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賛美せよ、と成功は言った [読書・ミステリ]

賛美せよ、と成功は言った (祥伝社文庫)

賛美せよ、と成功は言った (祥伝社文庫)

  • 作者: 石持浅海
  • 出版社/メーカー: 祥伝社
  • 発売日: 2020/03/13
  • メディア: 文庫
評価:★★★★

未来の火山学者を目指す若き女性・碓氷優佳(うすい・ゆか)を
探偵役とするミステリ・シリーズ、第5作。

優佳は、15年ぶりに再会した高校時代の友人・武田小春とともに
同窓会に参加することになった。

同窓会といっても高校ではなく、予備校の同期生たちである。
彼ら彼女らの通っていた予備校の講師・真鍋宏典(まなべ・ひろのり)は
多くの教え子たちに慕われ、自然と彼を中心に生徒の集まりができた。

彼らの中には、大学進学後もしばしば真鍋のもとを訪れ、
進路について相談したりアドバイスを求める者も多かった。

その中の一人、湯村勝治(ゆむら・かつじ)は
大学卒業後に大手商社に入り、手がけたロボット開発事業によって
経済産業省から「日本ベンチャー大賞」を受賞した。

今回の同窓会は彼の受賞を祝うためで、
湯村、優佳を含めて9名の同窓生が集まることになった。

しかし、和やかに進む酒宴のさなか、
出席者の一人・神山裕樹(かみやま・ゆうき)が突然、
ワインボトルで恩師の真鍋を殴り殺してしまうという事件が発生する。

神山自身は、警察の調べに対して
頭に血が上って発作的に犯行に及んでしまったと語るが、
優佳は参加者の一人に疑いの目を向ける。
その人物は、自らのいくつかの行動を通じ、神山に犯行を誘発させる
お膳立てをすることが可能だったのではないか?

同窓会の会場だったホテルに残った8人のメンバーは、
酒を飲みながら祝宴の様子を振り返るが
優佳は ”黒幕” と思われる人物に対して
密かな ”論戦” を仕掛けていく・・・

本書のメインは、この8人よる ”集団討論” シーンだ。

優佳は、”黒幕” に対してあからさまな告発はせず、言外に
”あなたが仕組んだことではないか?” という意味合いを匂わせる。
”黒幕” もまた敏感にそれを察して堂々と受けて立ち、
こちらも言外に ”反論” を含ませる。

その場にいる ”聴衆” を自分の側につけようと、
言葉による丁々発止の攻防が繰り広げられる。
この二人の ”論戦” が本書最大の読みどころだ。

他の同窓生たちは二人の ”対決” に全く気づかない。
唯一、事前に ”黒幕” の存在を優佳から知らされていた小春だけが
二人のやりとりをハラハラしながら見つめる。

小春の役回りは読者に対する ”実況中継&解説” 役。
本書の語り手が彼女に設定されてるのはこのためだったのだね。

一見して意味不明なタイトルも終盤近くでしっかり回収される。

本書に登場する ”同窓生たち” は、優佳を含めて
旧帝大クラスへ現役合格できるくらいの超優秀(高偏差値)な集団。

学生時代はそれぞれでかい夢を持っていたし、
実際それが実現できる道へ進んだ者がほとんど。
東大に入った者もいれば医学部に入った者もいる。
優佳だって東工大に現役合格してる。

しかし大学を出て10年もすれば、それぞれの人生の浮沈も出てくる。
学生時代の夢をかなえた者もいれば、早々に脱落した者も。
なかでも、自分のせいならともかく、
周囲の状況で夢を断念せざるを得なかった者は
さぞかし悔いが残るのではないか・・・

”黒幕” の動機はある程度見当はついたが
こういう形で自分の不満を晴らすというのはねぇ・・・

卓越した能力を持つがゆえに、夢を追い続ける(追い続けられる)ことは
果たして幸福なのか。こういう人たちは得てして
自らの高い能力ゆえに、より実現困難な夢を持つだろうし。
叶う確率が高いとは必ずしも言い切れないところが難しいね。

自分の能力を過信せずに、身の丈に合った人生を早々と選んだ凡人と
どっちが幸福なのだろう。


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コメント 4

mojo

31さん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2020-08-30 10:07) 

mojo

サイトーさん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2020-08-30 10:07) 

mojo

鉄腕原子さん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2020-08-30 10:07) 

mojo

@ミックさん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2020-08-30 10:08) 

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