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クメールの瞳 [読書・冒険/サスペンス]


クメールの瞳 (講談社文庫)

クメールの瞳 (講談社文庫)

  • 作者: 斉藤 詠一
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2023/06/15
  • メディア: 文庫

評価:★★★


 主人公・平山北斗(ひらやま・ほくと)は、大学の恩師・星野教授から電話を受ける。「預けたいものがある」と。しかしその2日後、星野は不審な死を遂げてしまう。
 友人の栗原均(くりはら・ひとし)と星野の娘・夕子(ゆうこ)とともに教授の遺品整理を始める北斗。恩師の死とメッセージの謎を追う3人は、やがて「クメールの瞳」と呼ばれる秘宝の争奪戦に巻き込まれていく・・・


 大学の理学部で鳥類学を専攻していた平山北斗は、卒業後はIT企業でSEとして働きながら、副業として鳥専門のカメラマンをしていた。ある日、大学の恩師だった星野教授から電話を受ける。「預けたいものがある」と。
 しかしその2日後、星野はフィールドワーク中に崖から転落死してしまう。

 北斗は大学で同期だった友人の栗原、星野の娘・夕子とともに教授の遺品整理を始めるが、その中に星野が北斗あてに残したメッセージを見つける。
 どうやら、何か大事なものがどこかに隠してあるらしいのだが、具体的なことは書かれていない・・・


 物語は、2つのラインで進んでいく。
 ひとつは北斗・栗原・夕子が、星野の死の真相と、彼が隠した遺品に迫っていく、現代のストーリー。
 もうひとつは、19世紀のインドシナ半島から始まる過去編。カンボジアの遺跡で発見された秘宝「クメールの瞳」が辿る、数奇な運命が語られていく。

 「クメールの瞳」は一見すると水晶のペンダントだが(文庫表紙の中央に描かれている)、実は、"不思議な力" が備わっており、それを手にするものには大いなる利益がもたらされる。

 この2つはストーリーが進むとひとつに合流し、北斗たちの恩師の死因を探る行動は、秘宝を巡る争いへと変貌していく。
 「クメールの瞳」奪取を目論む勢力が登場し、北斗たちも生命の危機に晒されていく。星野教授の "高校時代の親友" と名乗る謎の男・塩谷(しおや)の存在も不気味だ・・・


 第64回(2018年)江戸川乱歩賞を受賞した『到達不能極』に続く、2作目が本書だ。

 前作の印象があったから、表紙のイラストを見て、てっきり「こんどはインディ・ジョーンズか!」って思い込んでしまったよ。日本を飛び出して東南アジアあたりのジャングルを駆け巡る秘境冒険小説かな? ってね。

 南極を舞台に、第2次大戦のナチスドイツを登場させるなどスケールの大きな冒険小説だった前作『到達不能極』。
 ただ、終盤に至ると御都合主義的展開が目立って、いささか失速した感は否めなかった。大風呂敷を広げたはいいが、その畳み方が今ひとつだったというか。そのあたりをけっこう叩かれたんじゃないかなぁ・・・と推察する。私だって「いくらなんでも、それはないだろう」って思ったし。

 でも、こういう "壮大な法螺話" って嫌いじゃないんだよねぇ。『終戦のローレライ』(福井晴敏)なんて、私の好きな小説のトップ3に入ってるくらいだから。

 前作で受けた評価のせいかは分からないけど、本書では ”安全運転” になったのかな?というのが読後の第一印象。(過去編はともかく)現代編は国内のみで完結するなど、舞台もずいぶんコンパクトになった。

 現代編のストーリーも、普通の(?)サスペンス・ミステリとして進行していく。終盤ではそれなりにアクション・シーンもあり、そつなく破綻なくまとまってると思う。

 でも、この作者さんに私が期待してたのとはちょっと違うかなぁ。でもそれは私の勝手な思い込みで、わがままな言い分なんだろう。何を書くかは作者が決めることなんだから。

 文句ついでに、もうひとついちゃもんをつけると、主人公カップルである北斗と夕子(いま気がついたけど『ウルトラマンA』みたいなネーミングだ)の関係も、もう一段踏み込んでほしかったなあ。そのへんも、不完全燃焼を感じる理由の一つだ。
 それとも、そこも『A』をなぞってる? まさかね。


 巻末の解説にもあるけど、"この手の話" を書いてくれる作家さんって、いそうでいない。だから貴重だと思う。
 ぜひぜひ、いつかデビュー作を超えるような "壮大な法螺話" を書いてほしいなぁって思ってる。



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