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神々の宴 [読書・ファンタジー]


神々の宴 オーリエラントの魔道師たち 〈オーリエラントの魔道師〉シリーズ (創元推理文庫)

神々の宴 オーリエラントの魔道師たち 〈オーリエラントの魔道師〉シリーズ (創元推理文庫)

  • 作者: 乾石 智子
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2023/01/10

評価:★★★


 異世界オーリエラントで、市井に生きる魔道師たちの姿を描く5篇を収録したファンタジー短編集。


「セリアス」
 かつてホーサの民は、邪な魔法を使う異民族という誹りを受けて虐殺された。それを逃れてきたイザベリウスとロルリアの魔導師夫婦は、羊を飼い、農場を耕し、"修復" の魔法で村人を助けながら平穏に暮らしていた。
 しかし新たな総督代理人ボツモスは、2人の財産の没収を目論む・・・
 主役の二人が、辛い過去を抱えているにも関わらず、それを感じさせないのがいい。


「運命女神(リトン)の指」
 闘技場の花形・剣闘士。しかしその実態は奴隷で扱いは過酷だ。剣闘士バルカスを含む10人は逃亡を図り、3人の女魔導師のもとへ駆け込んでくるが・・・
 "紡ぎ手" のユーディット、"糸の切り手" のマレイナ、"織り手" のエディア。生まれも育ちも異なる3人組だが、彼女らが産み出す布地には魔法の力が宿り、剣闘士たちを救う。
 いわゆる "シェアハウス" 住まいの彼女らの言動がけっこう現代風なのも楽しい。


「ジャッカル」
 ギデスティンの魔道師(本の魔導師)・ケルシュは、ある夜、1人の少年を保護する。彼は狐に似た獣(ジャッカル)を連れていた。
 少年の名はミルディウス。小貴族・ナステウス家の長男だったが、父親の経営する瓦工場を破壊した容疑を着せられ、逃亡していたのだった・・・
 ジャッカルの正体は早々に明らかになるが、ファンタジーらしい設定。エピローグというか後日談が、なかなか良い余韻を響かせる。


「ただ一滴の鮮緑」
 チャファは "生命の魔導師"。今まさに死にゆかんとする者を冥府女神(イルモア)から呼び戻し、命を救う力を持っている。しかしその代償として、力を振るうたびに、彼女自身から若さが失われていく。それでも、目の前に死に瀕した者がいれば救わずにはいられない。
 チャファによって死の淵から生還した若者・モールモーは、老いが進みゆく彼女に寄り添いつづけるのだが・・・
 このまま終わってしまったら哀しすぎるよなぁ・・・と思っていたのだが、作者はしっかり、納得できる着地点を用意している。


「神々の宴」
 版図拡大を目指すコンスル帝国。妾腹に生まれた第四皇子・テリオスは14歳。ものの道理と公平さを身につけ、繊細な心を持っていたが、自らの意に反して小国ヴィテス征服の任を与えられる。
 軍勢を指揮するメビサヌスは、"所詮は田舎の豪族" と侮っていたふが、地の利を得るヴィテスの民によって散々に翻弄されてしまう。戦いを嫌うテリオスは意を決し、単身でヴィテス女王との会見へ臨むが・・・
 征服戦争の話ではあるのだが、テリオスの健やかさに癒やされる。彼の "その後" を語るエピローグがまた、よくできている。
 タイトルにある "神々" とは、物語中に登場する3人の男女神のこと。戦いを眺めながら酒盛りをするなど、意外と人間くさい(?)。神と云うよりは中国の物語に出てくる仙人みたいなイメージだなぁ。


 5篇に共通するのは、読後感の良いものがそろっていることか。読み終わった後、ちょっぴり元気がでるというか。
 ファンタジーには、ファンタジーだからこそ醸し出せる雰囲気や余韻があり、面白さがある。それこそが私がファンタジーを読んでる理由なのだろう。



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幽世の薬剤師2 [読書・ファンタジー]


幽世の薬剤師2(新潮文庫nex)

幽世の薬剤師2(新潮文庫nex)

  • 作者: 紺野天龍
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2022/10/28

評価:★★★


 鬼や神霊などの "怪異" が跋扈する異世界・幽世(かくりよ)へと迷い込んでしまった主人公・空洞淵霧瑚(うろぶち・きりこ)は、漢方の薬剤師だった経歴を活かして働き始める。
 彼が巫女・御巫綺翠(みかなぎ・きすい)とともに幽世で起こる疫病や怪事件に立ち向かう、シリーズ第2巻。


 空洞淵が開業した薬処・〈伽藍堂〉(がらんどう)に一人の少女がやってくる。彼女は神屋敷花喃(かみやしき・かなん)と名乗り、山奥にある隠れ里・〈神籠(かみごも)村〉からやってきたという。

 花喃は語る。
 村には "ミズチ様" と呼ばれる "神様" がいること。"ミズチ様" は毎年一人ずつ、村の娘を "娶る" こと。娶られた娘は、神の子を "身籠もる" こと。
 しかし、娘は次第に衰弱し、出産する前にみな死んでしまうこと・・・

 もちろん、その代償はある。"ミズチ様" は、村を貧困・飢え・災害・疫病から守り、繁栄と安寧をもたらしているのだと。

 今年選ばれた "花嫁" は、花喃の姉だった。花喃の願いは、なんとか姉を救うことだったのだ。

 "神の花嫁" といいながら、実体は "人身御供" ではないのか・・・憤る空洞淵に対し、幽世の慣習にいたずらに干渉すべきでないと説く綺翠。
 しかし空洞淵の意思は硬く、〈神籠村〉へ向かうことを決める。そして綺翠もそれに同行することになった。

 村に到着した2人は、旅の夫婦を装って逗留することに。
 空洞淵は、既に "妊婦" の状態に化してしまった花喃の姉を診察して、彼女の肉体に生じた変化の原因を探り始める。
 さらには、村の長老から昔の話を聞き出し、 "ミズチ様" の正体に迫ろうと試みるのだが・・・


 ファンタジー世界の物語ではあるが、いくつかの謎は合理的に解かれていく。
 例えば "神の花嫁" が "妊娠" する現象は、"こちらの世界" の理屈で説明される。私もこれは見当がついたよ。たぶん、過去に何かで読んで知っていたからだと思うけど。


 ミステリやファンタジーとしての面白さもあるけれど、キャラ同士の掛け合いも楽しい。空洞淵と綺翠の関係も、"近づきそうでなかなか近づかない、でも終わってみれば着実に距離は縮まってる" っという経過を重ねていくんだろう。

 今回、2人は夫婦者と偽ってるので、ひとつの部屋に泊まることになる。しかし朴念仁かつ超草食系の空洞淵くんのことだから、自分の方から迫っていくことはない。
 まあ、彼が若い女性と仲良くしてると機嫌が悪くなったりと、綺翠の方も憎からず思っていそうだから、迫っていっても邪険に扱われないような気もするが(笑)。

 あと本書では、途中からは槐(えんじゅ)という新キャラが登場する。こちらもなかなか魅力的で、どうやらレギュラーキャラになるみたい。空洞淵と綺翠の周囲は、だんだん賑やかになっていくのかも知れない。



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楽園の烏 [読書・ファンタジー]


楽園の烏 八咫烏シリーズ (文春文庫)

楽園の烏 八咫烏シリーズ (文春文庫)

  • 作者: 阿部 智里
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2022/10/05

 八咫烏(やたがらす)の一族が支配する異世界・山内を舞台にしたファンタジー・シリーズ、第2部の1巻目である。第1部から20年後の世界が描かれる。


 本書の主人公は安原はじめ。新宿の一角でたばこ屋を経営している男だ。三十路を越えて未だ独身という気楽な生活を謳歌していた。
 彼の父親・作助(さくすけ)は失踪していたが、7年経過したために法的には死亡扱いとなり、彼の子どもたちは遺産を相続することになった。はじめに遺されたのは「山」であった。

 僻地にあって財産的には二束三文だったが、なぜか「山を売ってくれ」という者が続々と現れる。
 訝しむはじめのもとに、"幽霊" と名乗る謎の美女がやってくる。
「あなたのお父様に頼まれた。あの山の秘密を教えましょう」

 "幽霊" に導かれるまま、はじめは「山」の "中" へと入っていき、やがて異世界・山内へと到達する。


 山内は雪斎(せっさい)という男が実質的に支配していた。「山」を手に入れようとしていたのは彼の手の者だったのだ。雪斎から改めて「山」を譲ってほしいと申し入れられるが、はじめは断り、しばらくこの世界に逗留することにする。

 雪斎から付けられた世話役の青年・頼斗(よりと)を連れて、はじめは山内の見物に乗り出すのだが・・・


 始まってから10年ほどにもなるシリーズなので、第2部の開幕に当たって、全く山内について知らないはじめというキャラをメインに持ってくるのは上手いと思う。
 第1部の復習にもなるし(実際、私もけっこう忘れてた)、あまりいないとは思うが、この巻からシリーズに入る人にも興味を持ってもらえるだろう。

 ただ、この巻で展開される世界は、第1部終了時点の世界とはかなりの "断絶" がある。どこがどう違うかは書かないけど、たぶん多くの読者が戸惑うのではないかな(もちろん私も、心の中で「えーっ」って叫び通しだった)。

 もちろん、第1部から通して登場するキャラもいるけど、それもかなり "変化" してる。まあ20年も経ってるのだからね・・・

 それでも、この巻だけでも分かることがあって、それはどのキャラにも "裏の顔" がある、ということ。ところどころで意外な言動をしたりして「え? そういう設定なの?」って驚くこともしばしば。

 まあ、シリーズ第1巻『烏に単は似合わない』では、ファンタジー世界で堂々の本格ミステリを展開して見せた人だから、ここでも続巻に向けての伏線をしっかり張ってるということなのでしょう。

 巻末の解説では、次巻『追憶の烏』では、この20年間の出来事がある程度明かされるらしいんだが、「愕然とする内容」って書いてある。
 楽しみだが不穏な雰囲気も感じるなぁ・・・。でも文庫になるのが待ち遠しくはある。



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幽世の薬剤師 [読書・ファンタジー]



幽世の薬剤師(新潮文庫nex)

幽世の薬剤師(新潮文庫nex)

  • 作者: 紺野天龍
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2022/03/28

評価:★★★


 異世界・幽世(かくりよ)へ迷い込んでしまった薬剤師・空洞淵霧瑚(うろぶち・きりこ)。そこには、謎の感染現象が蔓延していた。
 彼は幽世の巫女・御巫綺翠(みかなぎ・きすい)とともに怪異と病の根源に迫っていく。


 主人公・空洞淵霧瑚は28歳。病院の漢方診療科に勤務して4年目である。ある日の病院からの帰り道で、不思議な少女に出会う。
「"幽世の薬師(くすし)" 様、お迎えに上がりました」
 次の瞬間、霧瑚は異世界・幽世へ転移していた。

 動転している霧瑚を、鬼の面をつけた謎の人物が襲う。そこを救ってくれたのは、巫女装束に身を包んだ女性だった。御巫綺翠と名乗った彼女は、霧瑚を金糸雀(カナリヤ)と呼ばれる存在の元へ連れて行く。

 金糸雀は語る。霧瑚を幽世へ連れてきたのは彼女の妹・月詠(つくよみ)であること、霧瑚を連れてきた目的は不明なこと。
 そしてこの世界・幽世では、"人々の認識が現実を書き換えることがある" のだと。

 例えば、ある人物に対して "あの人は〈吸血鬼〉ではないのか" という噂が立ったとする。その噂が広まり、その人数が "閾値(いきち)" を超えたとき、その人物は本当に〈吸血鬼〉になってしまうのだと。

 ちなみに "閾値" とは、その値を境界にして、結果が異なるようになる数値のこと。理工系の人は "しきい値" と云った方がなじみがあるだろう。

 そして現在、幽世では普通の人間が〈吸血鬼〉になってしまう怪異が続発しているという。霧瑚は綺翠とともに、怪異の根源を探ることになるのだが・・・


 幽世世界の法則性についてはきちんと開示されていて、それに則って作品内で起こった事件の謎解きも行われるので、"特殊設定下のミステリ" ともいえるけど、やはり異世界ファンタジーの印象の方が強いかな。そしてどちらかというと事件よりもキャラの魅力で引っ張っていく作品に思える。


 その魅力キャラの第一は、ヒロインの綺翠さんだろう。年齢は20歳。整った顔立ちの美女で、装束通りの神社の巫女さんなのだが、幽世では数少ない〈怪異を祓う〉特殊能力者でもある。妹(こちらも美少女)の穂澄(ほずみ)との2人暮らし。
 霧瑚を幽世に連れてきた月詠だけが、彼を元の世界に戻すことができるとのことなので、彼はひとまず2人の住まいに逗留することになる。美女2人と一つ屋根の下で暮らすことになるわけで、なかなかうらやましい展開である(笑)。

 穂澄さんも天真爛漫で愛嬌たっぷりのキャラなのだが、それに加えて、胡散臭い修行僧・釈迦堂と祓魔師(ふつまし)・朱雀院のコンビが登場する。多分この2人もレギュラーメンバーになるのだろう。

 綺翠さんは、最初のうちこそクールで、霧瑚とは年齢差がある割にタメ口だったりと、意外と塩対応。まあそれも、時が経つにつれてだんだん変化していき、終盤では霧瑚に対してけっこうまんざらでもなさそうな様子に変わっていく。
 本書はシリーズ化されていて、近々4巻目が出るそうな。たぶん巻を追っていくに従ってもっとデレていくのでしょう(笑)。


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天盆 [読書・ファンタジー]


天盆 (中公文庫)

天盆 (中公文庫)

  • 作者: 王城夕紀
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2017/08/25

評価:★★★★☆


 蓋(がい)の国の "国技" たる「天盆(てんぼん)」は、将棋に似た盤上のゲーム。しかし、国を挙げて行われる競技大会「天盆陣」の勝者となれば、立身出世も夢ではない。
 主人公・凡天(ぼんてん)は貧しい平民の出でありながらも天才的な力量を示し、激戦を勝ち抜いていく。しかしその裏では、彼を阻止しようとする陰謀もまた企てられて・・・


 舞台となる蓋の国は、中世の中国を思わせる国家。
 年に一度、実施される「天盆陣」は、全国を東西南北の4地区に分けて予選が行われる。各地区を勝ち抜いた4人の決勝進出者には「天盆士」の称号が与えられ、国政に参与する道が開かれる。
 しかしもう長い間、平民からの「天盆士」は誕生していない。時の流れにつれてその制度は形骸化し、一部の既得権益階級の間でのみ優勝者が生まれていたのだ。

 主人公・凡天は捨てられた赤子であったが、少勇(しょうゆう)と静(せい)の夫婦に拾われた。2人には既に12人の子がいたので、凡天は13人目の末子となった。
 ちなみに兄弟姉妹の名には数字がつけられているので、第何子かはすぐ分かるようになっている(笑)。例えば長男は一龍(いちりゅう)、次男は二秀(にしゅう)。ちなみに第11子(女子)は士花(しいか)、第12子(女子)は王雪(おうせつ)。うーん、よくできてる。

 3歳になった凡天は、「天盆士」を目指している二秀から「天盆」の手ほどきを受けるが、たちまち兄姉たちを凌ぐ上達を示す。やがて二秀と凡天は、ともに「天盆陣」に臨むことになっていくのだが・・・


 "万人に開かれた大会" であるはずの「天盆陣」だが、形骸化して久しい。息子の栄達を望む地方の有力者は、幼い頃から子に "英才教育" を施すのはもちろん、有力なライバルが現れれば裏から(あるときは堂々と表から)圧力や嫌がらせ、威嚇をして排除していく。

 だから、平民出身の凡天の "台頭" はなんとしても阻止しなければならない。少勇と静は大衆食堂を経営しているが、有形無形の "圧力" によって客足は遠のき、仕入れにも支障を来すようになってしまう。しかし少勇や一龍は挫けずに凡天たちを支え続ける。
 後半になると、権力者たちはさらに悪辣な妨害を仕掛けてくるのだが・・・


 凡天は、その天与の才(もちろんその裏にある、人並み外れた努力も描かれるが)を発揮して「天盆戦」を勝ち進むのだが、彼の前には次から次へと強敵が現れる。難敵を倒せば、次はさらなる強敵が現れる、というように。
 このあたりは少年マンガのバトルもののノリに近い。「天盆」は、云ってしまえばボードゲームの一種なのだが、その "戦い" は高密度で描写され、凄まじい緊張感を伴って読む者に迫ってくる。このあたりの筆力をみるに、作者もまた ”非凡” としか言い様がない。

 登場キャラの個性もみなユニークだ。
 「天盆」以外は眼中になく、嬉々として棋譜を読みふける凡天。
 二秀は ”誠実” を絵に描いたような兄。凡天の "師" として登場し、途中からは遙か高みへいってしまった弟の戦いを見届ける役回りに。
 その他、11人の兄姉たちもそれぞれ個性豊かに書き分けられていて、なかでも才色兼備の六麗(ろくれい)が印象強い。難局にあってもしたたかに生き抜いていく彼女の逞しさが心地よい。
 凡天の対戦相手も、"いかにも悪役" な曲者キャラから、純粋に親の期待と家の将来を背負った "真っ当な敵" までさまざま。このあたりも上手いと思う。


 終盤にいたり、いよいよ東西南北4地区代表による "決勝戦" となる。そしてすべての勝負の決着がついたとき、物語は意外なエンディングを迎える。

 ここまで読んできて、思わず「えー!!」って(心の中で)叫んでしまったよ。詳しいことは伏せるけど、いろんな思いが頭の中に渦巻いた。
 でも、"歴史の歯車" というのはこういうものなのかも知れない。あえてここで終止符を打ったのも、作者の見識なのだろう。



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風と行く者 -守り人外伝- [読書・ファンタジー]


風と行く者 (新潮文庫)

風と行く者 (新潮文庫)

  • 作者: 上橋 菜穂子
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2022/07/28
  • メディア: 文庫
評価:★★★★

 「精霊の守り人」から始まり、全10巻もの大河ファンタジーとなった「守り人」シリーズの番外編だ。主役である女用心棒バルサの、本編終了後と20年前との2つの時代が描かれる。


 本編のラストから1年半、復興の槌音が響く新ヨゴ皇国。
 用心棒を生業とするバルサは、連れ合いの薬草師タンダとともに訪れた市場で〈サダン・タラム〉と呼ばれる巡礼旅の楽団の窮地を救う。

 20年前、まだ10代だったバルサは、養父ジグロとともに彼らと旅をしたことがあった。当時の女頭だったサリはいま病床にあり、その娘である19歳のエオナが新たな頭となって、聖地〈エウロカ・ターン〉へ向かう旅の途上にあった。

 〈サダン・タラム〉の一行は、何者かに狙われているらしい。彼らを聖地へ近づけたくない勢力が蠢いているようだ。
 護衛を依頼され、引き受けるバルサ。その理由は、エオナはサリとジグロの娘ではないか、と感じたことだ。ならば彼女はジグロの忘れ形見、バルサとは義理の姉妹ではないか・・・

 バルサは一行とともに、聖地のある隣国・ロタ王国へと向かう。
 そこは、ロタ氏族が支配する地。国の中枢も実権もロタ氏族が握り、ターサ氏族などの少数氏族の勢いは先細り、いずれは消滅するものと見られている。
 しかしだからこそ、ターサがロタに向ける憎悪は激しい。聖地〈エウロカ・ターン〉はターサの支配する土地にあり、一行が狙われるのも、この氏族対立が背景にあると思われるが・・・


 本書は三章建てになっているのだが、第一章はバルサが〈サダン・タラム〉の護衛を引き受けて旅立つまでが語られる。
 そして第二章はほぼまるごと過去編。20年前のジグロとバルサ、そして女頭サリの率いる〈サダン・タラム〉の物語でもある。

 本編中ではほとんど出番がない(本編開始前に亡くなってるからね)ジグロだが、本書では200ページ以上にわたって彼の活躍が存分に描かれる。
 本編では無双状態のバルサだが、20年前ではまだまだ未熟。ジグロに手ひどく叱られ、厳しく鍛えられる発展途上の戦士だが、その中でも着実に成長してゆくところを見せるのは、さすがの主役ぶり(笑)。

 そして第三章では再び現在に戻る。〈エウロカ・ターン〉に隠された秘密、〈サダン・タラム〉が狙われる理由があきらかになっていく。
 このあたりはちょっぴりミステリっぽい。情報が全部明かされているわけではないので、読者が推理するのはちょっと無理だろうけど、納得のいくストーリーが提示される。

 そして二つの氏族間における対立と憎悪の中、バルサは一つの解決策を見いだすのだが・・・


 本編以外の「守り人」シリーズの作品もいくつか書かれているけど、みんな短編ばかり。その中で、本書は450ページほどの長編(まあ半分は回想シーンなんだが)で、なかなか読み応えがあった。バルサとタンダが "その後" の世界でも順調に(平穏ではないが)生きていることがわかって、素直にうれしい気持ちになる。

 こうなると、もっと知りたくなる。あの人はどうなったのか、この人はどうなったのか・・・
 巻末の解説で大矢博子氏も書いてるけど、チャグムの嫁取りの話は、読みたい話の筆頭だね。思いを同じくするファンの方も多いと信じる。いつかその話が読めることを願って。



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イスランの白琥珀 [読書・ファンタジー]


イスランの白琥珀 (創元推理文庫 Fい 2-12)

イスランの白琥珀 (創元推理文庫 Fい 2-12)

  • 作者: 乾石 智子
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2022/07/20
  • メディア: 文庫
評価:★★★★

 かつては大魔道師と謳われ、イスリル帝国の建国に多大な貢献をしたヴュルナイ。しかし時は流れ、王宮は腐敗し国土は乱れた。
 そんな中、野に下っていた彼はある人物に出会う。その中に新たな希望を見いだしたヴュルナイは、帝国の再建を決意する。
 〈オーリエラントの魔道師〉シリーズの1冊。


 その身の内に、稀なる ”闇の種” を宿す少年ヴュルナイは、魔道師イスランにその能力を見いだされ、やがて大魔道師へと成長した。

 イスランはヴュルナイ率いる魔道師軍団とともに乱れた国土を統一してイスリル帝国を築き上げ、”国母” と呼ばれるようになる。
 しかし彼女が亡くなり、その親族たちによる後継者争いが始まる。その諍いに巻き込まれたヴュルナイは、地位も名声も失って表舞台から去ってしまう。

 失意のヴュルナイはオーヴァイデン(オーヴ)と名を変えて放浪生活に入り、百年あまりの時が過ぎた頃(この世界の魔道師は長命なので)に、物語は始まる。

 帝国の王宮は腐敗し人心は乱れ、不正と賄賂が横行する時代となっていた。

 そんな中、北方から侵入してくる蛮族との戦いに身を投じていたオーヴは、無実の罪で捕らえられたロブロー族の若い女族長ハルファリラと関わることになる。

 ハルファリラの中に ”ある力” の存在を感じ取ったオーヴは、彼女を救い出すべく王都イスリルに潜入、〈落雷王〉の異名を持つ魔道師にして国王のグラスグーシや、宰相ジルナリルと対決することになるが・・・


 イスリル帝国では、建国初期の後継者争いによる混乱の中、「魔力の最も強い者が王になる」慣例が成立している。ならばグラスグーシは当代最強の魔道師のはずなのだが、百戦錬磨のオーヴは彼と互角以上に渡り合ってみせる。

 オーヴの戦歴を考えれば、グラスグーシなど易々とやっつけてしまえそうなものだが、意外と苦戦するのは舐めてかかっていたからかも知れない(笑)。
 「俺はまだ本気出してない」って言いそうだが(おいおい)。

 タイトルの「イスランの白琥珀」とは、オーヴァイデン(ヴュルナイ)がイスランから与えられた宝玉のこと。彼にとってそれはイスランとの絆であり、帝国建国時の理想の象徴だ。

 一時は絶望して野に伏していたオーヴが、新たな希望を見つけ出し、再び立ち上がる。かつての恩人が築いた帝国を再建するために。かつての恩人から託されたものを、次世代へとつなげるために。

 とはいっても、主人公オーヴのキャラクターはあくまで明るく軽快だ。悲壮感など欠片もない。実年齢は百歳を超えているので、酸いも甘いも噛み分けているはずなのだが、けっこう頭に血が上りやすく、後先のことを考えずに行動してしまうなどかなりの粗忽者。精神年齢はかなり若そうだ(笑)。

 オーヴの相棒を務める青年エムバス、オーヴの財産管理をしているスティッカーカル、ハルファリラ救出に協力する双子の魔女など、脇役陣も個性派が揃っていて飽きさせない。

 本書の最後のページに「イスリル帝国年表」というものが載ってるんだけど、これ、ネタバレじゃないかなぁ。もっとも、「この後はこうなる」と分かっていても面白いんだけど。



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飢え渇く神の地 [読書・ファンタジー]


飢え渇く神の地 (創元推理文庫)

飢え渇く神の地 (創元推理文庫)

  • 作者: 鴇澤 亜妃子
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2019/04/24
評価:★★★★

 10年前に消息を絶った ”家族” を探し続ける主人公。その手がかりを得た彼は西の砂漠の奥深くへ向かう。そこで暮らす謎の教団には、隠し通してきた巨大な秘密があった・・・


 ファンタジーといえば、中世ヨーロッパ風な舞台が多いのだけど、この作品はちょっと異色だ。


 この世界には、ひとつの海を挟んで南北に2つの大陸がある。

 北の大陸にはヨーロッパ的な列強諸国があり、南の大陸には中東地方を思わせる遺跡群とそこに暮らす人々、その西には砂漠が広がる。

 南の大陸に遺された伝説では、西の砂漠は死の神ダリヤが支配する地。飢え渇き、満たされることを知らないダリヤは、妻である豊穣の女神アシュタールの肉体をも食べ尽くしてしまう。遺されたのは、女神の心臓石のみ。
 その心臓石から生み出される ”願い石” は、一つ割れるごとに願いごとを一つ叶えてくれる。その心臓石は、砂漠のどこかに守護者シュトリとともに眠っているという・・・

 北の大陸諸国にはある程度の機械文明が発達しているようだ。飛行機が実用化されていることから、”こちらの世界” でいうところの20世紀初め~中頃くらいの技術水準と思われる。
 それに対する南の大陸の描写も含めて、作品世界は「インディ・ジョーンズ」シリーズを彷彿とさせる。


 主人公カダム・オーウェンは20代後半の青年。大学で考古学の博士号まで取りながら、南の大陸で遺跡の地図をつくることを生業としている。

 亡くなったカダムの父デニスと、その親友のロジェ・ブランシュはともに考古学者だった。カダムはロジェの一家で家族同様に育てられてきたが、10年前にロジェと彼の一家(娘夫婦と孫娘)は遺跡調査のために西の砂漠へ向かい、そのまま消息を絶っていた。カダムはそれ以来、”家族” の行方を捜し続けてきたのだ。

 ある日、カダムの前にレオンという若い宝石商が現れる。警備隊に負われているらしい彼は、砂漠への道案内としてカダムを雇う。

 レオンとともに砂漠の街ガーフェルへやってきたカダムが見たのは、ガラ・シャーフ教団の呪殺士の一団。人を呪い殺すことができると言われている者たちだ。

 カダムはその中に10代半ばの少女がいることに気づく。彼女の顔にロジェの孫娘ソフィーの面影を見いだすカダム。失踪当時5歳だった彼女は、生きていれば15歳のはず。カダムは西の砂漠の奥深く、ガラ・シャーフ教団が暮らすトクサの砦へと向かうが・・・


 インディ・ジョーンズみたいな派手なアクションはないが、教団内部の権力闘争、ロジェの一家が失踪した真相、そして自らの欲望を叶えるべく ”願い石” を求める者たちの暗躍、そしてカダム自身の出生の秘密まで、様々な運命が絡み合う濃密な物語が展開して読み手を飽きさせない。

 第2回創元ファンタジィ新人賞受賞者の長編第2作。文庫で約480ページあるけれど、きれいにまとめ上げてあって新人離れした筆力だと思う。
 新人章受賞作『宝石鳥』は単行本での刊行。文庫化されたら読みます(笑)。



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忘却城 炎龍の宝玉 [読書・ファンタジー]


忘却城 炎龍の宝玉 (創元推理文庫)

忘却城 炎龍の宝玉 (創元推理文庫)

  • 作者: 鈴森 琴
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2020/05/20
評価:★★★

 死者を蘇らせる死霊術で発展した亀珈(かめのかみかざり)王国を舞台としたファンタジー、第3作。

 各巻、一話完結になってるのだが、本巻については第1巻「忘却城」の直接の続編になってるので、本巻からいきなり読んでも分からないかな。いや、読んでても分からないかもしれないが(おいおい)。


 第1巻の主役だった青年・儒艮(じゅごん)は、引き取った少年・金魚小僧(きんぎょこぞう)とともに暮らしていたが、私塾を開くために「比和院(ひわいん)」という屋敷を買い取った。
 しかしそこは幽霊屋敷として知られており、引っ越し直後から数々の怪奇現象が起こって塾生たちは怯えることに。

 そんなとき、王都に瀕死状態の炎龍(えんりゅう)が飛来する。それは王国では”神獣” と呼ばれる至高の存在だった。
 その炎龍は卵を孕んでおり、次代の炎龍を産み落とそうとしていることが判明する。そして炎龍との意思疎通を図る必要が生じる。
 しかし龍語を解することが出来るのは、蘇った死者と生きた人間の間に生まれた ”界人(さかいびと)” のみ。
 そこで ”界人” の一人である儒艮が ”通訳” として指名されたのだが・・・



 とまあ、メインのストーリーはこうなるのだけど、このシリーズの特徴として溢れんばかりのイメージの洪水というか、印象的なシーン、意味深な台詞が全編を埋め尽くしていて、なかなか全体像が見えにくい。

 しかも物語は多重構造をなしていて、かつてこの地を支配していた千形族の王や死霊術士の魂の蘇りや、王国を支配する黄王(おうおう)家における家族内の葛藤、わけても正王妃・雪晶(せっしょう)を巡る過去の秘密、そしてダブル主演である金魚小僧が自分のルーツを探る物語もあり、終盤には「比和院」の過去までも絡んでくる。そしてこれらが渾然一体をなしていて、読み解くのは容易ではない。

 複雑な物語はジグゾーパズルなどに例えられることもある。本書でもピースは無数に与えられるのだけど、並べることをより困難にしているのは、物語の進行とともにピースの形が変わっていってしまう(ように見える)ことだ。
 大丈夫な人もいるかもしれないが、私のアタマでは処理不能だなぁ。

 例えば金魚小僧の ”正体” だって、”これだ” と思って読んでいたら、後の方ではなんだか違っているみたいに書いてあるし。一事が万事この調子で、いったい何をよりどころにすればいいのか、読んでいて悩むことばかり。

 とまあいろいろ書いてきたけど、ラストまで読み終わってみると、いろんなことがそれなりにいい案配のところに、落ち着くべきところに落ち着いていって、「まぁいいか」って思わせる(笑)。

 この雰囲気がこの作者さん本来の持ち味なのか、それともこのシリーズのためにあえてこういう書き方をしているのかは分からないけど、こういう作風が続くと、正直言って読み続けるのはしんどいなぁ・・・って思ってしまう。



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赤銅の魔女 / 白銀の巫女 / 青炎の剣士 紐結びの魔道師 [読書・ファンタジー]


赤銅の魔女 紐結びの魔道師1 〈オーリエラントの魔道師〉シリーズ (創元推理文庫)

赤銅の魔女 紐結びの魔道師1 〈オーリエラントの魔道師〉シリーズ (創元推理文庫)

  • 作者: 乾石 智子
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2021/03/11
白銀の巫女 紐結びの魔道師2 〈オーリエラントの魔道師〉シリーズ (創元推理文庫)

白銀の巫女 紐結びの魔道師2 〈オーリエラントの魔道師〉シリーズ (創元推理文庫)

  • 作者: 乾石 智子
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2021/06/14
青炎の剣士 紐結びの魔道師3 〈オーリエラントの魔道師〉シリーズ (創元推理文庫)

青炎の剣士 紐結びの魔道師3 〈オーリエラントの魔道師〉シリーズ (創元推理文庫)

  • 作者: 乾石 智子
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2021/09/13
評価:★★★★

 作者の代表作である〈オーリエラントの魔道士〉シリーズ。
 テイクオク(紐結び)魔法を操る魔道師・リクエンシスを主人公にした長編三部作。とはいっても、ストーリーは連続しているので、実質はひとつながりの大長編(文庫で総計して約840ページ)になってる。

 リクエンシス(エンス)のことは他の作品集でも語られているけど、本書では彼の若き日(20代後半くらいかと思われる)の冒険が描かれる。


 舞台は異世界・コンスル帝国。建国から1500年近く経ち、国威の凋落が著しい。それにつけこんだのか、東方の隣国・イスリル帝国が侵攻してきた。

 主人公エンスは、相棒で祐筆のグラーコ(リコ)、剣闘士のマーセンサス(マース)とともにコンスル帝国東部のローランディアに暮らしていた。

 ちなみにリコの ”祐筆” というのは、エンスの紐魔法を書き留め記録する役目のこと。なにせ紐魔法というのは、紐の色や長さや結び方や結ぶ順番とか細かいきまりごとがたくさんあって、とても覚えきれない。それをリコが記録していて、紐魔法を発動させるときにはエンスに必要な情報を教えるという役割分担。

 エンスたちが住むローランディアにもイスリルの先発隊がやってきた。そこで住んでいた館を放棄して西方へ脱出する3人だったが、イスリルの魔道士が館の裏手の墓地に眠る ”邪悪な魂” を呼び出してしまう。そしてそれは、エンスのことを執拗に追跡し始めるのだった・・・

 一方、オルン村に暮らす〈星読みの魔女〉トゥーラは、自ら見いだした予言に従い、村の若者たちを使嗾して〈覇者の剣〉なるものを手に入れるべく動き出したが、彼女の目論見は意外な方向へ転がっていく・・・

 そして、拝月教のカダー寺院では、エミラーダ軌師(きし:”弟子を導く師” くらいの意味と思われる)が、水盆に映る月の姿から未来を幻視する。それは世界の破滅を示すかのような凄惨な光景。しかしそれを防ぐ道も示される。
 エミラーダは ”ローランディアからやってくる魔道士” を探すべく、寺院を出奔する・・・


 ここまでがほんの序盤。大長編だけあって、ストーリーも重層的。

 エンスをつけ狙う ”邪悪な魂” の正体、それを解き放ったイスリルの魔道士の目的、そして何が世界の破滅をもたらすのか、〈覇者の剣〉の役割とは・・・

 さらに、遙かな過去の因縁も絡んでくる。オルン村のある地には、1500年前には女王が統べる ”オルン魔国” があり、当時の魔女がかけた ”呪い” は今もなお解けておらず、人々に影響を与えているらしい。


 キャラクターたちも多彩だ。

 主役のエンスは、魔道師という言葉のイメージに縛られないユニークさ。何事にも楽観的でおおらか、情にも厚い。それでいて剣をとっても一流の腕前。とぼけた言動を繰り返すのも親近感を抱かせるし、ついでに女に惚れやすい(笑)。

 リコは高齢だが物知り。だがいささかわがままな爺さん(笑)。

 マースは剣闘士だけあって、剣の腕も一流だが、軍師的な知恵も回り、頼りになる相棒だ。

 ヒロインとなるトゥーラは20歳。エンスとは物騒なシチュエーションでの出会いを果たすのだけど、エンスは彼女に一目惚れしてしまう。
 でまたエンスのことだから、やたら「いい女だ」って口走っては周囲をあきれさせる(笑)。
 トゥーラのほうも、序盤では野生の猛獣みたいにやたらと突っかかってきては刃物を振り回すという凶暴な(笑)お姉さんだっんだけど、エンスのことを知るにつれてだんだん惹かれていってしまい・・・というお約束の展開。
 とはいってもストーリーを彩るだけでなく、彼女自身にもある秘密が隠されており、物語上も重要なキャラになってる。

 元修道女のエミラーダは40代かと思うのだけど、枯れた感じは全くなく、実に生き生きとした女性として描かれている。知性と教養と、女性としての魅力が高レベルでバランスがとれていて、実にいい案配になってる感じである。

 そして、この物語においてエンスたちの最大の ”敵” として登場するのが、元コンスル帝国軍人のライディネス。帝国の凋落に乗じて、自らの国を打ち立てようという野心に燃えている。とはいっても ”いかにもな悪役” ではなく、彼なりの理想と目的を持った、芯のある人物としてしっかり描かれる。

 他にもオルン村の少年ユース、女魔道師エイリャ、その弟子の青年サンジペルスなども重要な役周りで登場する。
 そして、〈思索の蜥蜴(とかげ)〉ダンダン。人語を話す小さな蜥蜴として登場し、エンスと行動を共にしていくのだけど、”彼” もまた終盤で大活躍をする。


 多彩な登場人物が織りなす波瀾万丈のファンタジー冒険譚。
 とても楽しませていただきました。



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