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アンデッドガール・マーダーファルス1 [読書・ミステリ]

アンデッドガール・マーダーファルス 1 (講談社タイガ)

アンデッドガール・マーダーファルス 1 (講談社タイガ)

  • 作者: 青崎有吾
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2015/12/17

評価:★★★★

本書で描かれる時代は19世紀末、1898年のこと。
しかし、私たちの世界が辿った19世紀ではない。

吸血鬼、人造人間、人狼などの怪物が公然と
(一部は世間から隠れているが)跋扈している。
そして、西洋の怪物たちだけでなく、日本の妖怪のような
東洋の ”人外” たちもまた人間たちの間に根を下ろしている。

さらに加えて、多くの名探偵たちや怪盗、犯罪者たちも実在している。
つまり、我々の世界ではフィクションの中にだけ存在していた
それらのものを、まとめて放り込んだような世界が舞台となっている。

 作者の(たぶん)好きなものを集めた ”ごった煮” のような世界だけど
 不思議と調和がとれているような気もする。
 そう思わせるだけの筆力が備わっているのだろう。
 作者の ”抽斗の多さ” には驚かされる。

産業革命から100年、科学文明を得た人類は次第に勢力範囲を拡大し
ヨーロッパ各地に潜む怪物たちを排除しつつあったが、
それでも ”人外の存在” が関わる事件は起こっていた。

そんな ”怪物事件” を専門に請け負う探偵・輪堂鴉夜(りんどう・あや)、
彼女の助手(下僕?)の真打津軽(しんうち・つがる)、
そして鴉夜に仕えるメイド(!)の馳井静句(はせい・しずく)の
3人組が本シリーズの主役を務める。

「序章 鬼殺し」では、鴉夜と津軽の出会いが描かれる。

「第一章 吸血鬼」
舞台はフランス。吸血鬼ゴダール卿は人間との共存を目指す
「人類共和派」で、スイス国境近くの街で隠棲していた。
しかし彼の妻ハンナが殺害される。彼女もまた吸血鬼であり、
驚異的な再生能力を持つが故に通常の凶器では殺すことができない。
遺体の状況から、凶器は ”銀の杭” かと思われたが、
吸血鬼は銀に触ることができない(ひどい火傷を負ってしまう)・・・
いわゆる特殊状況ミステリなのだけど、作中で吸血鬼の特性が
十分に説明されていて、それに則って解決される。
途中で「そうか!」って見当がつく人もいるだろうが
同時に「なるほど!」って思うだろう。
流石は「平成のエラリー・クイーン」である。

「第二章 人造人間」
舞台はベルギー。天才と呼ばれたボリス・クライブ博士は
入手した「フランケンシュタイン博士の手記」をもとに
人造人間の研究を進めていた。
しかし、研究の完成を目前に、博士は殺害されてしまう。
遺体の首は切断され、密室状態の現場から持ち去られていた・・・
ミステリ的なオチは見当がついてしまうかも知れないが
そこはメインではないのだろう。終盤になって
鴉夜と津軽の ”ある関わり” が明かされるところが胆(きも)か。

このシリーズの魅力は3つだろう。

まずは本格ミステリ要素。
「第一章 吸血鬼」のように、作中に示される手がかり、
与えられた情報をもとに、理論的に推論して真相に辿り着く。
これは作者がもともと本格ミステリ作家だからね。

2つめは、アクションシーン。
怪物相手だから、場合によっては格闘戦に移行する場合もある。
頭脳労働担当の鴉夜に対し、肉体労働担当は津軽。
人外の血を引く津軽は、常人を遥かに超える戦闘能力を有し、
怪物たちとも互角以上に渡り合ってみせる。
読んでいて感じたのは、菊地秀行の伝奇アクション小説。
「魔界都市 新宿」(おお、懐かしい)のような
”超人vs怪物” の戦闘シーンが展開する。

 実はもうこのシリーズ、3作目まで読了済なんだが、
 次巻以降では戦闘シーンも大増量。
 本作では披露されなかったけど、静句さん(彼女は人間、たぶん)もまた
 ただのメイドさんではない。そのあたりは次巻のお楽しみ。

3つめは、台詞回しの面白さ。
本書には異形の怪物たちが登場し、鴉夜や津軽の正体を含め、
全体的にホラーな設定で統一されているのだけど
それを上手く中和しているのが、鴉夜と津軽(+ときどき静句)の
間で交わされる軽妙な会話。これが抜群に楽しい。
落語好きな津軽の軽口を、鴉夜がピシッと切って捨てるあたり
よくできた漫才を見ているようだ。
静句さんもまた、津軽に対しては容赦ない毒舌の嵐。
それでもくじけない津軽もいいキャラだ。
会話劇の楽しさは、裏染天馬シリーズにもあったけど、
このシリーズではそれが全開になっている

「アンデッドガール・マーダーファルス」
直訳すると「不死の少女の殺人笑劇」。
読み終わって改めてこのタイトルを見ると、
見事に内容を表しているなあと感心してしまった。


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