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ラプラスの魔女 [読書・ミステリ]


ラプラスの魔女 (角川文庫)

ラプラスの魔女 (角川文庫)

  • 作者: 東野 圭吾
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2018/02/24
  • メディア: 文庫
評価:★★★

いまや大御所となった感のある東野圭吾氏。

初期の作品はけっこう読んでたし、
加賀恭一郎シリーズも途中までは読んでた。
でも今では、必ず読むのは
「ガリレオ」シリーズだけになってしまったなあ。

そんな私が本書を読もうと思ったのは、なんといっても
桜井翔と広瀬すずという2大アイドルスターの共演という話題性。

桜井くん演じるのが地球化学の研究者という役回り、
っていうのもポイントが高かった。

 要するに「ガリレオ」みたいなのを内心では期待していたんだね。

しかしながら、今日に至るも映画は未見(おいおい)。
実は本書を読み終わったのは5月初め。
映画封切りの直前だったのだが・・・


物語は、10歳の羽原円華(うはら・まどか)とその母・美奈が
北海道をドライブしているシーンから始まる。
しかし二人は、突如として発生した竜巻に巻き込まれ、
美奈は亡くなってしまう。

そして数年後。
円華は父親の勤務先である開明大学の敷地内で、
なぜか軟禁状態で暮らしている。
外出する際には常にボディガード兼監視役の
武尾(たけお)が同行することになっていた。

武尾は元警官だったが、円華の護衛役を務めるうちに、
不思議なことに気づいていく。
風に飛ばされた帽子が落下する場所を事前に察知していたり、
彼女が折った紙飛行機は見事な旋回を描いて飛翔し、
そして彼女のもとへ帰ってきたり、
雨の降りやむ時刻を正確に言い当てたり・・・

そしてある日、彼女はその “予想能力” を駆使して
武尾を振り切り、脱走してしまう。

一方、ある温泉地で映像プロデューサー・水城(みずき)が死亡する。
死因は硫化水素による中毒死と思われたが、
同行していた水城の妻・千佐都(ちさと)は
二回り以上も年下であったことから、殺人の疑いも捨てきれない。

泰鵬大学教授で地球化学の研究者・青江修介は
地元の警察の依頼を受け、現場の調査に赴く。
そこで修介は若い女性(円華)を目撃する。
どうやら、彼女は一人の青年の行方を追っているらしい。
彼は事件のあった前日に現場近くに宿泊していたのだ。

そして2か月後、別の温泉地でも同様の死亡事件が起こった。
調査に訪れた青江は、ふたたび円華の姿を目撃する。

二つの中毒死にはつながりがあるのか?
円華が探す青年は事件とどんなかかわりを持っているのか・・・?


読んでいて感じたのは何ともすっきりしない思い。

映画版ではおそらく主役となるであろう青江だが、
小説版ではややキャラが弱いんじゃないかなあ。

快刀乱麻に謎を解くわけでもなく、
どちらかというと円華嬢に振り回される役どころ。
地球化学の知識も事件解決にさほど役立つわけでもない。
年齢も40代で既婚、中学生の息子がいて、
颯爽とした桜井翔を期待して読むと当てが外れるだろう。

物語の展開も、犯人も、ある意味予想の範囲内で進行していく。
それでも先へ向けて読ませるのはさすがのわざだとは思うが。

そして、いちばん気になったのは、円華嬢の特殊能力である。


以下はネタバレに属する内容なので
これから本書を読む、あるいは映画を見る、という人は
目を通さないことを推奨する。


円華嬢の予知能力は、実は外科手術による
一種の脳改造によるものであることが明らかになる。
これにより、彼女はスパコン並みの演算能力を身に着けることになった。

 珠算の達人による暗算の様子なんかをたまにTVで見ることがあるが、
 あれを数億倍(?)にしたくらいの計算を
 瞬時にこなすようになったわけだ。

しかしこの手術、彼女自身が脳改造を自ら望み、
彼女の実の父・羽原全太郎(脳神経細胞再生研究の第一人者でもある)も
それに応じてしまうところはいささかひっかかる。
その背景には母親(全太郎にとっては妻)の死があるとはいえ
娘を人体実験に使うのではマッドサイエンティストだろう・・・

「それがなかったら話が始まらないだろう?」
って意見もあるのはわかるが。

 昭和のヒーローものみたいに、
 その手術をしなければ彼女の命が失われるとかの
 切羽詰まった状況でもあればねぇ。
 そういえば「仮面ライダーV3」(昭和48~49年)が、
 やはり主人公が瀕死の重傷を負い、
 彼の命を救うために改造人間にした、って展開だったなあ。

 ちなみに本作で謎の青年を演じているのは福士蒼汰。
 『仮面ライダーフォーゼ』の主役だったのは偶然だろうが。


しかし、以上の点は私にとってはあまり大きな問題ではない。

「脳がスパコン並みの演算能力を得ればなんでも未来がわかる」
ってことこそ、私がいちばんひっかかったところ。


これ以降の文章は、難癖というか重箱の隅をつつくというか
本作が好きな人にとっては不愉快な文章になってると思います。
ネットでは書く自由もありますが読まない自由もあるので
ぜひその権利を行使していただきたい。


どんなスパコンだって、データがなければ計算そのものが成立しない。

たとえば、冒頭にある飛ばされた帽子のエピソード。
彼女がその様子を見て、落下地点を当てることを考えてみよう。

飛ばされた帽子の質量、速度、角度、回転、そして空気抵抗、
そのときの大気の圧力やら密度やら
関わる要素はそれこそ無限にありそうだし、これを瞬時に、
しかも目で見ただけで数値化するのははたして可能なのか?


天気の変化を予知するのだって、
将来、気象庁にあるスパコンが今の数十倍に性能アップすれば
狭い地域のリアルタイムな天候変化を
瞬時に計算できるようになるかもしれない。
しかしそれは、無数の観測機械から送られてくる
データあってのことじゃないのか?

彼女が空を見上げて入手できる情報だけで
その場所における数時間後の天候の変化を計算できるものなのか?
どう考えても上空の温度とか風速とか湿度とか
最低でも周囲数十キロくらいの気圧配置とか雲の分布とかも
わからないと、まず不可能なのではないかい?


表題の「ラプラスの魔女」は、
「ラプラスの悪魔」から来ているのだろう。

Wikipediaからの引用なので恐縮だが・・・

フランスの数学者ラプラスによって提唱された概念で、
彼は自著において以下のような主張をした。

「もしもある瞬間における全ての物質の
 力学的状態と力を知ることができ、
 かつもしも
 それらのデータを解析できるだけの能力の知性が存在するとすれば、
 この知性にとっては、不確実なことは何もなくなり、
 その目には未来も(過去同様に)全て見えているであろう。」
                 — 『確率の解析的理論』1812年

このような “超知性” を「ラプラスの悪魔」と呼んでいるのだが
円華嬢は「かつもしも」以降の部分の能力は獲得していても
以前の部分の能力は有していないんじゃないのかなあ。

 実はもう一つ書きたいことがあったんだけど
 もういい加減書いてきたので割愛。


「フィクションなんだからそんなに固いこと言うんじゃないよ、
 野暮だなあ・・・」
って意見があるのは百も承知なのだが
なまじ理論的に説明しようとして
かえってリアリティを失っているような気がしてならない。

「大多数の人はそんなとこまで気にしないよ」
たぶんそうなのだろう。でも私は気になってしまうんだよなあ。

いっそのこと超常現象と割り切って
「予知能力なんです」って言いきってくれたほうが
なんぼかすっきりするように思うし、
私もこんなに長々と “難癖” を唱えることもなかったろうに・・・

 いやホントに、こんなに長く書くつもりなんて全くなかったんだけど
 書き始めたら止まらなくなってしまった。

これもまた “東野マジック” なのでしょうかねぇ・・・

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コメント 3

mojo

@ミックさん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2018-06-16 22:58) 

mojo

鉄腕原子さん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2018-06-16 22:58) 

mojo

31さん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2018-06-16 22:58) 

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