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不見の月 博物館惑星II / 歓喜の歌 博物館惑星III [読書・SF]


不見【みず】の月 博物館惑星Ⅱ (ハヤカワ文庫JA)

不見【みず】の月 博物館惑星Ⅱ (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 菅 浩江
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2021/04/14
歓喜の歌 博物館惑星Ⅲ (ハヤカワ文庫JA)

歓喜の歌 博物館惑星Ⅲ (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 菅 浩江
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2021/04/14

評価:★★★★

 地球から38万km、月と同じ軌道上に浮かぶ小惑星<アフロディーテ>。
 オーストラリア大陸と同じ表面積を持ち、マイクロブラックホール技術を用いて地表面での1Gの重力を実現している。
 そこは全世界からありとあらゆる芸術品が集められ、収蔵されている巨大博物館となっている。
 併設されている劇場では音楽・演劇・舞踏などが行われ、広大な面積を生かした動物園・植物園では様々な生物が育成されている。

 ここのコンピュータには、各種の芸術や生物についての膨大なデータが蓄積されており、勤務する学芸員たちは脳外科手術によってこれらのデータベースと直接接続して、収蔵品の分析・鑑定・研究を行っている。

 シリーズ第1巻である前作は、ここで働く学芸員・田代孝弘が、収蔵品や芸術作品にまつわる ”謎” やトラブルの解決に関わっていく・・・という連作短篇集だった。

 続編となる「II」と「III」では、兵藤健という青年が主人公となる。内容的もこの2冊は連続しているので、まとめて記事にした。

 健は学芸員ではなく、アフロディーテに設営された「権限を持った自警団」(略称VWA)の新人隊員だ。
 自警団とはいってもVWAは国際警察機構の傘下にあるので、要するに博物館の警備員と警官を兼ねているわけだ。

 アフロディーテの学芸員が芸術に関する膨大なデータベースに直接接続してしているように、警察官は警察機構のデータベースに直接接続している。健もまたそうなのだけど、彼には任務がもう一つある。

 彼は ”正義の女神”〈ディケ〉(健は ”ダイク” と男性名で呼ぶのだが)という情動学習型AIにも接続していて、任務を通じてそれを ”育てる” ことも課されているのだ。
 その目的は、将来的には〈ディケ〉が人間の情動を理解し、犯罪を未然に防止することができるようになること。

 健がAI〈ダイク〉とバディを組んで、アフロディーテで起こるさまざまなトラブルや事件に対応していく連作短篇集だ。

 そしてもう一人の主人公が、こちらも新人学芸員の尚美・シャハム。
彼女の上司となるのが田代で、前巻で登場した学芸員や職員たちも、脇役として随所に顔を出す。

 尚美は健とはソリが合わないようで、顔を合わせればケンカをふっかけてくるような気の強いお嬢さん。
 「II」「III」では、この新人2人+AI〈ダイク〉が巻き込まれる事件の数々が描かれる。またそれにつれて2人は成長していくし、関係性にも変化が生じていく。

『不見(みず)の月 博物館惑星II』
「I 黒い四角形」
「II お開きはまだ」
「III 手回しオルガン」
「IV オパールと詐欺師」
「V 白鳥広場にて」
「VI 不見の月」

『歓喜の歌 博物館惑星III』
「I 一寸の虫にも」
「II にせもの」
「III 笑顔の写真」
「IV 笑顔のゆくえ(承前)」
「V 遥かな花」
「VI 歓喜の歌」

 前巻に引き続き、展示品や美術品を巡る ”美” というものについての様々な蘊蓄や思想、さらにはSF的アイデアが盛り込まれて、楽しくかつ面白い作品集になっている。
 私は美術には疎い人間で、中学校時代の美術の成績なんて人に見せられたものではない(だから高校では音楽を選択した)のだが、それでも本書は充分に楽しめたよ。

 基本的に一話完結なのだけど、全体を通してのストーリーもある。

 だいたい親戚の中には一人くらい ”外れ者” というか変人がいたりするものだが、主人公の健にも丈次(じょうじ)という叔父がいる。謹厳実直な警察官だった父とは異なり、飄々とした流れ者で滅多に顔を出さない。

 どこに住んでいるのか何を本業にしてるのかも判らないのだが、どうやら美術品詐欺に手を染めているようで、連作集の中のいくつかの短篇では、事件の裏にあって黒幕的な存在感を示す。
 〈アフロディーテ〉の厳しいセキュリティを軽々と突破して、内部に自由に出入りしてしまうなど、その方面ではなかなかの ”腕” なのだろう。

 健とシャハムが日々の事件解決に奔走する中、〈アフロディーテ〉創立50周年記念フェスティバルが迫ってくる。
 そしてその時を狙って、国際的な贋作組織が〈アフロディーテ〉で取引を行おうとしていた。
 VWAはこれを機会に組織を摘発することを計画し、健に密命が下るのだが、そこに意外な形で丈次も関わってくる・・・

 最終話「歓喜の歌」では、創立50周年記念フェスティバルを迎えた〈アフロディーテ〉の人々の様子が描かれる。それまでの短篇に登場したゲストキャラたちも顔をそろえ、まさにカーテンコール状態。
 健、シャハム、〈ダイク〉、そして丈次を巡る物語も大団円を迎える。

 健とシャハムについてはこれで一区切りになるのだけど、〈アフロディーテ〉はこれからも存在し続けるので、できたら続きが読みたいな。孝弘と美和子のその後も知りたいし。



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