大久保は、同棲していた女を殺した。
 さらに、その女の死体を "食べて" いたのだ。
 なぜ、彼は死体を食べ続けていたのか。
 法月綸太郎が導き出したのは驚くべき "理由" だった・・・
 いやあ、この "理由" がちょっとインパクトありすぎて
 その後に用意されていた "もうひとひねり" が
 ちょっと霞んでしまった感が。

「藤枝邸の完全なる密室」東川篤哉
 烏賊川市で有数の資産家、藤枝喜一郎。
 しかし、その甥の修作は、叔父が遺言状を書き換えて
 彼の取り分を減らそうとしているのを知り、喜一郎を殺害する。
 修作の工作により、現場は完全な密室になったが
 そこへ探偵・鵜飼が現れて・・・
 鵜飼の意外に(?)鋭い洞察力でどんどん追い詰められていく修作。
 しかし、本作のキモはそこではなく、ラスト一行にある。
 でも、これを "どんでん返し" と呼んでいいのだろうか?・・・(笑)


こういう敷居の高い作品集に参加しただけあって
いずれも高レベルの作品ではある。

でも、タイトルで大上段に「どんでん返し」って掲げないで
普通に読んだほうが素直に驚けたかもなぁ・・・
って思わないでもないが(笑)。

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