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僕が君の名前を呼ぶから [読書・SF]


僕が君の名前を呼ぶから (ハヤカワ文庫JA)

僕が君の名前を呼ぶから (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 乙野 四方字
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2022/08/10
評価:★★★★

 映画にもなったSF小説「僕が愛したすべての君へ」「君を愛したひとりの僕へ」の ”スピンオフ長編” と銘打ってあるけど、既刊の2冊を補完するというか、この3冊が揃うことによって、この作品世界が完結するように思う。


 これから内容紹介をするけど、上記の2冊を読んだ人向けに書かれている本なので、それらを読むか映画を観るかしてから取り掛かることをオススメする。

 あと、上記2冊のネタバレにも触れるので、未読の(あるいは映画を観てない)方はご注意を。


 舞台は ”並行世界(パラレルワールド)” の存在が実証された近未来。
 並行世界は、自分の存在する世界とほとんど変わらない世界もあれば全く異なる世界まで、可能性の数だけ無数に存在する。

 しかも、人間は日常的に並行世界の間を移動している(作中では ”パラレル・シフト” と呼ばれる)ことも判明する。それは、意識のみが他の並行世界の自分と入れ変わる形で起こる。

 「君を愛したひとりの僕へ」の中で、パラレル・シフトした先で事故に巻き込まれ、意識だけの存在となってしまった佐藤栞(しおり)。
 「君愛」終盤に至り、彼女を救うことに人生をかけた日高暦(ひだか・こよみ)によって、彼女の意識は ”サルベージ” され、「暦と出会わなかった世界」の栞の意識と融合を果たす。

 それが本書の主人公・今留栞(いまどめ・しおり)だ。今留は父の姓で、母親は「虚質科学研究所」の佐藤絲子所長(旧姓使用と思われる)。

  ”佐藤栞” の意識は、今留栞の潜在意識の底に眠っている(ゆえに今留栞には佐藤栞の記憶はない)が、時に表面に浮かび上がってくるようだ。

 栞の母親は並行世界研究の第一人者で、父親は専業主夫として家庭を支えている。離婚の危機を迎えたこともあったが、栞の懸命の説得で2人は思いとどまる。そこには、心の底にいる ”佐藤栞” の意識の働きかけがあった。

 日高暦の目指した通り、栞は暦と出会うことなく中学2年生を迎える。
 夏休みに訪れた元病院の敷地内で、彼女は内海進矢(うつみ・しんや)という、民俗学を研究している大学生と出会うが・・・というわけで、「暦と出会わなかった世界」での栞の人生が綴られていく。


 既刊の2冊の中で、彼女が ”転生” した先は「僕が愛したすべての君へ」の世界であることが示唆されていたのだけど、本書のラストはまさに「僕愛」のラストシーンにつながり、暦・和音・栞の物語は、この3冊によってお互いを補完し合って1つの物語として完結する。

 私のお気に入りの和音さんも、終盤にちょっとだけ登場する。もうご高齢になってるんだけどね。それでも嬉しくなってしまう。


 SFとしてもラブ・ストーリーとしても一級品のこの3冊。ぜひ、まとめて読むことをオススメする。



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