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連城三紀彦 レジェンド 傑作ミステリー集 [読書・ミステリ]

連城三紀彦 レジェンド 傑作ミステリー集 (講談社文庫)

連城三紀彦 レジェンド 傑作ミステリー集 (講談社文庫)

  • 作者: 連城 三紀彦
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2014/11/14
  • メディア: 文庫



評価:★★★★

「レジェンド」って「伝説」だよね。
まだ亡くなって1年半くらいなのに
すでに伝説と化しているんですか連城さん。 

綾辻行人・伊坂幸太郎・小野不由美・米澤穂信という
人気ミステリ作家4人がそれぞれ選んだ
"お気に入り" の連城三紀彦の短編ミステリ6編を収録している。

各作品の冒頭に、選者の作家さんによる紹介文が載っている。
皆さんの連城LOVEが溢れた、熱い文章なんだけど
もしこれらの作品を初読の方は、できたらこの紹介文は読まずに
まず本編を読まれることを推奨する。

なぜなら、選者の方の作品紹介にいささか力が入りすぎていて
勘のいい人やミステリを読み慣れた人なら
(ネタバレとまでは言わないが)
オチのヒントくらいにはなってしまいそうだから。


「依子の日記」
 昭和22年。復員してきた作家・滝内竣太郞は、妻の依子とともに
 人里離れた山奥に籠もり、創作活動に没頭する。
 しかし平穏な日々はある日突然終わりを告げる。
 編集者を名乗る女・辻井薫の出現によって・・・
 5年くらい前に読んだ作品なんだけど、
 途中までほとんど内容を忘れていた。
 上にも書いたけど、初読の方は絶対に
 本作冒頭の "選者の紹介文" を読んではダメです。
 ちなみに紹介文を書いたのは綾辻行人。

「眼の中の現場」
 医師・岡村修輔の妻・美那子が駅のホームから転落死する。
 遺書が見つかったことから警察は "覚悟の自殺" と判断するが、
 修輔の前に倉田準一と名乗る青年が現れ、
 自分は美那子の愛人だったと告げる。
 さらに彼は、美那子の死は自殺ではないと主張するのだが・・・
 この作品は初読だった。
 連城作品の特徴ではあるが、ラストで事件の構図が覆り、
 思いもよらない展開を迎える驚きは、本作でも充分に堪能できる。

「桔梗の宿」
 遊興街の裏手、どぶ川のほとりで発見された死体は、
 右手に白い桔梗の花を握っていた・・・
 作者の代表作とも言える『花葬』シリーズの一編。
 ちなみに7~8年前に読んでるはずなんだが、
 やっぱり途中までどんな話か忘れていた(^_^;)。
 ラストで明らかになる真相で立ち上がってくるのは
 限りない "人間の哀しみ"。
 ミステリとしての解決も切れ味鋭いんだけど、
 その真相が、"人の業" と不可分なのも連城ミステリ。

「親愛なるエス君へ」
 これも、何かのアンソロジーで既読。でもやっぱり
 途中までどんな話かすっかり忘れていた(おいおい)。
 モデルとなったのは、いわゆる「パリ人肉事件」。
 ちなみに、読む前にこの事件をwikiとかで調べてもOK。
 あくまでモデルにしただけで展開も真相も全く異なる。
 紹介しているのが綾辻行人で、
 彼はこの作品がいたくお気に入りの由。
 まあ、読めばなんとなく理由は分かるような気がする。

「花衣の客」
 母・弥衣(やえ)の愛人だった男・飯倉。
 その娘・紫津(しづ)もまた、飯倉に対して深い慕情を抱く。
 しかし、弥衣の死んだ後も彼女を想い続けた飯倉は、
 22年経っても紫津を受け入れることはなかった。
 年老いて病を得た飯倉に死期が迫り、
 紫津はある決意を胸に、彼のもとを訪れる・・・
 母娘二代にわたる "不器用な男女の愛のすれ違い" とでも言おうか。
 この作品は初読(たぶん)。ミステリというよりはサスペンス。
 勘のいい人ならオチはなんとなく見当がつくだろう。
 それでも、ラストの感動はいささかも薄れないのがスゴいところ。

「母の手紙」
 これもミステリではない。
 異常なまでの "嫁いびり" をする姑が息子に当てた手紙、
 という形式で進行する。
 自分の半生から生い立ち、そして嫁に辛く当たる理由までが
 時系列に沿って語られるんだけど、(紹介文にもあるけど)
 さすがにこの "理由" が見抜ける読者はいないだろう。


私が連城三紀彦にハマったのは、代表作『花葬』シリーズから。
時代背景を明治~昭和初期にとったものが多いけれど、
それは人と人とが顔を合わせ、目を合わせながら語らないと
あるいは、わざわざ紙に書いて文章に表さなければ
思いを伝えることができない時代だったからこそ成立する物語を
描いているからだと思う。

現代のように、携帯電話やメールといった
お手軽なコミュニケーション手段の存在しない時代。
それこそ連城ミステリにふさわしい舞台なのだろう。

『花葬』シリーズに限らず、
連城ミステリに登場する人物はみな、
"真の思い" を心の奥深くに隠して、表に出すことがない。
そしてそれを伝えることができない。
たとえ一番伝えたい相手であっても。
いや、一番伝えたい相手だからこそ伝えられないのか。

伝える術を持たなかったり、あったとしてもあえて胸に秘す。

それが "犯罪"・"殺人" という究極の非常事態に遭遇して初めて、
"秘めた思い" を相手に伝えることになる。
そんなねじれた愛情表現しかできない、不器用な人間たちの物語。
しかしそれだからこそ、私は連城ミステリに深い感動を覚える。


なんだかamazonあたりで旧刊をまとめ買いしたくなってきたよ。


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