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探偵は追憶を描かない [読書・冒険/サスペンス]


探偵は追憶を描かない (ハヤカワ文庫 JA モ 5-10)

探偵は追憶を描かない (ハヤカワ文庫 JA モ 5-10)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2021/05/18
  • メディア: 文庫

評価:★★★


 売れない画家・濱松蒼(はままつ・あお)は、姿を消した恋人・フオンを追って故郷の浜松へ戻ってきた。
 12年前、高校生だった蒼は女優・石溝光代(いしみぞ・みつよ)の肖像画を描いたが、今になってその絵を追う組織が現れる。彼らの目的は不明だが、蒼もまたその騒動に巻き込まれていく。
 浜松を舞台にしたハードボイルド・シリーズ第2巻。


 自ら姿を消した恋人・フオンを追って浜松に戻った蒼は、友人の小吹蘭人(おぶき・らんと)の家に居候していた。蘭人の父親は暴力団小吹組の組長だが、蘭人自身は堅気でアロマテラピストを生業にしている。

 浜松出身の女優・石溝光代のデビューは40年以上前。以後十数年に渡って売れっ子であり続けたが、実力の割に評価されず、賞とは無縁であった。
 30年前にスキャンダルを起こして表舞台からは去ったが、地元浜松で大衆演劇の一人芝居に活路を見いだし、いわゆるローカルタレントとして生きてきた。
 そんな彼女も70歳を超え、浜松で行われる大衆演劇祭を目前に世を去った。

 そしてその一週間後、蒼は医師の澤本亮平から奇妙な依頼を受ける。12年前に蒼が描いた石溝光代の肖像画を探してほしい、高値で買い取るから、という。
 当時高校生だった蒼は父親に連れられて大衆演劇祭へ行き、そこで石溝光代に引き合わされ、その場で肖像画を描いたのだった。

 高額の報酬を示されて引き受けるが、絵を探し始めた蒼の前に、ガラの悪い男たちが現れる。静岡で小吹組と勢力を二分する暴力団である篠束(しのづか)組が動いているらしい。

 蒼は舘山寺(かんざんじ:浜名湖畔の観光地)に向かう。そこには大衆演劇祭の会場となっている〈舘山寺アコーホテル〉があった。そして、12年前に蒼が光代の肖像画を描いたのもそのホテルであった・・・


 石溝光代の肖像画をめぐる、一種の "宝探し" の物語。蒼の絵自体にはさほど価値はないが(笑)、しかしその絵の存在自体に何らかの意味があるらしい。

 そして、それを取り巻く様々な登場人物たちがまた訳ありそうなのばかり。

 かつて光代のマネージャーを務めていた鈴木は、彼女から「ピンハネ野郎」と呼ばれていたらしく、胡散臭い男だ。
 光代が結婚した相手の連れ子・邦義(くによし)は、南米在住のはずなのだが、日本に帰ってきて、何か画策しているようだ。
 彼女の実子・光輝(みつき)は高校教師をしているが、教え子を監禁した容疑で逮捕・拘留中(おいおい)。もっとも彼自身は「自分はどんなときも高校教師としての自己を全うしている」と語るのみで、何か事情がある様子。
 そして〈舘山寺アコーホテル〉のオーナー・赤河瀬莉亜(あこう・せりあ)は、かつてフオンとも関わりのあった女性で、中盤以降のストーリーのキーパーソンとなる。


 前作は "人捜し" だったが、今回は "モノ探し"。それも自分が描いた絵を自分が探すという、奇妙というか間抜けというか(笑)。
 そして、事件を通して明らかになるのは、一人の女優の生きた "軌跡" と、彼女が残した "波紋" の大きさだ。

 ラストで、蒼は絵に対する情熱を取り戻し始めたように見える。シリーズがこれからも続くのなら、いつかフオンとの再会も描かれるのだろう。



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