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死仮面 [読書・ミステリ]


死仮面 (角川文庫)

死仮面 (角川文庫)

  • 作者: 横溝 正史
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2022/05/24
  • メディア: 文庫
評価:★★★

 横溝正史・復刊シリーズの一冊。
 短めの長編である表題作と、中編1作をふくむ作品集。


「死仮面」

 昭和23年、「八つ墓村」事件を解決した金田一耕助は、岡山県警の磯川警部から奇怪な話を聞く。

 岡山市にある野口慎吾というアマチュア芸術家の家から、女性の腐乱死体が発見された。遺体の傍らには、女性の顔をかたどったと思われる石膏製の死仮面(デスマスク)が残されていた。

 遺体は東京で人を殺して手配中だった女のものと判明する。野口は逮捕されるが護送途中で逃亡し、川に飛び込んで行方不明になっていた。

 東京に帰った金田一の事務所を、上野里枝という女性が訪れる。彼女の姉・川島夏代は参議院議員。なおかつ教育者でもあり、川島女学園の経営者だった。
 里枝はそこで教師をしているという。そして岡山で見つかった死体は妹の山内君子だと告げる。3人の姓が違うのはそれぞれ父親が異なるからだという。

 そして、姉・夏代のもとへ、君子のデスマスクと寸分違わぬものが送られてきた。デスマスクは複数つくられていたのだ。それを見た夏代は卒倒して寝込んでしまう。

 さらに、女学園の内外に謎の男の出没が目撃されるようになった矢先、夏代が死体で発見される。その胸の上には、新たなデスマスクが・・・

 巻末の解説によると、本作は雑誌に連載されたきり、単行本にまとまっていなかった。それは横溝自身が作品の出来に不満があり、全面改稿するはずだったから。しかしそれに取り掛かる前に亡くなってしまった。

 そういう目で見ると、いろいろ不備な気もしてくる。ミスディレクションも不十分で、おそらく多くの人はかなり早い時点で真相の見当がついてしまうのではないか。ミステリに関してはニブチンな私でも分かっちゃったし(笑)。

 また中盤から登場する白井澄子という女学生が、終盤に向けて物語展開上の重要人物になっていってしまうのも、いささかバランスを欠くように思える。

 もっとも、彼女はキャラクターとしてはとても魅力的だ。孤児だった彼女は川島夏代に引き取られ、女学園の寄宿舎で暮らしている。
 高校3年生だが、聡明さと勇気を併せ持ち、行動力も人望もある。作中では「さわやかな顔立ち」と描写されているので、美少女でもあるのだろう。
 彼女なら主役だって十分張れる。いやむしろ、彼女が主役の物語を読んでみたくなる。そう思わせるくらい素晴らしいお嬢さんだ。

 たぶん、作者もそのように書き直すつもりだったんじゃないかなぁ・・・なんて想像してる。


「上海(シャンハイ)氏の蒐集品(コレクション)」

 主人公は上海太郎という年齢不詳(たぶん初老くらい)のアマチュア画家。読者は何故そんな名前なのか疑問に思うだろうが、それは物語の終盤で明かされる。

 武蔵野の一角に住み着いた上海氏は、母親と2人暮らしの亜紀という女子中学生と言葉を交わすようになる。上海氏は彼女の成長を見守りながら4年の歳月が流れ、やがて亜紀は高校生になった。

 開発が進む武蔵野ではあちこちに工事が行われていた。亜紀は、団地を建築している現場監督と男女の仲になる。
 亜紀の母親は建設用地として自分の土地を売り、多額の財産を手に入れたが、若い愛人との情事に溺れ、娘とは不仲になっていた。

 そのような状況の中、殺人事件が発生して、上海氏はそれに巻き込まれることになる・・・

 金田一耕助は登場しない。ミステリというよりはクライム・ストーリーかな。最後に明かされる真相には、哀切の思いしかない。



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