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白戸修の逃亡 [読書・ミステリ]


白戸修の逃亡 (双葉文庫)

白戸修の逃亡 (双葉文庫)

  • 作者: 大倉 崇裕
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2016/09/15
  • メディア: 文庫
評価:★★★★

無類のお人好しなのだけど、中野に来るとなぜか
事件に巻き込まれてしまう青年・白戸修を主人公としたシリーズ、
その第3作にして初の長編である。

 ちなみに中野とは東京の地名で、中野駅はJR新宿駅から3つめである。

第1作では大学生だった白戸くんも、
今作ではサラリーマン2年目を迎えている。
しかしトラブルについて回られる体質は相変わらずで、
今回は最大の危機に遭遇する。
作中ではかなりヒドイ目にあうのだけど、
いつもながらの彼のユーモアあふれるボヤキが
作品が深刻な雰囲気に陥るのを回避しているのはいい塩梅だ。
基本的にはコメディ・タッチの楽しいミステリである。


彼が働く世界堂出版が発行している雑誌の取材のため
白戸くんは京成大学准教授の聖田(ひじりだ)良男に会いに行く。
しかしその取材内容は、二人で中野駅を目指して歩くというもの。
嫌々ながら同行した白戸くんだが、途中で寄った喫茶店で
トイレに入ろうとした時、謎の男に刃物を突きつけられる。
男に脅されるままに服を交換させられる白戸くん。
しかしその直後から、周囲の人間たちが
目の色を変えて白戸くんのことを追い回し始める。

その理由は、毎年お台場の会場を借り切って3日間開催される、
世界的に有名なビッグイベント「メガトンコミックフェスタ」にあった。

このイベントは漫画と同人誌の展示即売会で、
来場者は100万人を数える。
しかし今年は、開催直前に実行委員会あてに何者かから
「会場に爆弾を仕掛けた」との脅迫メールが届き、
中止が決まったばかりだった。

差出人の正体は不明だったが、ネットでは立腹したファンたちによって
自主的な犯人探しが始まり、そこで浮上したのが「松崎」という男だった。

しかしネットで流れている「松崎」とされる男の写真は
ピンぼけで顔はわからない。
唯一判別できるのは服装のみで、それが今まさに
白戸くんが来ている服だったのだ。
つまり白戸くんは、100万人が楽しみにしていたイベントを
中止に追い込んだ犯人に間違われたわけで、
その100万人の憎悪を一身に背負うことになってしまったのだ。

ネット上では「松崎」を捕まえたら賞金を出すという者まで現れ、
白戸くんを追う者たちの行動はヒートアップするばかり。
捕まってしまったら命の危険さえあるだろう。

万事窮すかと思われたその時、白戸くんに救いの手が差し伸べられる。
何でも屋の日比、探偵社調査員の北条、
そして今は北条の恋人となっている杉本恵・・・
この3人にとどまらず、第1作、第2作で描かれた過去の事件で
白戸くんが関わり、解決してきた事件の当事者たちが
独自のネットワークを作り上げ、
白戸くんを救うべく活動を開始していたのだ・・・

白戸くんは彼らの協力を得ながら、脅迫事件の真相、
メールの差出人の正体に迫っていく。


「情けは人のためならず」ということわざがある。
最近は誤った解釈をしている人も多いらしいので原義を書いておくと
「情けは人の為だけではなく、いずれ巡り巡って
 自分に恩恵が返ってくるのだから、誰にでも親切にせよ」
ということである。

主人公・白戸くんは、将来自分に恩恵が返ってくることを
期待しているわけではなく、純粋に困っている人を「ほっとけない」。
関わっても損なことばかりで得なことは何一つないって分かっていても、
それでも人助けに奔走してしまうという究極の ”お人好し” なのだ。

そして本作は、その白戸くんが徹底的に ”報いてもらう” 話なのである。


前2作を読んだ人なら、白戸くんはいい人だけど損な性分だなあ・・・
って思う人が大半だろう。
しかし、過去の事件で白戸くんと関わり、
彼のそういう性格を知った人たちが、
今度は白戸くんを「ほっとけない」とばかりに、
横の連絡を取り合って彼の窮地に次々と駆けつける。
皆さんなかなか濃いキャラの方が揃っていて
まさにオールスターキャストである。
しかもその登場の仕方がまたかっこいい。
本業や特技を生かし、ここぞという場面で颯爽と、
あるいは密やかに現れる。
本書の一番の読みどころはここだろう。

このあたり、読んでいてなんだか無性に嬉しくなった。
「お前って、こんなに人の信望を集めるようになってたんだなあ・・・」
なんだかすっかり父親目線になり、感慨にふけってしまったよ。


もちろんミステリなので最終的に犯人は明らかになるし、
意外な真実も明らかになるのだけど
本作のキモはまちがいなく白戸くん本人の存在。

もしこれから本作を読もうとする人がいるなら、前2作は必読だ。
読んでいないと面白さは半減どころではない、
かなりの部分が伝わらないだろう。
言い換えれば、前2作はこのためにあったのかとも思わせるくらい。

よく「シリーズ既刊を未読でもこの作品は単独で十分楽しめます」
という宣伝文句がある。出版不況の今ではそういう要素も大事だろう。

しかし本書は、その流れに逆行するかのように
シリーズの既刊を読んでおかないと本当の面白さは分からない。
こんなふうに読者のハードルを高めてしまうのは
商業的には正しくないのだろうけど、
本作に限っては、既刊を追いかける価値は十分にあると思う。

前2作も十分に面白いと思うので、このシリーズを未読の人は
この際、究極の ”お人好し” に会いにいくのもいいのではないですか?

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コメント 5

mojo

はじドラさん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2018-11-20 22:03) 

mojo

xml_xslさん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2018-11-20 22:04) 

mojo

@ミックさん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2018-11-20 22:04) 

mojo

鉄腕原子さん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2018-11-20 22:05) 

mojo

31さん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2018-11-25 00:19) 

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