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親のお金は誰のもの 法定相続人 [映画]



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まずはあらすじ。「Movie Walker」から引用する。

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 東京のIT系外資企業に勤める大亀遥海(比嘉愛未)の元に、ある日、母・満代(石野真子)が亡くなったとの知らせが入る。
 遥海は父・仙太郎(三浦友和)との間に確執があり二度と故郷・伊勢志摩には戻らないつもりでいたが、母が生前に送ってきたハガキが気になり、母の通夜に出席するため久しぶりに帰省する。
 通夜会場の広間に集まった大亀家の長女・珠子(松岡依都美)、次女の浜子(山﨑静代)、遥海の三姉妹と父・仙太郎の前に、弁護士の城島龍之介(三浦翔平)が現れ、これからは仙太郎の成年後見人として大亀家の財産を管理すると告げた。珠子と浜子は仙太郎が認知症であることを家庭裁判所に申告しており、驚きを隠せない。
 管理業務にあたっていた龍之介は、やがて仙太郎が6億円の価値がある伝説の真珠を隠し持っていることを知り、真珠を売却すれば巨額の付加報酬を得られるため探し始める。
 父親の遺産を狙う珠子と浜子もまた真珠の存在を知り、龍之介よりも先に見つけようと必死に探し回っていく。
 一方遥海は、母を死に追いやった原因は真珠の養殖を手伝わせた父にあるとして恨みを募らせ……。
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 ちょっと補足しておくと、仙太郎と満代はそれぞれ子連れ同士の再婚。長女の珠子、次女の浜子は仙太郎の子で、三女の遥海は満代の子。だから仙太郎と遥海には血のつながりはない。仙太郎が生前の母に過酷な労働を強いていたと感じた遥海は、そんな故郷を離れて上京し、就職してしまった。
 さらに付け加えるなら、仙太郎の財産について遥海には相続権がない。それ故に今回の騒ぎについては、彼女は大亀家からやや距離を取り、ちょっと醒めた視点から全体を眺められるというキャラになっている。


 これから感想を書くけれど、以下の文章ではこの映画のことをあんまり褒めてない。というかけっこう文句を書いてることをあらかじめ断っておく。
 なので、この映画が「大好きだ!」「感動した!」って人からすると甚だオモシロくない文章になっているので、そういう方は以下の文章を読まないことを推奨する。


 私も数年前に父親を亡くし、”相続” というものを経験した。言葉としては知っていたが実際に自分が体験するのは初めてで、いささか戸惑いもあった。もっとも、父はしっかり遺言書を用意してあったので、遺族間で争うなんてこともなく、平穏無事に相続を終えたが。

 そして今、母も80代後半となり、(あまり考えたくないが)そう遠くない将来にもう一度 ”相続” を経験するだろうし、さらには私自身も60代。私の財産(というほどたいしたものでもないが)の ”相続” も、これもいつかは必ず起こることになる。

 とまあ、「相続」という言葉が ”身近” になってきた高齢者としては、こういうタイトルで映画を作られては観に行きたくなるのが人情だろう。


 というわけで観てみたのだが・・・なかなか評価に困る映画のように思う。

 予告編を観てると、被後見人の財産を巡って弁護士と親族が角突き合わすコメディっぽい作品のように思えたんだが、実際フタを開けてみると、そう単純なものではないようだ。

 取り上げられている題材としていちばん大きいのは「成年後見制度」だろう。

厚生労働省のHPでは
「認知症、 知的障害、精神障害などの理由で、ひとりで決めることが心配な方々・・・(中略)・・・を法的に保護し、ご本人の意思を尊重した支援(意思決定支援)を行い、共に考え、地域全体で明るい未来を築いていく。それが成年後見制度です。」

 そしてそのために「成年後見人」が選定される。

再び同HPより
「成年後見人等は、ご本人のためにどのような保護・支援が必要かなどの事情に応じて、家庭裁判所が選任することになります。”ご本人の親族以外” にも、法律・福祉の専門家その他の ”第三者” や、福祉関係の公益法人その他の ”法人” が選ばれる場合があります。」(” ” は私がつけました)

  大事なことは、必ずしも親族が選任されるわけではないこと。そして、裁判所が決めた成年後見人に対しては、親族といえども不服申し立てはできないこと。選任・解任は裁判所のみが行えるのだ。
 まあ、親族で成年後見人に選ばれないのは、その親族の方に何かしらの問題点があるケースだろうけど。

 私自身、この映画を観るまで成年後見制度という言葉は知っていたけど、実際にどんなものか見当もつかなかった。

 では「成年後見制度」の啓蒙のための映画か? というと、そうとも言い切れないようだ。

 認知症と診断された仙太郎の成年後見人に選定された弁護士・城島がとんでもない男なのだ。腕利きらしく、多数の被後見人を抱えているのだが、彼らの財産を勝手に処分して付加報酬(手数料のことかと思うが)を得ている。
 今回の仙太郎の財産に含まれる「6億円の真珠」も、親族に先駆けて手に入れようと血眼になって奔走する。被後見人からいかに多くの金を引き出すかしか考えていない悪徳弁護士として描かれているのだ。
 まあ、彼がそのようになった背景もおいおい描かれていくのだが、親族(+観客)からしたらトンデモナイ話で、こんな奴に任せられるか、って思ってしまうよねぇ。
 (もっとも、映画の中で描かれる仙太郎の娘たちだって、親を金づるとしか見ない連中なのでその点は城島と五十歩百歩なのだけども。)

 ひょっとしてこの映画、成年後見人制度の欠陥をあげつらい、不信感を醸成するのが目的なのではないか・・・と疑ってしまう。

 基本的にはコメディなのだろうけど、城島の悪辣ぶりが際立っていて、笑うに笑えない雰囲気が横溢してる。
 終盤近く、ホテル内の劇場で、いかにも喜劇っぽいドタバタ/ダンス・シーンがあるんだが、これもとってつけたように思える。役者さんたちが熱演してるのは分かるんだが、それが観客に伝わらないように感じて、なんとももったいない。

 でもいちばん問題なのは、騒動の根源である仙太郎の描き方だと思う。
 妻が死んだショックで茫然自失状態になった仙太郎。それを認知症の症状と決めつけた娘たちが成年後見制度を悪用して父親の財産を自由にしようとすることから今回の騒動が始まってるのだが、その最中、彼がおかしな言動をし始めて「本当に認知症になったか」と周囲を慌てさせる。

 でも、遥海の機転で再検査を受け、正常と診断されたら、なぜか突然シャキッとなって一気に混乱を収拾してしまう。
 この展開はいささか唐突で、あんたが最初からちゃんとしてればこの大騒動は起こらなかったんだぜぇ~ってスクリーンに向かって叫びそうになってしまった(叫ばなかったけど)。

 仙太郎は無口な職人気質で、喋るより手を動かすタイプなのはよく分かるのだが、なんで唯々諾々と認知症扱いされるのを放置していたのかとか、中盤の錯乱はいったい何だったのかとか、内面やら心理やらがほとんど明かされないまま進行していってしまうのがなんとも消化不良な感じ。一から十まで全部説明せよとは言わないが、もうちょっと何とかならなかったのかな。

 成年後見制度をテーマに、家族の財産を巡る妄執も描きたい、壊れた家族の絆の再生も描きたい、幼児期のトラウマのせいで悪に染まってしまった弁護士の再生も描きたい、伊勢志摩の美しい自然も盛り込みたい、そんでもって爆笑もののコメディにしたい・・・たぶん製作陣はそういう映画にしたかったんじゃないかと思うのだけど、盛り込むものが多すぎたのかも知れない。

 取り上げる題材は面白いし、キャストの皆さんは達者な方が揃っているので、なんとももったいない映画だと思った。


タグ:日本映画
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