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サーモン・キャッチャー the Novel [読書・冒険/サスペンス]


サーモン・キャッチャー the Novel (光文社文庫 み 31-5)

サーモン・キャッチャー the Novel (光文社文庫 み 31-5)

  • 作者: 道尾秀介
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2022/12/13
  • メディア: 文庫

評価:★★★


 屋内釣り堀「カープ・キャッチャー」。そこは、釣れた魚によってポイントが与えられ、景品と交換できる。
 この釣り堀を舞台に様々な人間の運命が交錯する、"グランド・ホテル形式" ならぬ "グランド「釣り堀」形式" 小説。


 "グランド・ホテル形式" とは、ホテルや船や列車など、物語が展開される空間が、ある一つの場所に限定されているものをいう。
 wikiによると、語源は1932年公開の同名のアメリカ映画らしい。そこに挙がっている例の中で、私が知ってるのを挙げると、映画では「ポセイドン・アドベチャ-」「タワーリング・インフェルノ」「THE 有頂天ホテル」、小説では「青列車の秘密」(アガサ・クリスティ)など。

 個人的には、「オリエント急行の殺人」(同)みたいな、クローズト・サークル・ミステリも入れることができるんじゃないかとも思うが・・・
 とはいっても、本書「サーモン・キャッチャー」は殺人を扱ったミステリではない。まあ、広く考えればミステリに入れられなくもないかな、とは思うが。
 閑話休題。


 本書はこの「カープ・キャッチャー」を中心に多くの人物が登場する群像劇だが、彼ら彼女らは本来ならばまず関わらないであろう人たち。それが、この「カープ・キャッチャー」を巡って行動をはじめ、お互いの存在を知り、運命が交錯していく。


 これから内容紹介に入るのだが・・・紹介が難しいんだよねぇこの小説は。

 まずはキャラクターを挙げていこう。

 内山聡史(うちやま・さとし)は23歳。フリーター歴5年。対人恐怖症で、まともに口をきけるのは妹の智(とも:高校2年生)だけ。

 大洞真実(おおほら・まこと)は52歳。8年前に離婚している。何でも屋を生業に、いろいろな雑用を引き受けて糊口を凌いでいる。
 現在は資産家・桐山美紗(きりやま・みさ)の家で、鯉の餌やりと池の掃除を引き受けている。

 春日明(かすが・めい)は女子大生。「カープ・キャッチャー」でアルバイトをしている。大洞真実の娘だが、両親の離婚に伴い、母の旧姓になっている。
 ネットでヒツギム語会話のレッスンを受けていたことから、一連の "事件" に巻き込まれていく。ちなみに「ヒツギム」はアフリカの地方言語の一つ。

 河原塚(かわらづか)ヨネトモ。若い頃は800m走のオリンピック強化選手だったが、70歳を迎えた今は、年金をすべて「カープ・キャッチャー」での釣果に注ぎ込んでいる。その腕前で、周囲からは "神" と呼ばれる存在に。

 柏手市子(かしわで・いちこ)は一人暮らしの専業主婦。夫はアメリカで不動産業を営んでいる。一人息子も成人・独立し、ネットを使った外国語会話教室を運営している(明が受講してるのもここ)。


 物語のきっかけは、「カープ・キャッチャー」のシステム。ここは、釣れた魚によってポイントが与えられ、景品と交換できる。
 最低の1ポイントでもらえる駄菓子「すごい棒」から、ポイントが増えるに従ってジュース・小物グッズ・電化製品と変化し、500ポイントを超えると各種ブランド品がもらえる。
 そして最高峰の1000ポイントでもらえる景品は、表面には何も記載がない謎の白い箱に入っている。

 アルバイトの明は、その中身が知りたいと思っているのだが、店主はどうしても教えてくれない。それを知った大洞は、なんとか娘の希望を叶えようとささやかな "陰謀" を巡らす。

 一方、明の方もトラブルに遭遇する。ネットでヒツギム語会話のレッスンを受けている最中、画面(PC)の向こうにいる講師の男性(ヒツギム人)が、突然乱入してきた一団(こちらもヒツギム人)に拉致される場面を目撃してしまったのだ。
 さらに、一味の一人がPCのカメラ越しに明の存在を知る。明は謎のヒツギム人一味に追われる身となってしまう・・・


 これ以外にもいくつものサブ・ストーリーがあるのだが、それらがみな「カープ・キャッチャー」を媒介につながっていく。

 本書の特徴は、登場人物の大半が「ダメ人間」であること。過去にトラウマがあったり性格に問題があったり自堕落な生活を送っていたり。それが何の因果か互いに関わりを持つことになり、紆余曲折の後、終盤ではなぜか力を合わせてひとつのことに立ち向かうことに。
 終わってみると、一人一人が劇的に変化するわけではないが、"事件" 以前よりはちょっぴり、半歩くらいは前進したかな、という結末を迎える。

 基本はコメディなので、あまり深く考えずに、頭を空っぽにして読むのが正解だろう。作中に出てくる "ヒツギム語" なるものが妙におかしいのもご愛敬。
 あと、タイトルの「サーモン・キャッチャー」の意味も。作中では「カープ」(鯉)なのに「サーモン」(鮭)とはこれいかに?
 この意味はラストに明らかになるんだが・・・これには思わず脱力すること間違いなし(笑)。


 なお、タイトルに「the Novel」とあるのは、小説版と映画版の企画が同時進行していたかららしい。巻末の解説では、映画の方は現在 ”鋭意制作中” とのことなので、近い将来、完成する・・・のかも知れない(笑)。



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