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殺しへのライン [読書・ミステリ]


殺しへのライン ホーソーン&ホロヴィッツ・シリーズ (創元推理文庫)

殺しへのライン ホーソーン&ホロヴィッツ・シリーズ (創元推理文庫)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2022/09/12


評価:★★★★


 元刑事の探偵ダニエル・ホーソーンとミステリ作家アンソニー・ホロヴィッツがコンビを組んで、難事件を解決していくシリーズ、第3作。


 ホーソーンの活躍をホロヴィッツが小説化した第1作『メインテーマは殺人』の発売が迫る。そのプロモーションの一環として、2人はチャンネル諸島のオルダニー島を訪れる。そこで行われる文芸フェスに参加するためだ。

 ちなみにチャンネル諸島とは英仏海峡のフランス寄りにある島々のこと。巻頭に載ってる地図を見ると、オルダニー島は長径6kmくらい、短径2kmくらいの細長い島。
 wikiによると人口は2000人くらいと至って小さな島だ。第二次大戦時には、イギリス領で唯一ナチス・ドイツに占領された場所で、強制収容所も建てられていた。島内にはそこで亡くなった者たちの墓地もある。

 島で行われる文芸フェスには、TV番組で人気の料理人とその助手、盲目の女性霊能者とその夫、島在住の歴史研究家、人気シリーズを抱えた児童文学作家、フランス人の朗読詩人など、多彩な人物が参加する。フェスの主催者は島議会の議員を夫にもつ女性だ。

 序盤では、登場人物たちそれぞれが裏に何か事情を秘めていそうな、あるいは胡散臭さを感じさせるような、そんな細かいエピソードを語られていく。それを積み重ねていくことでじわじわと不穏な雰囲気を醸し出てくるあたり、職人芸だなと思う。

 しかし、島出身の実業家で、オンライン・カジノのCEOを務めるチャールズ・ル・メジュラーが登場すると、そのあまりにも強烈な個性で他の人物もかすんでしまうほど。
 登場後わずか数ページで読者は「なんていけ好かない奴だ」って感じるだろう。典型的な成金キャラ、上から目線の言動、そして無類の女好き。誰もが「殺されるのは絶対こいつだろう」って思わせる。作者の筆力はスゴいの一言だ。
 そして、読者のその "期待" は裏切られないとくる(笑)。

 彼はネットの事業で財を築いただけでなく、島の利権にも関わっていた。
 フランスからイギリスへ送電線を施設する計画があり、オルダニー島を中継点にする予定だった。送電線はル・メジュラーの所有する土地を通るので、計画が実現すれば彼は大儲けというわけだ。
 しかし環境破壊の問題もあって、計画への賛否は島を二分、反対運動に加わる者も多かった。ゆえに、島民の中にも彼を嫌う者は少なくない。

 そしてル・メジュラー邸で行われたパーティーの翌朝、屋敷の離れで彼の死体が発見される。遺体は手足をテープで椅子に固定されていたが、なぜか右腕だけは拘束されていなかった。

 何せ小さい島で、過去に凶悪事件が起こったこともない。ホーソーンは警察の捜査に協力することになる。

 しかし事件は終わらず、やがて第2の殺人が起こる。重要容疑者として浮上してきた人物が死亡してしまい、事件は解決したかと思われるのだが・・・


 もちろん、ラストではホーソーンによって真犯人が指摘されるのだが、毎度のことながら、読者を翻弄する手腕はたいしたもの。
 犯人に至る手がかりや伏線は、きちんと提示されていたのはもちろんなのだが、気づけないんだよねぇ。
 事件全体を眺める視点をちょっと変えれば、真相につながる道筋がきちんと見えてくる(って、読者に思わせる)ようにできているのは、やっぱり達人の技だなあと感心してしまう。


 今までこのシリーズは2冊刊行されているが、その中でホーソーンの過去や人となりが少しずつ明かされてきた。本書でもそれは踏襲されている。
 今回、ル・メジュラーの財務顧問として登場してくる人物こそ、彼がかつて警察を辞職することになった事件の中心人物だったのだ。
 そして、ホーソーンは探偵役ではあるのだけど、”純粋な正義の人” ではないのかも知れない、という可能性も示唆される。そのあたりは、今後のシリーズの中で語られていくのだろう。



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