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サラファーンの星 四部作 [読書・ファンタジー]


星の羅針盤 (サラファーンの星1) (創元推理文庫)

星の羅針盤 (サラファーンの星1) (創元推理文庫)

  • 作者: 遠藤 文子
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2016/09/10
  • メディア: 文庫
石と星の夜 (サラファーンの星2) (創元推理文庫)

石と星の夜 (サラファーンの星2) (創元推理文庫)

  • 作者: 遠藤 文子
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2017/01/12
  • メディア: 文庫
盗賊と星の雫 (サラファーンの星3) (創元推理文庫)

盗賊と星の雫 (サラファーンの星3) (創元推理文庫)

  • 作者: 遠藤 文子
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2017/05/11
  • メディア: 文庫
星水晶の歌〈上〉 (サラファーンの星4) (創元推理文庫)

星水晶の歌〈上〉 (サラファーンの星4) (創元推理文庫)

  • 作者: 遠藤 文子
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2018/05/31
  • メディア: 文庫
星水晶の歌〈下〉 (サラファーンの星4) (創元推理文庫)

星水晶の歌〈下〉 (サラファーンの星4) (創元推理文庫)

  • 作者: 遠藤 文子
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2018/05/31
  • メディア: 文庫
評価:★★★

文庫本で全5冊、合計して2200ページを超える超大作ファンタジー。


その世界には、人間の住む王国が6つある(冒頭に地図がある)。
西からギルデア、ボー、イルバーン、テス、アトーリス、リーヴェイン。
そしてそれらの南には、数千年の寿命と超常の力を宿す種族・フィーンの
暮らす王国エルディラーヌがあった。
これら7つの王国は、長きにわたって平和な時を刻んできた。

しかしギルデアで皇帝ダイロスが即位すると事態は一変する。
彼は周辺諸国へ宣戦を布告、隣国ボーを併合したのちは
さらにイルバーンとテスに対して侵攻を開始したのだ。


物語は、戦火を逃れて故郷であるテスを離れ、
母の出身地であるリーヴェインに逃れてきた少女・リーヴから始まる。

リーヴの家では、父・ヒースがギルデアとの戦いに出征したため、
彼女は母・フェルーシアと兄・ウィルナーとともに
リーヴェイン王国の小さな村・フォーディルへやってくる。
そこにはフェルーシアの兄・ダンがいたからだ。

ダンは妻を早くに亡くし、後添えもまた早世したために
母の違う息子二人、ジョサとハーシュと暮らしていた。
音楽を生業とする父・ダンのもと、
ジョサもまた音楽家への道を進もうとしていた。

リーヴたちはダンの一家とともに暮らし始める。
それは戦火から遠く離れた穏やかな生活だったが、そんな中、
リーヴは村人たちが “呪われた森” と呼ぶ場所で一人の少女と出会う。

その少女の名はルシタナ。
母はエルディラーヌの王女・エレタナ、
父はアトーリスの王子・ランドリア。
フィーンと人間という許されざる恋に落ちた二人は、
それぞれの王家から逃げ出し(要するに駆け落ちして)、
リーヴェインで暮らしていたのである。
ルシタナとエレタナは普段は森で暮らし、
ランドリアは諸国を巡ってギルデアの動向を探っていた。


さて、本書にはメインとなる主人公が存在しない。
上記の人々以外にも、様々なキャラクターが登場して
世界のあちこちで戦争と関わりながら生きており、
それらを交互に描いていく群像劇となっている。

例えばアトーリスとギルデアは、国土が接してはいないが
ギルデアの脅威に対抗するために、
アトーリスはテスとイルバーンに援軍を送っているし、
〈イリュイア〉という諜報組織を抱えてギルデアとの諜報戦に備えている。
その諜報員の一人ステランは、密かにランドリアと通じており
協力してギルデアの仕掛けてくる謀略に対抗していた。

さらにエルディラーヌにはエレタナの従兄弟・ヨルセイスがいる。
彼はランドリアとエレタナのよき理解者であり、かつ武術の達人で
二人が窮地に陥ったときにはどこかともなく現れて
助太刀してくれるという、月光仮面みたいな人である。
(たとえが古いねえ。歳が分かるぜ)


タイトルの「サラファーンの星」とは、フィーンの間に伝わる
超絶的なエネルギーを秘めた宝石のこと。

フィーンたちはもともとランゲフニーという ”異世界” で暮らしていたが
「サラファーンの星」の力の暴走によって故郷は滅亡、
生き残った者たちが星の海を渡って、この世界へやってきたのだという。

その「サラファーンの星」がフィーンの元から盗み出され、
ギルデアの皇帝・ダイロスの手に渡ったのがすべての始まり。
その超常の力を手にした彼は、世界征服へと乗り出したのである。


しかしフィーンの預言者・レクストゥールは語った。

「希望を失ってはならない。いつの日か、影の力を止める者が現れる」

世界を救う ”英雄” の出現を告げるが、しかしこうも語る。

「真に問われるべきは、定められた者が誰であるかではなく、
 われわれがいかにあるかなのです」

一人の ”英雄” がすべてを解決するのではなく、そこに至るまでに
この世界にある者ひとりひとりが、いかに力を尽くすかが大事だと。


しかし人間たちの中には、いつ現れるかも分からない ”英雄” に
頼ることなく、「力には力を持って対抗する」という考えに
囚われた者もまた存在する。
対ギルデア陣営の中では最大勢力の国家であるアトーリスは、
ギルデアの圧倒的な戦力に対抗すべく、
〈氷河〉なる超兵器の開発に着手する。
試作実験では予想以上の威力を示すが、その使用によって
世界はそのバランスを崩し、異常気象が猛威を振るい始める。
〈氷河〉の使用を続ければ、ギルデアも含めて世界が滅亡するだろう。
しかしアトーリスは〈氷河〉の実戦投入を決断する。

 ここまで書いてきて分かると思うが
 〈氷河〉は核兵器のメタファーだろう。

アトーリスが〈氷河〉を実戦で使用する前に
ダイロスから「サラファーンの星」を奪還できるか、が
物語のキーポイントとなるわけだ。


なにぶん大長編であるが故に、物語は様々な顔を見せる。
”世界の運命を賭けた戦い” を舞台としているのだけど
大規模な戦闘シーンはほとんど登場せず、
多くの登場人物たちそれぞれが、
その時その場所で、戦争と向き合う姿を描いていく。

 颯爽と現れたヒーローが、敵の軍勢を打ち破り、
 悪の皇帝を倒してめでたしめでたし、って作品を期待する人には
 本書はオススメできないと書いておこう。


序盤では、平和な村で暮らすリーヴたちの、
長閑で牧歌的な生活が綴られる。
このあたりで連想するのは、往年の「世界名作劇場」だ。

そんな、「アルプスの少女ハイジ」や「赤毛のアン」みたいな世界に
少しずつ戦争が影を落とし始める。
中盤に入ると、村の人々の中にも戦地に向かう者が現れる。
リーヴの兄・ウィルナーは軍に志願し、
従兄弟のジョサは、戦地を慰問する楽団に加わって最前線へ向かい、
ハーシュは通信士養成学校へ入学する。
リーヴ自身もまた、戦争に備えて看護師としての訓練を受けることに。

 「この世界の片隅で」のファンタジー版、って雰囲気もちょっとある。

そして、着々と進む〈氷河〉の研究開発を止めようと
奔走するステランとランドリア。


戦争の足音が着々と近づく中でも、若者たちは精一杯生きる。
ウィルナーは、テスで負った戦傷の治療をしてくれたルシタナと
心を通わせ、やがて二人は愛し合うようになる。
そして、ジョサとハーシュ、二人の若者から思いを寄せられるリーヴ。
しかしそんなささやかな思いも、戦争は押し流していく。


そして終盤に至ると、意外なくらいキャラクターが死んでゆく。
それはもう、あの序盤の雰囲気からは想像できないくらい理不尽な形で。
もっとも、戦争に於いて理不尽でない死など存在しないとも言えるが。

 世の中には「皆殺しの富野」とか「皆殺しの田中」とか呼ばれる
 監督や作家さんがいるが、本書の作者もそれに劣らない。
 「イ○オ○」並みとまでは言わないが、
 この手のファンタジーでは珍しいくらいお亡くなりになる。

もちろん戦争を描いている以上、人が死ぬのは当たり前で、
たとえどんなに重要なキャラであろうとも
ストーリーの展開上で必要ならば、退場させなければならないのは分かるが、
読んでいて「えー!、この人死んじゃうの?」とか
「このキャラまで殺しちゃうのぉ?」とか思いながら読むのは
トシをとったせいか精神的に辛いものがある。


手元にある読書記録を見ると、第1巻を読み始めたのは7月26日、
そして最終巻を読み終えたのは8月16日。
途中で何冊か並行して読んでたとはいえ、
約3週間で2200ページを読んだわけで、
1日平均100ページ強というペースで読んでいたことになる。
この作者は、読ませる力はあると思う。
そして、私が今まで読んだことのない、ソフト&ハードな ”芸風”(笑)の
ファンタジーの書き手であることも間違いない。

次回作がいつになるのか分からないけど、
もうしばらく追っかけてみようと思う。

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コメント 5

mojo

鉄腕原子さん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2018-09-24 20:43) 

mojo

はじドラさん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2018-09-24 20:45) 

mojo

@ミックさん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2018-09-24 20:45) 

mojo

xml_xslさん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2018-09-24 20:46) 

mojo

はっこうさん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2018-09-24 20:46) 

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