SSブログ

空白の起点 有栖川有栖選 必読! Selection 2 [読書・ミステリ]


有栖川有栖選 必読! Selection2 空白の起点 (徳間文庫)

有栖川有栖選 必読! Selection2 空白の起点 (徳間文庫)

  • 作者: 笹沢左保
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2021/12/08
  • メディア: 文庫

評価:★★★☆


 19歳のBG・小梶鮎子(こかじ・あゆこ)は、乗っていた急行列車の窓から、父親・美智雄が崖から転落死する光景を目撃する。保険調査員・新田純一は、保険金目当ての殺人とみるが、関係者は皆、強固なアリバイをもっていた・・・


 有栖川有栖・選による、笹沢左保・復刊シリーズの2巻目。

 ちなみに BG とは Business Girl のことで、今で云うところの OL のこと。当時はそう呼ばれてたんだね。

 大阪発東京行きの急行「なにわ」に乗っていたBG・小梶鮎子は、真鶴を過ぎたあたりで、列車の窓から衝撃的な光景を目撃する。男が崖から転落した瞬間だ。
 後に、男は鮎子の父親で広告会社・全通の会計課長をしていた美智雄と判明し、警察は殺人事件として捜査を開始する。

 鮎子と同じ列車に乗り合わせていたのが、保険調査員・新田純一。調べたところ、美智雄はここ1ヶ月の間に3つの生命保険に入っており、保険金の総額はなんと600万円だった。

 本書は昭和30年代半ばが舞台で、作中に「新入社員の初任給が2万円」という記述がある。およそ現在の1/10と考えると、作中の600万円は現在の6000万円ほどになるのだろう。

 美智雄は先妻との間に長男・裕一郎、長女・美子をもうけ、鮎子は後妻との子だった。妻たちは既に亡くなっており、裕一郎は家を出奔して東京で暮らし、美子も結婚を機に家を出ている。美智雄は鮎子と2人暮らしで、保険金の受取人には鮎子だけが指定されていた。

 しかし裕一郎とその愛人も、美子とその夫も、犯行時刻には確固としたアリバイが存在し、捜査は難航する。

 やがて美智雄の友人で、彼から借金をしていた国分久平という男が容疑者として浮上する。しかし国分もまた真鶴岬の崖の上から海へ身を投げて死亡してしまう。
 飛び込む瞬間を目撃した者もいて、警察は自殺と判断、捜査は終結に向かうかと思われるが・・・


 国分の死が自殺と思えない新田の視線は鮎子に向かう。しかし、急行列車通過のタイミングで父親が転落し、それを目撃した鮎子は列車内にいた。この鉄壁の事実が新田の前に立ちはだかる。

 新田の地道な調査が、この ”偶然の連鎖” を突き崩していくのがミステリとしての注目点なのだが、本書にはもう一つ読みどころがある。それは新田と鮎子の関係だ。

 新田は、過去の出来事をきっかけに他人に対して容易に心を開かなくなり、ニヒルな雰囲気を漂わせた人物として描かれる。作者の人気シリーズの主人公・木枯らし紋次郎にもちょっと似ている。
 鮎子もまた、二十歳前という若さでありながらも、職場の同僚や上司から "憂愁夫人" とあだ名されるほど神秘的な ”翳” (かげ)をまとった女性として描かれる。

 鮎子の中に自分と通じるものを感じた新田は、仕事を超えた熱意をこの事件の解明に注ぎ込むようになる。そして彼の推理は、鮎子の抱えた ”翳” の秘密を明らかにしていく。
 2人の距離は、物語が進むにつれて少しずつ近づいていくのだが・・・


 本書のメイントリックは、いわゆる "○○○○○○○の○○" なのだが、それ以外のところでも犯人は様々な詐術を用いている。
 改めて冒頭の一節を読んでみたら、笑い飛ばされそうな話題の中に重要な伏線が潜んでいて、細かいところまで計算された作品であることが分かる。ダークなロマンスをまとっているが、ミステリ部分は骨太だ。



nice!(4)  コメント(0) 
共通テーマ:

nice! 4

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント