影踏亭の怪談 [読書・ミステリ]
評価:★★☆
ある日、姉の自宅を訪ねた "僕" は、椅子に固定されて、両まぶたを縫い止められて昏睡状態にある姉を見つける。現場は密室、しかもまぶたを縫っていたのは姉自身の頭髪だった。
姉は怪談作家だった。この異様な事態は、彼女が取材していた霊現象に関係しているのか?
第17回ミステリーズ!新人賞を受賞した表題作を含む連作短編集。
「影踏亭の怪談」
本名にちなんで "呻木叫子(うめき・きょうこ)" というペンネームで怪談作家をしている姉。彼女の自宅を訪ねた弟の "僕" は、密室の中で異様な姿となった姉を発見する。昏睡状態の彼女は両手両脚を粘着テープで椅子に固定され、両まぶたは自分自身の頭髪を使って縫い止められていた。
姉が取材していた霊現象に関係しているのか? "僕" は姉が巻き込まれる直前に宿泊していた、栃木県にある影踏(かげふみ)亭という旅館を訪ねる。しかしそこで密室殺人が起こってしまう・・・
「影踏亭」に続く3作は、怪談作家・呻木叫子の遭遇した事件の記録として描かれる。
「朧(おぼろ)トンネルの怪談」
栃木の山中に、"朧トンネル" という心霊スポットがあるという。そこへ男女4人組の大学生が、深夜に車でトンネルまでやってくる。体調を崩した女子を車中に残し、3人はトンネルの探検に出かけるが、その間に残っていた一人が姿を消してしまう。
その事件を取材に来た呻木を加え、4人で再び現場にやってくるが、今度はトンネル内で男子学生が殺されて頭部を持ち去られてしまう。しかも、両側の出口にはそれぞれ人がいて、カメラ撮影をしていた。その映像には、出入りした者は映っていない・・・
「ドロドロ坂の怪談」
福島県の村には、全身真っ黒の幽霊が出るという "ドロドロ坂" があった。坂の近くに住む友人の望月法子から「息子が神隠しに遭った」との連絡を受けた呻木は村を訪れる。
そこで出会ったのは、怪談の取材にやってきたライターの陣野真葛(じんの・まくず)とカメラマンの十和田(とわだ)いろは。その十和田が、泥まみれの死体となって発見される・・・
「冷凍メロンの怪談」
埼玉県久喜市にある、幽霊が出るという廃工場を取材していた呻木が負傷した。落下してきた冷凍メロンが頭を直撃したという。
しかし、上階には誰もおらず、取材のために回していたカメラでも上階に向かう者は確認できない。誰がどうやってメロンを落としたのか・・・
ホラー・ミステリといってもいろいろあって、ホラーの衣を被ったミステリもあるし、ミステリと銘打ちながらホラーな結末だったりする。ちなみに私は後者は苦手である。
本書は後者に属するもの。不可解な事件・事態が発生するが、犯行方法や犯人については合理的な解釈が示される。しかし解決されない部分も残り、「影踏亭」~「ドロドロ坂」までは、いささか消化不良感が残る作品群になってる。
そして最後の短編は「冷凍メロン」なんてトボけたタイトルだが、内容は先行する3編とリンクしていて、4編に共通して潜んでいた事実が明かされ、積み残しの謎も部分的に解明される(あくまで "部分的に" だ)。
だから最後まで読んでも、説明できない不可解な(要するに怪談的な)現象が残される。それがまたけっこう気持ち悪い。読後感はホラーそのもの。
まあタイトルが ”怪談” なんだから当たり前だろう、と言われればそれまでなんだけど。
私はミステリを名乗るのであれば、やっぱり最後には謎はきっちり解明されてほしいと思う。まあ、スパイス的にちょっぴり不思議や怪奇が残ってもいいけど、それが主体になってしまうような結末は嫌だなぁ。
ミステリは事件が起こって混乱や渾沌が発生しても、ラストの真相解明によって秩序と平穏が回復される。できれば "正義" も(何を以て正義とするかは作品ごとに異なるだろうけど)。そういうジャンルだと思っているんで。
その意味では、この作品には私の考えるミステリとはかなりの "ずれ" を感じてしまう。こういう作品が大好きな人がいるであろうことは否定しないけど。
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