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優等生は探偵に向かない [読書・ミステリ]


優等生は探偵に向かない 自由研究には向かない殺人 (創元推理文庫)

優等生は探偵に向かない 自由研究には向かない殺人 (創元推理文庫)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2022/07/19

評価:★★★★


 前作『自由研究には向かない殺人』で、5年前の少女失踪事件を見事に解決へ導いた女子高生ピップ。一躍、時の人となってしまうが、友人のコナーから失踪した兄・ジェイミーを探してほしいという依頼をされる。
 前回の事件で懲りたピップは一旦は断るのだが、コナーの捜索願に対して全く動こうとしない警察に業を煮やし、ついに自ら調査に乗り出すことに・・・


 本書の構成について、いくつかの書評などでも触れられているのだが、ここでも書いておこう。

 本作の序盤に於いて、前作『自由研究には向かない殺人』のネタバレがある。ストーリーの展開上、やむを得ない部分もあるのだが、前作を未読の人にはいささか敷居が高くなっている。

 前作に引き続いて登場する人物も多い。前作の失踪事件捜査の途中で、別件で判明した犯罪については裁判が進行中だし、前作で残された謎の一部も今作の中で明らかにされる。
 さらに云えば、本書の中で起こる事件・イベントには、本書の中で解決される部分と次作へ持ち越される部分とがある。

 いま手元に第3作かつ完結編の『卒業生には向かない真実』があって、序盤を読んでいる途中なんだが、登場人物一覧を見ると1作目、2作目に登場した者も多数載っている。
 もっと云うと、『卒業生には-』の冒頭には、本作『優等生には-』のネタバレがあったりする。
 つまりこのシリーズは、3部作を通して "ひとつの大きな物語" を形成している。そして本書は、前作の続編というより全3話の中の第2話、という位置づけなのだろう。

 前作を読まずにいきなり本作から入る人は少ないだろうが、いちおう書いておこう。
 第1作『自由研究に-』を読んでから、本作にとりかかることを強く推奨する。前作も充分に面白い本格ミステリなので、読んで損はないかと。

 前置きが長くなってしまった。内容紹介に入ろう。


 イギリスの田舎町リトル・キルトンを揺るがせた5年前の少女失踪事件を、見事に解決へ導いたピップは一躍、時の人となってしまう。さらに捜査のあらましをポッドキャスト(YouTubeの音声版みたいなもの)で配信したところ大人気となり、60万人ものリスナーを得てしまう。

 そんなとき、友人のコナーから失踪した兄・ジェイミーを探してほしいという依頼をされる。
 ジェイミーは、先日行われた慰霊式典(5年前の少女失踪事件で亡くなった若者たちを弔うもの)に参加し、その夜から家に帰っていない。コナーによると、その2週間ほど前から様子がおかしかったのだという。

 ピップは彼に同情は覚えるものの、前作の事件に関わったことで自分や家族が被ったダメージ、危険や恐怖の体験を思うと、とても引き受けられない。

 しかし、コナーとともに地元の警察に捜索を願い出たところ、日々山積する犯罪捜査で手が回らないと、門前払いされてしまう。業を煮やしたピップはついに自ら調査に乗り出すことにする。

 ピップはSNSの力をフル活用する。60万人のリスナーにも協力を求め、情報を集めていく。やがて、失踪した夜のジェイミーの足取りが徐々に明らかになっていく。彼はどうやら慰霊式典で "ある人物" を見かけ、会いに行ったのではないかと思われた。

 その人物とは誰か? それもまたSNSを介して知り合ったのではないか?
 そしてピップの懸命の捜査は、意外なことに過去に起こった重大犯罪へとつながっていく・・・


 前作でタッグを組んだラヴィ・シンは、今作でもピップの頼れる相棒として登場する。捜査の過程で接触する相手が、第1作とけっこう重複しているのは、やはり小さい街だからかなぁ・・・なんて思っていたんだが、最後まで読み終えてみると、いろいろ考えさせられる。

 前作から登場していた人物の ”裏の顔” が、本作で明らかになったりする。おそらく作者は、第1作を執筆していた時点で、3部作全体を見据えての人物配置をしていたのだろう。
 もちろん本作が初出の人物にも、大きな役回りが振られていたりするのだが。


 当初は、若者にありがちな単純な家出かと思われたジェイミーの失踪が、過去の重大事件へとつながっていく。何が起こっていたかはネタバレなので書かないが、これについてはけっこうスケールが大きくて、本作の中に収まりきれず、その一部は3作目へと引き継がれていくことになる。


 17歳の少女がSNSをはじめ、ネットの力を駆使して情報を集めていく。現代ならではの探偵活動だが、その一方で、ネットで名が挙がればアンチもまた現れる。彼女に対して否定的な書き込みのみならず、中には脅迫めいたものまで。いわゆるネット社会の闇も描かれ、これもまた現代ならでは。
 いくらピップだってハガネの神経を持ってるわけではないので、それなりに傷ついてしまう。かと云って、簡単には挫けないのは流石だが。

 そして、もう一つ感じたのは "司法の限界" ということ。詳しく書くとネタバレになるのだが、(いろんなケースがあるのだろうが)罪を犯しても罰せられない人間というのは存在する。ピップは本書の中でその事実に直面し、ショックを受ける。
 このあたりの描写はけっこう深刻なものがあり、ラスト近くでピップはいささか精神的に不安定な状態になってしまったように見えて、心配になってしまう。

 いちおうはヤングアダルト作品なので、彼女はこの ”壁” を乗り越えてくれると信じてはいるのだが。
 そのあたりもひっくるめて、次作においてシリーズに決着がつくのだろう。



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