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短編ミステリの二百年1 [読書・ミステリ]


短編ミステリの二百年1 (創元推理文庫)

短編ミステリの二百年1 (創元推理文庫)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2019/10/24
  • メディア: 文庫
評価:★★☆

 創元推理文庫には既に『世界推理短篇傑作選』(江戸川乱歩編)全5巻というアンソロジーがあるのだけど、この2世紀にわたるミステリの歴史で、傑作がこれだけで済むはずはない・・・新たにこの『短篇ミステリの200年』シリーズが編まれたのは、きっとそういうことなのだろうと思う。


 第1巻には12編が収録されている。

「霧の中」(リチャード・ハーディング・デイヴィス)[1901]
 ロンドンのあるクラブで、大物政治家を相手に3人の男が順繰りに昨夜起こった殺人事件について語り始める。3人目の話が終わったとき、事件の真相も明らかになったかに見えたが・・・

「クリームタルトを持った若者の話」(R・L・スティーヴンスン)[1878]
 ボヘミアのフロリゼル王子は、ロンドンのオイスターバーで謎の若者に出会う。大量のクリームタルトを人に勧め、断られると自分で食べてしまう。
 その若者についていった王子は、怪しげなクラブへと入りこむが・・・

「セルノグラツの狼」(サキ)[1913]
 セルノグラツの城に住む男爵夫人は「この城で死人が出ると、村中の獣が一晩中吠え続ける」という。しかし白髪の家庭教師シュミットは「それはセルノグラツの一族が亡くなった場合だけ」と異を唱えるが・・・

「四角い卵」(サキ)[1924]
 塹壕の仲を這いずり回っていた兵士は、ふと町の小食堂のことを思い出す。そこで知り合った男は「卵は不経済な形をしているけど、私の叔母が持っている雌鶏の一羽が四角い卵を産んだ。これは儲かった」と語ったが・・・

「スウィドラー氏のとんぼ返り」(アンブローズ・ビアス)[1874]
 アメリカ西部開拓期。スウィドラー氏は、絞首刑の決まった友人に対して恩赦状を出させることに成功した。しかし刑の執行は15マイル離れた町で行われる。スウィドラー氏は鉄道の線路の上をひたすら歩いてその町を目指すが・・・

「創作衝動」(サマセット・モーム)[1926]
 ミセス・アルバート・フォレスターが執筆した『アキレスの像』は大評判となり、増刷に次ぐ増刷に。しかしそれまでの彼女の作品は、文学的評価は高いがさっぱり売れなかった。そんな彼女が突如ベストセラーを書けたのはなぜか・・・

「アザニア島事件」(イーヴリン・ウォー)[1932]
 アフリカ東海岸沖にあるアザニア島。そこの小さな町マトディに、ブルネラという美女が現れた。彼女の歓心を得るのは3人の若者に絞られたかと思われたその矢先、ブルネラが誘拐されて身代金が要求されることに・・・。

「エミリーへの薔薇」(ウィリアム・フォークナー)[1930]
 エメリー・グリアスンは斜陽の名家に生まれた。生涯結婚せず、父の死後は一人、屋敷に閉じこもった。納税を拒否するなど町の住民と数々の軋轢を生みながら。その彼女が亡くなり、人々は彼女の屋敷に踏み入ってみるのだが・・・

「さらばニューヨーク」(コーネル・ウールリッチ)[1937]
 主人公の ”わたし” と夫のレイフは、生活費にも事欠く状態。かつての雇い主フロイントのもとへ金策に行くといって家を出たレイフ。帰宅した夫は500ドルを手にしていたが、新聞にはフロイントが強盗殺人に遭ったとの記事が・・・

「笑顔がいっぱい」(リング・ラードナー)[1928]
 ベン・コリンズはユーモアたっぷり、いつも笑顔で交通取締をする警官だ。ある日、猛スピードで車を飛ばす美女に遭遇する。違反行為にも悪びれず、笑顔でベンに接する彼女に、惹かれていってしまうベンだったが・・・

「ブッチの子守歌」(デイモン・ラニアン)[1930]
 3人組の悪党が、金庫に眠る現金を奪うために、すでに足を洗っていた金庫破りの名人・ブッチを仲間に引き込もうとあれこれ画策する。赤ん坊も生まれていたブッチは、その世話をしながら金庫破りする羽目になるのだが・・・

「ナツメグの味」(ジョン・コリア)[1941]
 ”わたし” の職場に来た新人J・チャップマン・リード。彼はかつて殺人の嫌疑をかけられたが、動機が見つからなかったために裁判で無罪となっていた。彼は同僚たちを自分のアパートに招き、自慢のカクテルを振る舞うのだが・・・


 「ミステリの定義」は様々で、人によってもその範囲は異なるだろう。本書に収録されている作品は、いわゆる ”広義のミステリ”、それもかなり ”ゆるめ” かなと思う。
 ガチガチの本格ものしか認めない、というつもりはないけれど、それでも「これってミステリなの?」って思う作品もちらほら。

 「セルノグラツー」「エミリーー」はホラーだと思うし。人によっては「ナツメグー」も入るかも知れない。
 「さらばー」は、サスペンスとしては出色の出来。
 「クリームタルトー」「アザニア島ー」はクライム・ストーリー。
 「四角い卵」「スウィドラー氏ー」「ブッチのー」はユーモア小説かな。落語やコントみたいな雰囲気も感じる。
 「創作衝動」「笑顔がー」は何だろう。いわゆる ”奇妙な味” というか。一般小説でも普通にありそうな話。

 ということは、本書の中で私が「ミステリだなぁ」って思ったのは、冒頭の「霧の中」だけ、ってことか。
 編者のストライクゾーンが広すぎるのか、私のそれが狭すぎるのか(笑)。

 巻末の「解説」が160ページ(!)もあるのが特徴的。とはいっても「評論」みたいな堅苦しさはない。東京創元社のWeb連載をまとめたもので、基本的にはエッセイ風になってるので読みやすい。
 とはいっても、知ってる作品とか好きな作家さんが出てくるとか、そっち方面に興味がある人でないとなかなか面白みはないかな。



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