柘榴パズル [読書・ミステリ]
評価:★★★★
タイトルの柘榴(ざくろ)という果物は、ひとつの実から多くの種が採れることから、子孫繁栄をあらわすといわれている。
本書では「家族」を意味する言葉として用いられているのだろうと思う。
語り手は19歳の専門学校生・山田美緒(みお)。
いつもニコニコと気立てのいい母・ショーコ。
ちょっと認知症気味だが、お茶目な冗談を飛ばす祖父・源一郎。
生意気で甘えん坊の妹・桃子は10歳。
面倒見がよくしっかり者の兄・友広は大学3年生。
そして三毛猫の龍之介。
本書はこの一家が過ごす、ひと夏の物語。
その中でいくつかの不思議な事件が起こる、”日常の謎” 系ミステリの連作短篇集だ。
場合によっては探偵役となって事態を解決に導いていくのは、頼りになる兄貴である友広くんだ。
しかし、各話の間には新聞記事が挿入される。それは何者かが住宅に侵入し、就寝していた一家を殺傷したという事件。その日付は9月10日・・・
という不穏な情報が開示されつつ、物語は進行していく。
「第一章 金魚は夜泳ぐ」
商店街で10年ぶりに夏祭りが開かれることになった。
飴屋『たつや』の息子・太一は美大でガラス工芸を学んでおり、夏祭りで展示するためのオブジェを制作していた。しかし、完成したオブジェが何者かに壊されてしまう。しかも現場は密室状態だった・・・
「第二章 月を盗む」
友広がアルバイトをしている写真スタジオを訪れたのは長谷川充と片桐奈々。どちらも友広のサークルの後輩で、結婚を決めていたのだが奈々の両親が反対をしていた。
駆け落ちする前に結婚写真を撮っておこうとした二人だが、そこに奈々の両親が乱入してくる。奈々はスタジオから逃げ出して控室に籠もるが、そこから姿を消してしまう。控室には窓もなく、密室状態だったのに・・・
「第三章 ゆりかご」
酒屋の犬が子犬を産んだ。桃子はその子犬が飼いたいと、家に連れてきてしまう。家族みんなが反対し、返せ返さないと揉める中、突然の停電が。
そして灯りがついたとき、子犬はいつの間にか人間の赤ん坊に変わっていた・・・
いやあ、これは心温まるいい話だ。
「第四章 家族狂奏曲」
箱根への温泉旅行にやってきた山田家。
露天風呂に向かった美緒と桃子は、浴場で旅館の仲居さんが倒れているのを発見する。彼女が女湯に入ったらカメラを持った男がいて、声をかけたら突き飛ばされて転倒したのだという。
しかしその男は、現場から誰にも目撃されずに消えてしまう・・・この密室状況からの消失トリックはなかなかユニークで面白い。
「第五章 バイバイ、サマー」
ここまでの4章の中で、”坂口” と名乗る謎の男が、山田家につきまとうように時たま出没しているのが描かれてきている。
短編ミステリ連作集によくあるように、この最終話にいたって物語の全体像が明らかになる。冒頭から掲げられている新聞記事の意味も。
本書を読んでいくと、時たま「あれ?」って引っかかる描写があるので、ミステリを読みなれた人ならある程度の真相は見抜けるだろうが・・・
これ以上何を書いてもネタバレになりそうなので、本書の評価につけた私の星の数でお察しください(笑)。
最後に「エピローグ」があるのだけど、ラストの展開にびっくり。○○の ”爆弾発言”(笑) もスゴいけど、いかにもこの作者さんらしい結末ともいえる。このエンディング、私は大好きだ。
以前にアップした、同じ作者の『金木犀と彼女の時間』の記事に書いた言葉を、また書かせてもらおう。
小説の終わりが物語の終わりではない。ここからまた新しいストーリーが始まる。この素晴らしい ”着地点” に拍手だ。
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