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幽霊鉄仮面 [読書・ミステリ]


幽霊鉄仮面 (角川文庫)

幽霊鉄仮面 (角川文庫)

  • 作者: 横溝 正史
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2022/12/22
  • メディア: 文庫


評価:★★★


 神出鬼没の怪人・幽霊鉄仮面が次々と事件を引き起こす。新聞記者・三津木俊助(みつぎ・しゅんすけ)と探偵少年・御子柴進(みこしば・すすむ)が立ち向かう。巨匠・横溝正史の遺したジュブナイル作品だ。


 角川文庫の横溝正史・復刊シリーズの一冊。江戸川乱歩ほどではないけど、横溝もジュブナイル作品を十数編書いている。その第1作だ。
 巻末の解説によると、初出は昭和24年の雑誌連載。でもwikiには昭和12年とある。どっちが正しいの?


 日本一の発行部数を誇る新聞に奇妙な広告が載る。そこには奇妙な鉄の仮面をかぶった人物が描かれており、宝石王として知られる実業家・唐沢雷太(からさわ・らいた)を揶揄するような内容だった。
 そして広告主の正体を調べていた新日報社の記者・折井が殺されてしまう。

 一方、唐沢雷太のもとには脅迫状が舞い込み、折井の同僚である三津木俊助に助けを求めてきた。俊助は予告の日に唐沢邸に泊まり込むが、そこに現れた鉄仮面の男に、唐沢ともどもさらわれてしまう。

 鉄仮面の犯行はこれで終わらず、再び新聞広告の形で次の ”標的” が予告される・・・


 本書の探偵役は、横溝正史のシリーズキャラである "由利先生" こと由利麟太郎(ゆり・りんたろう)と、新聞記者・三津木俊助のコンビが務めるが、由利先生の登場はかなり後になってから。

 代わって俊助とともに主役級の働きをするのは、唐沢の遠縁の者として登場してくる少年・御子柴進。ジュブナイル作品なので、読者に近い年齢のキャラの起用となったのだろう。

 物語は神出鬼没の怪人・幽霊鉄仮面と俊助たちとの丁々発止の対決が途切れなく続く。その合間合間にはいくつかの謎が提示されるが、それらはあまり引っ張ることなく解かれていく。難度も低く、若い読者にも容易に解ける、あるいは見当がつくものが多い。物語がダレるのを防ぎ、読者の興味をつなげるための展開なのだろう。

 冒険とサスペンスてんこ盛りの物語は、ハイテンションを保ったまま終盤まで続く。中盤過ぎでは、幽霊鉄仮面がつけ狙う者たちが、みな過去にモンゴルに滞在していたことが明らかに。仮面の由来もその地にあった。

 文庫で280ページほどなのだけど、ラストの50ページで舞台はすべての因縁の始まった地・モンゴルへと移り、由利先生・三津木俊助・御子柴進も大陸へ渡る。ここまで江戸川乱歩的雰囲気の作品世界で進んできた物語が、一気にインディー・ジョーンズみたいなアクション作品に大転換(笑)。

 幽霊鉄仮面の復讐の物語であると同時に宝探しの物語でもあるという、エンタメの二大要素をぶち込んだ贅沢な作品なのだけど、いかんせん尺が足りない。

 読んでいて、残りページがどんどん減っていくのに、一向に物語が収束しない(むしろ広がりそうなのをなんとか収めようとしてる感がある)のにやきもきしてしまう。実際、最後の数ページで描かれる急転直下の大団円にはびっくりだ。
 しかも、物語が終わってもいくつかの伏線は回収されずに ”投げっぱなし” になってる。

 「収拾がつかなくなった」という見方もできるけど、私はむしろ「構想が膨らみすぎて予定の枚数に収まらなかった」んじゃないかなぁと思う。だって、読んでると行間から「もっと枚数をくれぇ!」っていう横溝大先生の声が聞こえてくるような気がするんだもの(笑)。
 じっくり書いたら、文庫で400ページ近いボリュームになるよ、これ。ジュブナイル作品は長さの制約もキツかったんだろうなと推察。



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