ブラウン神父の知恵 [読書・ミステリ]
評価:★★☆
初刊は1914年。いわゆる "古典的名作" と呼ばれる作品集。丸顔で小柄で不器用なブラウン神父が探偵役として活躍する、全5巻シリーズの2巻目だ。
前巻の時にも書いたが、後続の作家や作品に取り入れられた、ミステリとして先駆的なトリック・発想・設定がてんこ盛り。
ただ、星の数が今ひとつなのは、いささか読みにくさを感じるため。改行の少ない文体に加えて、本題の事件に入るまでの描写が長かったり(そこに伏線が潜んでることもあるので一概に責められないが)。現代の作品に馴染んだ身からすると、ちょっとハードルが高く感じる。
「グラス氏の失踪」
マグナブ家に下宿していたジェームズ・トッドハンターという男が殺された。マグナブ家の娘マリーによると、彼のところをしばしば訪ねてくるグラスという男が犯人らしい。ブラウン博士は犯罪学者のフッド博士とともに現場に踏み込むが・・・
これもミステリではお馴染みのトリック。でも109年前にはもう使われてたんんだね。
「泥棒天国」
詩人のムスカリ、その幼馴染みのエッツァ、銀行家のサロゲイト氏とその娘エセル、ブラウン神父を加えた5人の乗った馬車が山超えに差し掛かったとき、盗賊が現れるが・・・
なかなかひねりの効いたラスト。文庫で30ページ足らずでこの展開を描くのはたいしたもの。
「イルシュ博士の決闘」
無煙火薬の発明者とされるイルシュ博士。しかし、盲目的な愛国軍人デュボスク大佐はイルシュ博士をドイツ人のスパイだと告発する。イルシュ博士は身の証を立てるために彼と決闘することになるが・・・
これも古典作品ではよく使われたトリックだけど、使われすぎて廃れてしまったネタかな(笑)。今これでミステリを書いたら噴飯物だろう。
「通路の人影」
アポロ劇場の横の通路の突き当たりには楽屋がある。女優のオーロラ・ロームがその通路で殺される。現場に居合わせた3人の男は、犯行の直前に人影を見たと証言するが、その姿はみな異なるものだった・・・
トリックは単純だけど、それが男たちの心理状態を描き出すのが秀逸。
「機械のあやまち」
オスカー・ライアンという服役囚が脱獄したが、すぐに捕まってしまう。オスカーは資産家トッド氏の殺害を目論んでいたのではないかとの疑惑が持ち上がり、嘘発見器にかけられることになるが・・・
機械を扱うのが人間である限り、過ちが入り込む余地は常にある。当時としては最新で画期的だったであろう嘘発見器に対して、こういう皮肉な作品が書けてしまう、その発想がすごい。
「シーザーの頭」
ブラウン神父は、酒場でクリスタベルという娘と出会う。彼女の父はコインの収集家で、コレクションを彼女の兄アーサーに遺した。ある日クリスタベルは、ふとした出来心でコレクションの中から硬貨を一枚くすねてしまうが、その日から彼女の周囲に不気味な男が出没し始める・・・
オチはありふれてるけど、物語の導入部はよくできてる。
「紫の鬘(かつら)」
エアー公爵家の当主は、魔女の呪いによって代々巨大な耳を持って生まれてくるという伝説があった。取材のために訪れた記者が会った現当主は、紫色の鬘をかぶって耳を覆い隠していた・・・
オチがついたあとに、もうひとひねり。上手い。
「ペンドラゴン一族の滅亡」
さまざまな伝説をもつ海賊船長を先祖に持ち、代々船乗りを生業にしているペンドラゴン家。現当主の父も兄も海難事故で亡くなり、今はたった一人の甥の帰りを待っているという・・・
伝奇的な歴史を持つ一族が住む島で起こる怪事件。日本が舞台だったら金田一耕助が出てきそう。
「銅鑼(どら)の神」
海岸沿いを歩いてホテルにやってきたブラウン神父とフランボウ。町でボクシングの試合が行われるとあって、ホテルは開店休業。支配人にここまでの道すがらの出来事を語るブラウン神父だが・・・
これは「木の葉を隠すには森の中」のバリエーションかな。
「クレイ大佐のサラダ」
英国砲兵隊のクレイ大佐は、家に強盗が入ったと主張する。彼の隣人パトナム少佐によると、クレイは未開地に住んでいたせいで時たま妄想にとらわれるのだというが・・・
これはオーソドックスなミステリだろう。
「ジョン・ブルノワの珍犯罪」
新進気鋭の思想家ジョン・ブルノワは高名な女優と結婚した。夫妻の家の隣には、資産家の有名人クロード・チャンピオン卿の豪邸があった。クロードはブルノワ夫人に思いを寄せていることを周囲に隠さず、彼女との仲を公然と見せびらかすようになっていった。そんな中、クロードが何者かに刺し殺される事件が起こる・・・
ジョンもクロードもかなり奇特なキャラだが、現実でもこんな人はいそうな気がする。いちばん謎なのはブルノワ夫人の頭の中かな。やっぱり、男にとって女は永遠の謎ということか(笑)。
「ブラウン神父のお伽噺(おとぎばなし)」
ブラウン神父は、ヨーロッパの小国ハイリッヒバルデンシュタインで20年前に起こった事件を語る。
ドイツから派遣されて小国を支配するオットー公は、徹底的な武装解除を命じて国中にあるすべての銃を没収してしまった。しかしそのオットー公が城の外の森で銃殺死体となって発見される・・・
銃がないはずの世界での銃殺事件。種明かしされて納得するか、ちょっとズルいと思うか(笑)。
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