SSブログ

求婚の密室 有栖川有栖選 必読! Selection 6 [読書・ミステリ]


有栖川有栖選 必読! Selection6 求婚の密室 (徳間文庫)

有栖川有栖選 必読! Selection6 求婚の密室 (徳間文庫)

  • 作者: 笹沢左保
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2022/08/09
  • メディア: 文庫

評価:★★★☆


 東都学院大学教授・西城豊士(さいじょう・とよじ)の所有する軽井沢の別荘に集まった13人。その場で発表されるのは、豊士の娘で女優の富士子(ふじこ)の結婚相手。莫大な資産と美貌の花嫁を手にするのは誰か?
 しかし発表当日、豊士とその妻・若子(わかこ)の死体が密室状態の地下貯蔵庫で発見される。この難事件に挑むのはルポライター・天知昌二郎(あまち・しょうじろう)。『他殺岬』に続いての登場である。


 西城富士子は27歳。美貌かつ上品で知的な雰囲気のある女優として知られ、これまでスキャンダルとは無縁の存在だった。

 彼女の父・西城豊士は大学教授だったが、先代の残した財産を元に株の取引で成功し、巨大な資産を形成していた。
 妻の若子との間には子ができなかったが、たまたま事故死した親友の遺児を養子に迎えることになった。それが富士子である。
 しかしその後、若子が妊娠した。40代後半という高齢出産だったが無事に娘が生まれ、サツキと名付けられた。富士子とサツキは21歳違いの(血のつながらない)姉妹となった。

 そして今年、豊士はすべての活動から引退することを表明、軽井沢の別荘で隠居を祝うパーティが催されることになった。さらに、そこで富士子の結婚相手を発表するのだという。
 いささか時代錯誤な成り行きだが、富士子にとって豊士は育ててもらった恩人であるし、彼の選んだ相手と結婚することは、芸能界に入る時の条件でもあったという。

 隠居に当たって豊士はすべての財産を処分・整理し、それを富士子とサツキに二分して与えることにした。富士子への贈与分は25億円にのぼる。ちなみに現在の物価に換算すると40億円くらいらしい(本書の刊行は1978年)。

 富士子の結婚相手については、以前から豊士と交流があった医師・石戸昌也(いしど・まさや:35歳)と弁護士・小野里実(おのさと・みのる:34歳)の2人に絞られていた。

 別荘には石戸・小野里を含む13人の客が集められたが、発表予定の日に豊士と若子の服毒死体が地下貯蔵庫で発見される。内部から厳重に施錠された堅固な密室状態の中で。

 集められた客たちは、豊士に友好的な者ばかりではない。大学内での派閥争いで敵対した者だったり、かつて豊士が引き起こした女性スキャンダルの関係者だったりと、恨みを抱く者もいる。しかし "すべてを精算する" ということでパーティに呼んだらしい。

 駆けつけた警察によって別荘内に足止めされた招待客たち。豊士が花婿を指定する前に亡くなったことから、石戸と小野里は勝手に「事件の真相を解明した者が富士子と結婚する」という取り決めをしてしまう(おいおい)・・・。


 本書は文庫で370ページほどあるのだが、序盤を除く300ページは、ほぼ別荘内でストーリーが進行する。しかもその大半が、招待客たちによる推理とその検討に充てられているのだ。
 新本格における館ミステリの典型みたいな展開だが、本書の刊行は『十角館の殺人』(綾辻行人)に先立つ9年前のことだ。時代を先取りしていた作品と云えるかも知れない。

 「第一章 密室の死」では、事件の発生が語られ、「第二章 心中説」では夫婦そろっての自殺の可能性が論じられ、「第三章 他殺説」では他の犯人の存在が検討される。
 心中にしては矛盾点が多く、他殺とするには鉄壁の密室トリックを打ち破らなければならない。

 そして「第四章 真犯人」に至り、混迷する事件を解き明かしていくのは、招待客の一人であるルポライター・天知昌二郎。彼は石戸と小野里の "花婿争い" に割って入り、真相究明を目指す。
 実は、富士子は密かに天知に想いを寄せており、彼もまたそれに応えようとしていたのだ。だからこの "戦い" に負けるわけにはいかない・・・

 というわけで、本書は密室殺人とラブ・ロマンスの同時並行で綴られていく。


 巻頭にある有栖川有栖による Introduction では、作者である笹沢左保は本書の密室トリックにかなりの自信を持っていたことが語られている。
 たしかに、大向こうを唸らせるような "びっくり仰天系" なものではないが、読者の盲点を突く意外性を備えていて「なるほど!」と納得させる、よく考えられたものだと思う。
 これならタイトルに謳っても文句を言う人はいないんじゃないかな。



nice!(4)  コメント(0) 

nice! 4

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント