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本格王2020 [読書・ミステリ]


本格王2020 (講談社文庫)

本格王2020 (講談社文庫)

  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2020/08/12
  • メディア: 文庫

評価:★★★☆


 2019年に発表された本格ミステリ短編から選りすぐった7編を収録したアンソロジー。


「惨者面談」(結城真一郎)
 家庭教師のアルバイトをしている大学生・片桐は、派遣会社から連絡を受け、家庭教師を探している矢野家を訪問し、家族と面談することに。
 出迎えたのは母親。小学6年生の息子の家庭教師を希望しているという。しかし難関の中高一貫校を目指しているはずなのに、母親にいまひとつ熱意が見えず、子どももまた受験生っぽくない。この母子はどこかおかしい・・・
 読んでいるうちに「たぶんこうではないか」という予測が立つのだが、真相はそれを超えたもので、驚かされた。
 作者はこれが初めて執筆した短編だという。いやはやたいしたもの。


「アリバイのある容疑者たち」(東川篤哉)
 接待ゴルフを終え、その後の酒宴でしたたかに酔っ払ったサラリーマン・大島聡史(おおしま・さとし)が帰宅すると、家の金庫が開けられていた。驚く聡史は直後に何者かに殴られて意識を失う。
 容疑者として浮上したのは聡史の叔父、兄、従姉妹、恋人の4人。しかしいずれも強固なアリバイをもっていた・・・
 聡史が帰宅に使った、3つの駅しかないローカル線の運行ダイヤが各人のアリバイを成立させていたのだが、それがまたものすごく単純なダイヤ。単純ゆえに崩すのも難しい。最後に明かされる真相は、至ってシンプルなのだが・・・
 犯人当ての懸賞小説として書かれたもので、正解者もいたらしい。当てた人はよっぽど頭がいい人だったんだろうなぁ。私のような凡人には、とてもそこまでは考えが及びません。


「囚われ師光」(伊吹亜門)
 作者のデビュー作(を含む短編集)である『刀と傘』に登場した探偵役・鹿野師光(かの・もろみつ)が主役となる。
 時代は幕末。京都での騒乱に巻き込まれた尾張藩士・鹿野師光は薩摩藩士に捕らえられ、牢に入れられてしまう。別の牢には浪人と思われる先客がいたが、師光は相手と数回言葉を交わしただけで、その素性を言い当ててみせる(まんまホームズですな)。
 相手はかなりの教養人と見えるが、自らの将来を見限って絶望している様子。師光はそんな彼に翻意を促すべく「七日以内にここから脱出してみせる」と宣言する・・・
 作者は脱獄ミステリの古典「十三号独房の問題」(フットレル)の幕末版を狙ったらしいが、その脱出方法以上に、浪人の正体が興味深い。


「効き目の遅い薬」(福田和代)
 主人公はアンクル(おじさん)というあだ名で呼ばれる女性。友人である望田遼平(もちだ・りょうへい)とは、大学時代からの腐れ縁だ。
 彼女が(作中では明示されていないが、おそらく)薬学部に在学していた頃、好きな女性ができた望田から "惚れ薬" を作ってくれと頼まれた。呆れた彼女が、食紅で着色した水(おいおい)を渡したところ、「効いた」という(えーっ)。もっともすぐ別れたが(それはそうだろう)。
 そして大学を卒業して3年。製薬会社で研究員をしているアンクルの元へ、再び望田から「また "あの薬" をつくってくれ」という依頼が。アンクルは、今度は前回とは異なる調合にすることを思い立つ・・・
 冒頭で、服毒死事件が起こっていることが明かされていて、アンクルと望田のやりとりがそれにどのように当てはまっていくのかが次第に明かされていく。
 アンクルと望田の、友人以上恋人未満という状態が、事態を混迷化させていく。このあたりの描写は流石に上手いと思う。


「ベンジャミン」(中島京子)
 "ぼく" は、姉のチサと父さんとの3人で、小さな島で暮らしている。母は家を出てしまっており、"ぼく" は学校で虐められたことから、家にいてチサから勉強を教えて貰っている。
 父さんは小さな動物園を経営していたけど金にはならず、医師免許を持っていることを利用したカウンセリングなどで生活費を工面していた。
 やがて18歳になったチサは大学へ行くために島を出た。一方、動物園の動物たちが死に始め、父さんは精神的に不安定になっていく・・・
 広義の本格ミステリと考えれば、本作がこのアンソロジーに入っていることに納得はできる。作者はあんまりミステリだと意識してないみたいだけどね。
 でも、物語としてはこういうのは嫌いじゃない。


「夜に落ちる」(櫛木理宇)
 『ひかりの森保育園』で、5歳の女児が2階の窓から投げ出されて2カ所を骨折するという傷害事件が起こった。
 週刊誌記者の加藤克樹(かつき)は、取材のために園で保育補助員をしている向坂理香(こうさか・りか)に接触する。
 事件の取材と並行して、克樹の実家の状況が描かれる。心を病んだ家人がいたりと、かなり歪んだ人々の集まりなんだが、終盤でこの二つにはある "共通点" があったことが明らかになる・・・
 ミステリとしての切れ味はいいと思うんだが、ちょっとホラーっぽい結末で、こういう後味の作品はイヤだなぁ・・・。


「時計屋探偵と多すぎる証人のアリバイ」(大山誠一郎)
 浜辺美波主演でドラマ化もされたシリーズの一編。
 衆議院議員・戸村政一(とむら・せいいち)の秘書・名越徹(なこし・とおる)の焼死体が発見される。解剖の結果、犯行時刻は前日の午後6時35分から7時過ぎの間に絞られる。
 捜査が進み、名越が戸村との間に諍いを抱えていたことが明らかになるが、戸村はその日の午後6時から8時までパーティに出席しており、何百人もの衆人環視の中にいたことが判明する・・・
 毎度のことながら、時計屋の娘・美谷時乃(みたに・ときの)によるアリバイ崩しが見事。トリックについては、なんとなく「こうなんじゃないかな」って思いつくんだけど、明かされる真相はその数段上を行くし、論理的にも堅牢。もう脱帽するしかない。



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