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スノーフレーク [読書・ミステリ]

スノーフレーク (角川文庫)

スノーフレーク (角川文庫)

  • 作者: 大崎 梢
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2011/07/23
  • メディア: 文庫



評価:★★★★

函館に暮らす桜井真乃・遠藤速人・田村亨の3人は
幼稚園から一緒の幼なじみ。
賑やかで愛嬌たっぷりの亨、穏やかで思慮深い速人。
タイプの違う二人に囲まれ、真乃は幸福な時を過ごしてきた。

しかしそんな日々は小学校6年生の春に終わりを告げる。
速人の父が事業に失敗、家族全員を乗せて自動車で海へ飛び込み、
一家心中を遂げたのだ。
懸命の捜索にもかかわらず、速人の遺体だけが発見されなかったが
やがて死亡宣告が下された。

そして6年後、高校3年生となった真乃は
推薦で東京の大学への進学も決まり、函館を離れる日が近づいていた。

亨とは、中学校は別々だったが高校入学で再会した。
以来3年間、何かと真乃に対して一方的にアプローチをしてくるが
速人に対して思いを残す彼女がそれに応えることはなかった。

しかし卒業式を2週間後に控えた日、
真乃は亨からのデートの申し込みを受け入れる。
楽しい時間を過ごす二人だったが、とある街角で真乃は、
死んだはずの速人にそっくりな人影を目撃する。

そして翌日、遠藤家の墓参に来た真乃の前に、
速人によく似た青年が現れる。
彼は北大の2年生で、速人の従兄弟、勇麻(ゆうま)と名乗った。

札幌で暮らす勇麻の周辺で不可解な事が起こり、
その背後には速人の生存がほのめかされているという。

やがて真乃の元にも、何者かが速人のものだったノートを届けてきた。

速人はひょっとしたら生きているのではないか?

速人の生存に一縷の望みを託し、彼の行方を調べ始めた真乃だが
彼女の行く手には、謎めいた影が見え隠れする・・・


タイトルである「スノーフレーク」とはヒガンバナ科の植物のこと。
真乃にとって思い出の花であり、
ストーリーのキーポイントにもなっている。

作中、真乃は速人、亨、そして勇麻と、3人の男性の間で揺れ動く。
「生死不明の速人よりも、何だか胡散臭そうな勇麻よりも、
 チャラそうでも真乃ひとすじの亨でいいじゃないか・・・」
読んでいるとそんな思いにも駆られるんだが、
そう思った時点でもう既に作者の手のひらの上だ。
あとは思うがままに転がされて行ってしまう。
それもまた心地よいんだが。

わずかな手がかり、人々のかすかな記憶をたぐり続けて、
真乃は少しずつ速人の "死" の真相に迫っていく。

やがて彼女は、心中事件に秘められた衝撃的な事実に行き着く。
さらにラストに至り、読者はもう一段驚かされる。
いやぁ、畏れ入りました。

文庫で260ページほどとコンパクトながら、
純愛ラブストーリーであり、サスペンスでもあり、そして
ミステリとしての骨格もしっかりとしていて読み応えも充分。


高校卒業、そして大学進学。さらに幼なじみの亨から寄せられた想い。
しかし、6年前から刺さった胸の棘、それが速人の存在。
彼の生死に決着をつけなければ真乃は前に進めない。

人生の岐路を前に、揺れ動くヒロイン。
冬の函館を舞台に描かれる、過去への探索行。
そして迎えるエンディングは、未来への希望を感じさせて清々しい。

「夏のくじら」といい、この「スノーフレーク」といい、
この作者の描く青春ものは読後感がすばらしく良い。


良く出来た物語を読んだあと、しばしば思うことなんだが
この物語に登場した人々の、その後が知りたい。
大学生になった真乃が過ごす、東京での日々も読んでみたいなあ。
短編でもいいから。


以下は余談。

本書は2011年に映画化されている。主演は桐谷美玲さん。
なんで知ってるかというと、私が持ってる文庫本には、
本来の可愛らしいイラストのカバー(記事の冒頭にあるamazonの表紙)
の上に、映画宣伝用のカバーがもう一枚掛かっていて
そちらには桐谷美玲さんの横顔のアップがどどーんと(笑)載ってるから。


スノーフレーク [レンタル落ち]

スノーフレーク

  • 出版社/メーカー:
  • 発売日: 2012/04/25
  • メディア: DVD



これは映画のDVDのジャケットだけど、これと同じ写真が使われてる。


いやあ、でもこのキャスティングはどうだろう。

原作では、真乃は「人目を惹くような顔立ち」ではなく、
ましてや「通りすがりに一目惚れされるほど魅力的」でもない。
自分の容姿についての自信に乏しい少女として描かれていて
それがけっこう彼女の性格や行動に反映されている。
だから、原作を読んでから映画を観る人にとっては、
桐谷さんではちょっとイメージが違うのではないかなぁ・・・

もちろん商業作品なのだし、原作そのままに
映画化しているわけでもないのだろう。
興行面を考えても、美人さんを主演にせざるを得ないんだろうけどね。
(もっとも、主演・桐谷美玲ありきの企画だったのかも知れないが)

ヒロインの外見については、かなり上方修正(笑)されてるようだ。

誤解されないように書いておくが、
桐谷さん個人に含むところがあるわけではない。
どちらかというと好きな女優さんだ(^_^;)。
あくまで「スノーフレーク」の主演には合わないのではないかな、
ということで。

さて、ものはついでなので、ちょいとネットをさがして、
映画についての情報をざっと集めてみた。

すると、ヒロインの年齢設定も変更になってることがわかった。
原作では高校3年生だが、映画では短大生に引き上げられている。
(これも桐谷さんを主演にするためなのかも知れないが)

でも、この原作の持つ魅力は、"人生の節目" としての
「高校卒業」を扱っていることが大きいと思うんだよなあ。

「短大卒業」が人生の節目ではないとは言わないが
18歳と20歳ではその意味合いが大きく異なるのではないかな。

新たな生活、新たな人生へ向けての不安や期待は
より大きいだろうし、そういう時期であるからこそ、
過去に決着をつけて未来へ踏み出すという
この物語の骨格もより活きてくるように思うから。


さて、いろいろ書いてしまったが、私自身は映画そのものは未見。
ひょっとしたら全くの見当違いなことを書いてるのかも知れない。
その場合は平にご容赦を願いたい。

いつか映画を観る機会があったら、また感想を載せるかも。


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