人ノ町 [読書・SF]
評価:★★
かつて栄えていた高度な文明が衰退した、おそらくは遠未来と思われる地球。そこを旅する女性が6つの町を巡っていく。行き先々で出会う人々の営みに関わりながら。やがて明らかになる彼女の目的と正体とは・・・
文明が崩壊しつつある世界を巡る旅人は、さまざまな町を訪れる。そこで行われる、人々の不思議な営みや、不可解な事件の中に、"意味" を見いだしていく連作短編集。
広義のミステリとも云えるが、それよりはファンタジーやSFの雰囲気の方が勝るように思う。
「風ノ町」
旅人がやってきたのは、常に風が吹いている町。
いたるところに風車があり、動力や発電装置として利用されている。そこで旅人は風来(フェンライ)に出会う。風を動力として動き続ける、大小様々な骨格模型のような装置だ。
その町では、先週、風車を管理している電力屋が亡くなった。風で折れた風車の羽根に押し潰されたのだと云うが・・・
「犬ノ町」
凍死寸前だった旅人は、一頭の老犬に救われた。辿り着いたのは犬ノ町。
老犬の飼い主は旅人を町に住む学者と引き合わせる。学者は考古学的、生物学的、あるいは社会学的観点から、"犬" の定義について長々と語り始める。
そして翌朝、学者は死んでいた。自殺か他殺か判然としない状況で・・・
「日ノ町」
一年を通して日差しが強く乾燥した気候。乏しい農作物で細々と生きる町。
しかしそこには "玉座" があった。巨大な立方体の形状をした、用途不明の建造物だ。
旅人は聖職者と思われる男と出会い、"玉座" について問う。しかし男も町の住民たちも、何らかの宗教施設であろうくらいの認識程度しかないようだ。
旅人はひそかに "玉座" への潜入を図るが・・・
"玉座" の正体はけっこう意外。読んでいると忘れそうになるが、この世界は遠未来なのだと云うことを改めて思い出させる。
「北ノ町」
一年の大半を氷に閉ざされる海岸にあり、極光(オーロラ)が見られる北ノ町。
旅人はそこで "氷穴掘り" に就く。氷河の底から、旧文明の遺物を掘り出す仕事だ。しかし仕事の初日に、旅人は氷の中に人の屍体を見つけてしまう・・・
「石ノ町」
無数の石積みが残された廃墟の町。そこに旅人と商人と医師が訪れる。そして町中では医師が何者かに襲われる。襲撃者は、注射器で医師の血液を抜いていったというのだが・・・
「王ノ町」
大河を挟んで栄える町。そこを統べる王は、一代でこの町を築いたという。
治安を守り、争いごとを鎮め、堤防を築いて災害を防ぐ。治水のための堰堤(川の流れをせき止める小規模なダム)上に居を定めている。
そこへやってきた旅人は、王が会談を希望していると告げられる・・・
4話目の「北ノ町」のラストは驚かされた。なんとなく6つの話は時系列順になっていたと思い込んでたのが、実はランダムに並んでるのかも? って。
でも次の「石ノ町」でその疑問は氷解する。同時に旅人の正体も目的も明らかに。
そして「王ノ町」に至ると、旅人は○○○○○○○だった可能性に気づかされる。
基本はSFで、異世界ファンタジー的雰囲気も強く感じる短編群なのだけど、最後まで読んでみると意外とミステリ要素も潜んでたんだなと思った。
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