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近況 [日々の生活と雑感]

何回目だか数えきれませんが、またまたプチ放置状態でした。

事の起こりは「スノーフレーク」の記事を書いたあたりから
右アゴの下にあるリンパ腺が腫れてきて、これがもう激痛・・・

飯もろくに食えない状態が一週間くらい続き、
PCに向かう気力も失せて寝てばかり。

で、寝てると自然と本に手が伸び、読書がサクサク進み出す。

その後、痛みも引いて通常の生活に戻ったのだけど、
なぜか読書のスピードだけは落ちずに不思議なほど読める読める。

PCに向かうと、このスピードが途切れてしまうような気がして
「ええい、このまましばらく読むほうに集中しちゃえ」というわけで
気の向くまま読んでたら、11/7~23までの2週間ちょっとで
なんと16冊も読めてしまったという近年にないハイペース。

 まあ、厚い本が少なかったというのもあるけどね・・・

さすがにここ一週間ほどは息切れしてきたのでちょっとひと休み中。

というわけで、読書記録の方はこれからぼちぼち上げていきます。
なんとか年内に終わるといいなあ・・・


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スノーフレーク [読書・ミステリ]

スノーフレーク (角川文庫)

スノーフレーク (角川文庫)

  • 作者: 大崎 梢
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2011/07/23
  • メディア: 文庫



評価:★★★★

函館に暮らす桜井真乃・遠藤速人・田村亨の3人は
幼稚園から一緒の幼なじみ。
賑やかで愛嬌たっぷりの亨、穏やかで思慮深い速人。
タイプの違う二人に囲まれ、真乃は幸福な時を過ごしてきた。

しかしそんな日々は小学校6年生の春に終わりを告げる。
速人の父が事業に失敗、家族全員を乗せて自動車で海へ飛び込み、
一家心中を遂げたのだ。
懸命の捜索にもかかわらず、速人の遺体だけが発見されなかったが
やがて死亡宣告が下された。

そして6年後、高校3年生となった真乃は
推薦で東京の大学への進学も決まり、函館を離れる日が近づいていた。

亨とは、中学校は別々だったが高校入学で再会した。
以来3年間、何かと真乃に対して一方的にアプローチをしてくるが
速人に対して思いを残す彼女がそれに応えることはなかった。

しかし卒業式を2週間後に控えた日、
真乃は亨からのデートの申し込みを受け入れる。
楽しい時間を過ごす二人だったが、とある街角で真乃は、
死んだはずの速人にそっくりな人影を目撃する。

そして翌日、遠藤家の墓参に来た真乃の前に、
速人によく似た青年が現れる。
彼は北大の2年生で、速人の従兄弟、勇麻(ゆうま)と名乗った。

札幌で暮らす勇麻の周辺で不可解な事が起こり、
その背後には速人の生存がほのめかされているという。

やがて真乃の元にも、何者かが速人のものだったノートを届けてきた。

速人はひょっとしたら生きているのではないか?

速人の生存に一縷の望みを託し、彼の行方を調べ始めた真乃だが
彼女の行く手には、謎めいた影が見え隠れする・・・


タイトルである「スノーフレーク」とはヒガンバナ科の植物のこと。
真乃にとって思い出の花であり、
ストーリーのキーポイントにもなっている。

作中、真乃は速人、亨、そして勇麻と、3人の男性の間で揺れ動く。
「生死不明の速人よりも、何だか胡散臭そうな勇麻よりも、
 チャラそうでも真乃ひとすじの亨でいいじゃないか・・・」
読んでいるとそんな思いにも駆られるんだが、
そう思った時点でもう既に作者の手のひらの上だ。
あとは思うがままに転がされて行ってしまう。
それもまた心地よいんだが。

わずかな手がかり、人々のかすかな記憶をたぐり続けて、
真乃は少しずつ速人の "死" の真相に迫っていく。

やがて彼女は、心中事件に秘められた衝撃的な事実に行き着く。
さらにラストに至り、読者はもう一段驚かされる。
いやぁ、畏れ入りました。

文庫で260ページほどとコンパクトながら、
純愛ラブストーリーであり、サスペンスでもあり、そして
ミステリとしての骨格もしっかりとしていて読み応えも充分。


高校卒業、そして大学進学。さらに幼なじみの亨から寄せられた想い。
しかし、6年前から刺さった胸の棘、それが速人の存在。
彼の生死に決着をつけなければ真乃は前に進めない。

人生の岐路を前に、揺れ動くヒロイン。
冬の函館を舞台に描かれる、過去への探索行。
そして迎えるエンディングは、未来への希望を感じさせて清々しい。

「夏のくじら」といい、この「スノーフレーク」といい、
この作者の描く青春ものは読後感がすばらしく良い。


良く出来た物語を読んだあと、しばしば思うことなんだが
この物語に登場した人々の、その後が知りたい。
大学生になった真乃が過ごす、東京での日々も読んでみたいなあ。
短編でもいいから。


以下は余談。

本書は2011年に映画化されている。主演は桐谷美玲さん。
なんで知ってるかというと、私が持ってる文庫本には、
本来の可愛らしいイラストのカバー(記事の冒頭にあるamazonの表紙)
の上に、映画宣伝用のカバーがもう一枚掛かっていて
そちらには桐谷美玲さんの横顔のアップがどどーんと(笑)載ってるから。


スノーフレーク [レンタル落ち]

スノーフレーク

  • 出版社/メーカー:
  • 発売日: 2012/04/25
  • メディア: DVD



これは映画のDVDのジャケットだけど、これと同じ写真が使われてる。


いやあ、でもこのキャスティングはどうだろう。

原作では、真乃は「人目を惹くような顔立ち」ではなく、
ましてや「通りすがりに一目惚れされるほど魅力的」でもない。
自分の容姿についての自信に乏しい少女として描かれていて
それがけっこう彼女の性格や行動に反映されている。
だから、原作を読んでから映画を観る人にとっては、
桐谷さんではちょっとイメージが違うのではないかなぁ・・・

もちろん商業作品なのだし、原作そのままに
映画化しているわけでもないのだろう。
興行面を考えても、美人さんを主演にせざるを得ないんだろうけどね。
(もっとも、主演・桐谷美玲ありきの企画だったのかも知れないが)

ヒロインの外見については、かなり上方修正(笑)されてるようだ。

誤解されないように書いておくが、
桐谷さん個人に含むところがあるわけではない。
どちらかというと好きな女優さんだ(^_^;)。
あくまで「スノーフレーク」の主演には合わないのではないかな、
ということで。

さて、ものはついでなので、ちょいとネットをさがして、
映画についての情報をざっと集めてみた。

すると、ヒロインの年齢設定も変更になってることがわかった。
原作では高校3年生だが、映画では短大生に引き上げられている。
(これも桐谷さんを主演にするためなのかも知れないが)

でも、この原作の持つ魅力は、"人生の節目" としての
「高校卒業」を扱っていることが大きいと思うんだよなあ。

「短大卒業」が人生の節目ではないとは言わないが
18歳と20歳ではその意味合いが大きく異なるのではないかな。

新たな生活、新たな人生へ向けての不安や期待は
より大きいだろうし、そういう時期であるからこそ、
過去に決着をつけて未来へ踏み出すという
この物語の骨格もより活きてくるように思うから。


さて、いろいろ書いてしまったが、私自身は映画そのものは未見。
ひょっとしたら全くの見当違いなことを書いてるのかも知れない。
その場合は平にご容赦を願いたい。

いつか映画を観る機会があったら、また感想を載せるかも。


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昭和40年代ファン手帳 [読書・ノンフィクション]

昭和40年代ファン手帳 (中公新書ラクレ)

昭和40年代ファン手帳 (中公新書ラクレ)

  • 作者: 泉 麻人
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2014/06/09
  • メディア: 新書



昭和40年代の世相を伝える資料(主に新聞の縮刷版)を眺めながら
当時の代表的な出来事を、著者自身の回想を絡めつつ綴った
70編あまりのエッセイ集になっている。

著者の泉麻人氏は昭和31年(1956年)の生まれなので
昭和40年~49年は9歳から18歳。
小学校高学年から高校3年までの時代に相当する。

ちなみに、私は泉氏よりちょっと年下だが、まあ同世代と言っていい。
なので、本書に書かれていることもだいたい記憶にあるし
読んでいて「ああ、そうそう」「そういえばそうだったね」
という部分がたくさんあって、たいへん楽しかった。
特撮、マンガ、アニメ、ラジオの深夜放送、アイドルなど
サブカルチャーに関する話題もあって、そのあたりも嬉しい。

スゴいなあと思ったのは、引用している文献の中に、
著者本人の「日記」があること。
当時、学校の宿題で書かされていたらしいのだけど、
なかなか達者な文章を書いていて、文筆家としての片鱗を感じさせる。
まあ、そんな昔の日記をまだ持ってること自体もスゴいけど。

 私なんか、大学時代に書いたレポートだって残ってない。
 (実家の物置の奥とか探せばあるかも知れんが・・・)

ざっと項目を挙げてみる。
とても全部は上げられないので、年ごとにひとつずつ。

昭和40年「クレージーとキングギドラの正月」
昭和41年「ビートルズは台風4号に乗って」
昭和42年「新宿にフーテンがいた頃」
昭和43年「55号とマエタケ」
昭和44年「東大安田とりで」
昭和45年「三島由紀夫と鼻血ブー」
昭和46年「夏に来た南沙織」
昭和47年「角栄・パンダ・アグネス・チャン」
昭和48年「石油ショックと六本木の夜」
昭和49年「ユリ・ゲラーが時計を直した夜」

これだけでも、なかなか面白そうでしょ?

高度成長期の終わり近く、
石油ショックによる大不況の直前というわけで
良くも悪くも、日本に
いろんな意味で "元気" があった時代、なのかも知れない。


おまけなのか付録なのか分からないけど
巻末に、某政治家との対談が収録されている。

泉氏と高校の同級生だったという縁で対談が実現したらしいが
内容的にはあまり見るべきものはないかなあ・・・
当事者同士なら思い出話も面白いんだろうけどね。


余談だが、読んでいて思ったのは著者の泉氏と、私自身の境遇の差。

三田にある慶應義塾中等部から日吉の慶應高校へ進学。
自宅が新宿にあったせいか、友人たちと遊んだ場所として
都内の盛り場があちこち出てくる。

 中学生や高校生がそんなところで遊んでていいのか?
 って思った場所も。

北関東の片田舎に育って、野原の中を自転車で走り回って遊び、
最寄り駅は1時間に電車が3本という県立高校へ進んだ私。

ことさら泉氏の環境が羨ましいとは感じないが、
こういう場所で育った人にしか書けない文章ってのも
あるんだなあ・・・とは思った。


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ミステリマガジン700【国内編】 創刊700号記念アンソロジー [読書・ミステリ]

ミステリマガジン700 【国内篇】 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

ミステリマガジン700 【国内篇】 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2014/04/24
  • メディア: 新書



評価:★★★

【海外編】で、柄にもなく "ミステリの定義" なんてものを
書いてしまって、ちょっぴり反省してる。

誤解されたくないのだが、
(私基準の)ミステリだから評価して、非ミステリだから評価しない、
なんてことは全くない。

ミステリでもつまらなかったり気に入らない作品はたくさんあるし
非ミステリでも面白いもの、大好きな作品はたくさんある。

実際、今年になって読んだ本が10月末までで約120冊あるんだけど、
いわゆるミステリ(謎解き要素が多めの作品)が50冊、
非ミステリ(私の分類で)が70冊と、ミステリでない方が多い。

 もちろん、非ミステリの中にも、人によっては
 「これはミステリだ」って分類する人もいるだろうけどね。

閑話休題。

今回は日本編。作品紹介と合わせて、
作家さんにまつわる個人的な思い出も、ちょっと書いてみた。


まずは、とても面白かったのは次の2編。
実は両方とも個人短編集で既読だったよ(^_^;)。

「少年の見た男」原尞
 私立探偵・沢崎の元に現れたのは10歳の少年。
 "西田サチ子" という女性の護衛を頼みに来たのだ。
 少年の正体と依頼理由に疑念を抱きながらも行動を起こす。
 サチ子の勤務先から、彼女を尾行して銀行へ入った沢崎は、
 そこで二人組の銀行強盗に遭遇する・・・
 ハードボイルドなんだけど、きっちりとした伏線と意外な真相。
 ものすごく本格ミステリな作風で大好きな沢崎シリーズ。
 短編集で既読のはずだったのだけど、すっかり内容を忘れてた。
 惜しむらくは超寡作なこと。
 いちばん最近の長編作品「愚か者死すべし」が2004年だから、
 もう10年以上沈黙してる。病気なのかと心配してしまうよ。

「船上にて」若竹七海
 短編集で既読のはずだったのだけど、(以下同文)。
 1920年代。ニューヨークに滞在していた主人公は、
 大西洋ーインド洋回りで日本へ帰ることにする。
 乗り込んだ客船で知り合った元宝石商のジェイムズ・ハッターから、
 彼が若い頃に巻き込まれた盗難事件の話を聞く。
 密室状態の部屋からダイヤの原石が消え、
 ジェームズは犯人として逮捕、収監されたという。
 しかし、彼を救ってくれたのは意外な人物だった。
 "ミステリ" マガジンと銘打ってある割には、
 (私基準だが)あんまりミステリっぽくない話ばかり収録されてる
 このアンソロジーの中では、珍しく(笑)まっとうな謎解きミステリ。
 ラスト一行が鮮やかに決まる。
 若竹七海も好きな作家で、既刊本はだいたい読んでる。
 ここ数年、寡作になってませんかね。


(私基準の)ミステリとして良く出来てるなあ・・・てのが2編。

「寒中水泳」結城昌治
 広告会社へ勤めながら細々と絵の勉強を続ける "私"。
 美術学校時代の同級生・ミノルが、川に落ちて溺死する。
 保険金目当ての自殺かとも思われたが、ミノルの妹・ユキは
 兄は何者かに殺されたのだと "私" に訴える。
 容疑者は同級生だった二人。
 自分の才能を見切り、大学の美術史講師に転身した花岡二郎。
 新進気鋭の画家として同期のトップを走る五味伍平。
 張った伏線をきちんと回収し、ラストが綺麗に決まって、
 短編ミステリのお手本みたいな作品。

「クイーンの色紙」鮎川哲也
 安楽椅子探偵ものの<三番館のバーテン>シリーズは、
 けっこう前に創元推理文庫で再刊されて、
 全巻読んだはずなんだけど、すっかり忘れてる。トシだなあ。
 日本を訪れたエラリー・クイーン(フレデリック・ダネイ)夫妻。
 二人を主賓に開かれたパーティで、翻訳家の益子田は
 色紙にダネイ氏のサインをもらった。
 しかし、彼の家に友人たちが集まった際にその色紙が盗まれる・・・
 鮎川哲也をはじめ、多くの作家や編集者などが実名で登場する。
 その意味では当時のミステリ界の様子が窺える楽しい作品。
 紛失事件の真相はまさに盲点なんだけど、普通は気づくよなあ・・・


(私基準の)ミステリ度が高いか低いかに関係なく、
それなりに楽しめたのが7編。

「ドノヴァン、早く帰ってきて」片岡義男
 18歳で志願兵となり、ベトナムへ従軍したドノヴァン。
 4年後、除隊してオクラホマへやってきた。
 入隊の時に別れを告げた恋人・ジャニスに再会するために。
 4年の間に、変わってしまった自分を彼女はどう思うだろうか・・・
 「幸せの黄色いハンカチ」みたいな話だなあと思っていたら
 ちょっと苦めのラスト。この後二人はどうなるのだろう。
 たぶん、片岡義男の作品は今回初めて読んだ。

「聖い夜の中で」仁木悦子
 主人公は、来春には小学校入学を迎える少年・ひろむ。
 育ててくれた祖母が亡くなり、別居していた母と暮らし始めた。
 クリスマスの日に、ひろむは一人の男と出会う。
 彼は、自分を裏切った女に復讐するために、
 刑務所を脱獄してきたところだった・・・
 昔、短編集で読んだはずなんだけど、(以下同文)。
 本作は作者の絶筆なのだが、そのせいか、もの寂しい雰囲気の作品。
 哀しいサスペンスではあるけどミステリではないなあ。
 仁木兄妹シリーズは大好きだったよ。

「『私が犯人だ』」山口雅也
 教え子の女子高生・レノラに入れあげたあげく、
 全財産をなくした教師・チャールズは、レノラとともに逃避行に出る。
 しかし、金の切れ目が縁の切れ目。
 豪雨の中、辿り着いた無人の屋敷内でレノラと諍いを起こし、
 彼女を死なせてしまい、自らも気を失ってしまう。
 目覚めたチャールズの回りでは警察官たちが捜査の真っ最中。
 しかし誰もチャールズの存在に気がつかない・・・
 チャールズが熱愛するポオの世界を舞台に展開する不可解な物語。
 最後はちゃんと合理的に説明されるんだが、
 ラストまで奇妙な雰囲気が持続するのはたいしたもの。
 出世作「生ける屍の死」も読んだけど、
 あっちのほうは今ひとつよく分からなかったなあ。

「城館」皆川博子
 今年86歳になろうという大御所作家さん、62歳の時の作品。
 兄は勉学のために母とともに欧州へ行き、
 父とも離れて祖母と暮らす、主人公の少年。
 ある日、祖母の屋敷の奥の間から一人の女性が現れる・・・
 幻想的な雰囲気なのだけど、その背後には
 少年にとって厳しい現実が隠れている。
 未だに大作・話題作を発表し続けている人なので
 読みたいとは思っているのだけど、何しろ長い時代にわたって
 膨大な作品を発表しているので、どれから読んだらいいのか迷う。
 とりあえず、この間文庫になった「双頭のバビロン」は買ったんだけど
 例によって積ん読の山に埋もれているんだなあこれが・・・

「川越にやってください」米澤穂信
 「氷菓」に始まる古典部シリーズでブレイクし、アニメもヒット。
 日本推理作家協会賞(短編部門)も受賞、直木賞候補になったり
 本屋大賞候補になったりと大活躍の人だね。
 昔、こんな夢を見た・・・というエッセイ風のショートショート。
 私(作者)が夢の中でタクシーを拾い、川越に向かう話。
 "夢" と断っているのにちゃんとオチがある。
 だったら "夢" なんて言わずに普通の作品にすればいいのに・・・
 とも思ったが、ラストに来て納得。
 あの一行が書きたかったんだねえ・・・

「交差」結城充孝
 互いに殺意を抱く4人の人間が、
 スクランブル交差点上の一点に集まっていく。
 錯綜する4人の思惑を上手に裁く、"交通整理" ぶりが見事。
 女性警官「クロハ」シリーズの人だったんだね。

「機龍警察 輪廻」月村了衛
 テロ対策のために、人型近接戦闘兵器<機甲兵装>を導入した
 警視庁特捜部SIPD(Special Investigation Police Dragoon)の
 活躍を描く、ハードボイルド・アクションSFシリーズの短編。
 ウガンダの反政府組織の武器調達幹部が来日、
 しかし彼が接触したのは医療機器メーカーの社員だった・・・
 長編シリーズと異なり、機甲兵装の登場シーンはないが
 特捜部メンバーの意気込みが伝わってくるストーリー。


ミステリの間口を広げること自体に反対はしないけど、
次の8編は、私の好みからはかなり外れてるなあ・・・。

「ピーや」眉村卓
 その男は、一匹の猫と暮らしている。「ピー」は猫の名だ。
 毎日仕事が終わると、自分の食事と猫のエサを買って帰る。
 周囲の人々は、男の周囲に漂う異臭に気づく。猫の臭いだ・・・
 ホラーっぽいSFって感じかなあ・・・

「幻の女」田中小実昌
 他の男のもとへ去ったシズ子を、渋谷の路上で見かけた "おれ"。
 アメリカにいるはずが、いつの間に帰ってきたのか。
 見失ったシズ子を探しまわり、ついに見つけるが・・・
 一人称での語り口は軽妙だが、このオチは好きになれないなあ。

「離れて遠き」福島正実
 愛人・美子を殺し、バンコックへ逃亡してきた "彼"。
 彼女とのことを回想しつつ、退廃的な時間を過ごしていく・・・
 一人称と三人称が混在してて読みにくく、
 分かりにくいのもあるかも知れないけど、好きになれない話だなあ。
 福島正実はやっぱりSFの人だよねえ。
 彼が訳した「夏への扉」(ロバート・A・ハインライン)なんて、
 いまになってみると訳語がかなり時代を感じさせて
 古くさい部分もあるけど、独特の味があって私は好きだなあ。
 別の人による新訳が数年前に出たけど、
 福島正実の旧訳版が文庫で再刊されたりしてて、
 やっぱり根強い人気があるんだろうなと思う。

「温泉宿」都筑道夫
 温泉宿へやってきた男女の二人組。
 ところがどこの旅館でも宿泊を断られてしまう・・・
 よくあるタイプの怪談かと思わせて
 ホラーでも何でもない終わり方。一体何だったのでしょう。
 ミステリもSFも書く人だったけど、
 この人の書くSFは今ひとつだった記憶が。
 本格ミステリである「キリオン・スレイ」シリーズは
 好きだったんだけどね。

「暗いクラブで逢おう」小泉喜美子
 作家の夢を諦め、深夜クラブのマスターへ転身した男。
 常連客が多く訪れる彼のクラブの、一晩の様子を描いている。
 でも、それだけなんだよねえ。
 昔、NHK銀河テレビ小説(古!)でやってた「冬の祝婚歌」。
 その原作が小泉貴美子の「弁護側の証人」だった。
 ドラマの方はけっこう好きで一生懸命見ていたんだけど、
 原作小説を手に取ったのはけっこう後だったなあ・・・
 何年か前に再刊されたので再読した。
 そのときの記事も、このブログの中にアップしてあるはず。

「閉じ箱」竹本健治
 深い霧が立ちこめる中を歩く、ブラウン神父と思しき人物。
 彼の前に一人の男が現れ、
 犯罪の解決と不確定性原理について語り出す。
 ミステリの有名キャラが出てくればミステリなのか?
 ちょいと素朴な疑問が。
 この人、「ゲーム三部作」はけっこう面白かった記憶がある。

「鳩」日影丈吉
 病気治療のために、丘の上にそびえる大学病院へ入院した "私"。
 手術も無事に終了し、療養生活に入るが、
 やがて病院に大量の新人看護婦がやってくる。
 しかし、古参のベテラン看護師たちとはそりが合わない様子だ・・・
 ラスト1ページで、物語は予想の斜め上どころではない
 遙か彼方へ飛んで行ってしまう(まさに文字通り)。
 ファンタジー? 不条理小説? いわゆるシュールレアリスム?

「怪奇写真作家」三津田信三
 写真集の企画を考えていた編集者である "僕" は
 ある女性から沐野好(もくの・よしみ)という写真家を紹介される。
 刀城言耶シリーズは大好きなんだけど、
 ホラーはやっぱり苦手だなあ。


これは私には評価不能。

「死体にだって見おぼえがあるぞ」田村隆一
 ミス・マープルを題材にした詩です。文庫で3ページです。
 詩はよく分かりません。ごめんなさい。
 クリスティーの翻訳でよく名前を見た人。
 翻訳専業の人かと思ってたら、本職は詩人だったんですね。


最後はリレーコラムから5編を収録。書かれたのはみな1958年の前半。

「証人席」山田風太郎・渡辺啓助・日影丈吉・福永武彦・松本清張
 読んでみると、当時の国内ミステリの状況の一端が窺える。
 そのころは、ミステリ(当時は「探偵小説」かな?)というものが
 今ほど市民権を持っていなかったのだろうな・・・と。
 そして、執筆者5人それぞれのミステリに対する思いも伝わってくる。
 それは期待だったり不満だったりするけれど、
 ミステリのよりいっそうの興隆を、みんな願っている。


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午後からはワニ日和 [読書・ミステリ]

午後からはワニ日和 (文春文庫)

午後からはワニ日和 (文春文庫)

  • 作者: 似鳥 鶏
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2012/03/09
  • メディア: 文庫



評価:★★★☆

聞くところによると、動物園や水族館の飼育員って
求人が少なく(原則として欠員が出ないと募集すらない)、
希望する人は北海道から沖縄まで情報を集めて、
空きが出ればどこでも行きます、というくらいの覚悟がないと
就けない仕事らしい。

それくらいの思いをして働いているわけだから、
みなさん動物への愛情に溢れていて、
それは本書に登場する飼育員たちも同様だ。


楓ヶ丘動物園で爬虫類館から、一匹のイリエワニが盗まれた。
現場には「怪盗ソロモン」を名乗る張り紙が。
体長1m50cmと小柄ながら、獰猛なクロコダイルを
衆人環視下の状況から盗み去った鮮やかな手口。

園が事件の対応に追われるうちに第二・第三の犯行が起こる。
高価でもなく希少でもない動物を盗み続ける犯人の目的は何か?

主人公かつ語り手は飼育員・桃本くん。
彼をはじめとして、動物園で働く職員や
飼育されている動物たちの日常生活の描写が楽しい。
今流行りの "お仕事小説" でもある。

事件の内容や、最後に明かされる真相はけっこうシリアスなんだが
ユーモアあふれる桃本くんの語り口のおかげで
暗い雰囲気にならずに済んでいる。

動物たちの生態も面白いのだが、それに輪をかけて楽しいのが
個性溢れる職員たちだ。

その双璧はこの二人。
ミステリオタクで、自他共に認める "変態"(笑) である服部くん。
美人の獣医さんなんだけど、年齢のことに触れられると
突如 "狂乱" する(笑)、鴇(とき)先生。

そして、動物園のアイドル・七森さんは
何かしらの心配事を抱えていそう。

その他大勢の職員たちと動物たちが遭遇した大事件が綴られていく。

桃本くんが探偵役かと思いきや、実はワトソン。
ホームズが誰かは読んでのお楽しみ。


本書はシリーズ化されていて、続巻が既に2冊出ている。
桃本くんを巡る恋愛模様も、進展があるのでしょうか。
続巻2冊も手元にあるので、あまり間を置かずに読む予定。

積ん読がごっそりあると、こういうことができるんだよねえ・・・


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