黒真珠 恋愛推理レアコレクション [読書・ミステリ]
評価:★★★☆
大胆な仕掛けと叙情性豊かな文章で、「恋愛」と「ミステリ」を融合させた傑作を数多く遺し、2013年に逝去した連城三紀彦。
単行本に未収録だった短編・掌編24作の中から、14作を収録した作品集。
I (短編)
「黒真珠」
恭子は7歳年上の妻子ある男・上村と不倫状態になって2年。ある日突然、恭子のもとを上村の妻が訪ねてきて、意外なことを告げる。実は好きな男がいるので、上村と別れたいのだと・・・
文庫で30ページほどで登場人物はこの2人だけ。それなのに状況が二転三転し、最後に意外な着地点。たいしたもの。
「過剰防衛」
小田は、一人娘・美世の交際相手の大学生・東を刺殺、殺人容疑で逮捕・起訴された。小田は先に相手が襲いかかってきたので、とっさに反撃したまでだと、過剰防衛を主張した。しかし公判当日、被害者は自殺したのだと言い出す。その証拠に、彼の遺書も持っているという・・・
文庫でわずか7ページの作品なのだが、この展開からは想像もできないオチが待っている。
「裁かれる女」
弁護士・藤野有紀子のもとを、矢田圭一という男が訪れる。殺人で逮捕されそうなので弁護を依頼したいという。自宅マンションの浴室に妻の死体があって、犯人は妻の浮気相手なのだと・・・
巻末の解説では、複数のアンソロジーに収録された作品だという。たしかに終盤で事件の様相が一変する展開は "連城マジック" そのものだ。
「紫の車」
井川直之は、浮気相手の弓絵と伊豆へ旅行に出かける。しかしその晩、井川の妻・優子がひき逃げに遭って死亡してしまう。その一週間後、直之の携帯に電話がかかってくる。相手は鈴木と名乗り「残金の75万円を支払え」と云う。鈴木は優子の殺害を150万円で引き受けたらしいのだが・・・
意外な事実が次々と明らかになり、直之は少しずつ真相に近づいていくのだが、最後に手にした真実は哀しくやるせない。
「ひとつ蘭」
元OLの柚子(ゆうこ)は7年前、湯河原の旅館へと嫁いできた。ある日、立松比奈子と名乗る老女が宿泊に訪れる。柚子は彼女と語るうち、8年前のことを回想する。
柚子は不倫中の上司とともにこの旅館へ泊まり、それをきっかけに女将・喜世(きよ)との交流が始まり、やがて息子の浩之との縁談が持ち上がった。
しかし比奈子は意外なことを語り出す。喜世の夫で柚子の舅・辰治は、かつて自分の夫だったのだと・・・
喜世のキャラが強烈なのだが、その過去がまた凄まじい。"女は死ぬまで女" ということなのだろう。そして明らかになった真実を前に、柚子もまた決断を迫られる。
「紙の別れ」
「ひとつ蘭」の7年後の物語。
かつて柚子と不倫をしていた桐沢。妻との離婚を考えていた彼は、15年ぶりに柚子と連絡を取り、会うことになった。場所は北陸、山代温泉の旅館。
現地へ向かう途中、この15年間を回想する桐沢。そして宿に着き、部屋へ通された彼を待っていたのは、和紙で折られたいくつかの鶴や風車。仲居によると、"連れの女性" は桐沢の来る前に急用で帰ったというのだが・・・
これも最後に意外な "逆転" が待っている。巻末の解説によると、柚子の物語は連作としてもう何作か書かれる予定だったらしい。
「媚薬」
73歳のタエは最近、山下薬局の主人といい仲らしい。2人は幼馴染みで、お互いに連れ合いを亡くしている身。再婚するんじゃないかとタエの息子夫婦である昭夫と角子(すみこ)は噂する。
昭夫は小学校の頃に父親から聞いた話を思い出す。薬局で瓶入りの薬を買った父は、昭夫にこう告げた。『母さんが薬局のおじさんを愛していて、自分を愛してくれないからこの薬を飲ませる』と。『媚薬』という言葉を知ったのはもっと成長してからだったが・・・
"老いらくの恋" をめぐるご近所コメディ、という趣き。不穏な出だしから、笑顔とともにちょっぴりホロリとさせるエンディングへ至る。こういうのは連城作品では珍しいだろう(笑)。
不倫とか浮気とか "かなり重め" なテーマが続くこの短編集の中で、ここにこの作品があるのは絶妙の配置かな。
II (掌編)
「片思い」
酒屋の主人・雅夫は最近、女遊びをしているようだ。妻の伸江は不満を募らせるが、そんなとき、店員の良二が若い娘に金を渡しているところを目撃する。そういえば、最近レジの残金が合わない・・・
「花のない葉」
夏子は、リストラ候補の夫と浪人生の息子を抱え、内職に励む日々。そんなとき高校時代の友人・安美から電話が入る。『今度大金が入ったから、200万円くらいあげるよ』・・・
「洗い張り」
26年前、父の浮気が原因で家を出た母に会いに行った里津は、一着の留袖を渡される。そして今、里津は自分の娘の結婚式にその留袖を着て出席した。式が終わり、留袖を洗い張り(和服の糸を抜き、布地の状態に戻して洗うこと)に出したところ・・・
「絹婚式」
結婚12年目の祐子は、銀座のデパートからの帰り、夫が女と一緒に歩いている姿を目撃する。女は夫へ告げる。『あとで、部屋の鍵を渡すから』。夫の浮気を確信した祐子だったが・・・
「白い言葉」
中学3年生の娘・直美が白紙の答案用紙を提出したという。担任から連絡を受けた母・佳子は、驚くと同時に自らの過去を思い出す。独身の頃、佳子のもとへ白紙の手紙が何通も届いたことを・・・
「帰り道」
京都へ向かうべく東京駅で発車間際の新幹線に乗り込んだ矢崎は、見知らぬ女性から封筒を託される。京都駅のホームで待っている男性に渡してほしいと告げ、彼女は下車してしまったのだが・・・
「初恋」
妻とは既に死別し、76歳になった舅が、60年前の初恋の相手のことを調べてほしいと言い出す。嫁の安代は戸惑いながらも探偵社に調査を依頼、その結果が判明するのだが・・・
第II部はいずれも文庫で5~10ページほどの長さだが、きっちり恋愛要素を織り込み、かつ意外なオチをつけて物語を逆転させる。連城三紀彦のミステリ巧者ぶりは長さに関係ない。いやはや、たいしたもの。
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