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第四の暴力 [読書・その他]


第四の暴力 (光文社文庫 ふ 26-3)

第四の暴力 (光文社文庫 ふ 26-3)

  • 作者: 深水黎一郎
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2022/01/11
  • メディア: 文庫

評価:★★☆


 立法・司法・行政と並んで、「第四の権力」と云われるマスメディア。大衆に対して大量の情報を迅速に伝える媒体として重要な地位にありながら、時にその権力の大きさから、暴走とも云える行為に走ることもしばしば。本書は、そんなマスメディアの "暴力" を描いた短編三作を収める。


「生存者一名あるいは神の手(ラ・マーノ・デ・ディオス)」
 とある山村を豪雨が襲い、発生した土石流によって村は全滅してしまう。樫原悠輔(かしはら・ゆうすけ)は、たまたま叔父のところに金策に出かけていて惨禍を免れ、ただ1人の生き残りとなってしまう。
 村へ帰った悠輔は、その惨状に呆然とする。妻と2人の子は膨大な土砂の下に生き埋めになっており、生存は絶望的。そんな彼にさらなる追い打ちがかかる。現地へ押しかけてきたマスコミから追い回される羽目になったのだ・・・。
 いわゆる暴走するマスコミの "餌食" となってしまった男の悲劇、そしてそれに対して蓄積していく鬱憤、そして爆発(!)が描かれていく。
 終盤の展開は・・・これは読んでのお楽しみか。

 そして、物語の結末は「読者に選ばせる」という驚きの仕掛け。その選択によって、続く2つの話のどちらかへ進む、という流れになってる。


「女抛春(ジョホールバル)の歓喜」
 主人公の子安(こやす)は、某キー局でバラエティ担当のプロデューサー兼ディレクター。その権限は絶大で、番組内ではまさに独裁者。ADたちを奴隷のように酷使する日々。
 ところがある日、収録中に身体に異常を覚え、救急車で病院へかつぎ込まれる。検査結果を待つ間、彼は可愛い看護師相手に昔話を始める。
 過去の担当番組で "演出" という名の〈やらせ〉をしたこと、集まらない参加者の枠をADで埋めたこと、彼らに課されるのは拷問と見紛うばかりの無茶振り、罰ゲーム的な仕打ちだったこと・・・これは今でもバラエティ番組でお笑い芸人が同じことをやってるが(笑)。
 そして判明する子安の病状と、それに対する彼の反応。いやはや、ここまでくればいっそ天晴れか。


「童波(ドーハ)の悲劇」
 主人公の津島はエリートサラリーマン。同僚たちが芸能人関係の話題で盛り上がっているのを内心では軽蔑している。そんな津島は、社内で行われる超エリート養成研修に選ばれる。一年間にわたって最先端技術の講習、12カ国語に渡る語学研修、世界中の支社の視察を行うなどの超英才教育を受けるものだ。津島は恋人の琴音にしばしの別れを告げ、勇躍して海外へと出発するのだが・・・
 マスコミの暴走が極まった世界が描かれるのだが、これが絵空事で終わることを願ってしまう。


 「手のひらを返す」って言葉があるが、「マスコミの手のひらは返すためにある」といつも思ってしまう。
 調子の良いときは "褒め殺し" と見紛うばかりに徹底的に褒め倒し、いったん落ち目になったら "水に落ちた犬は叩け" とばかりに圧倒的な集中砲火。
 具体例は挙げないけど、最近のニュースを見ていても感じることがあるのではないか。このようなマスコミの姿勢はここ何十年もの間、一向に変わっていないように思う。
 「(対象が)プロアスリートや芸能人なら、そんなふうに扱われるのも当たり前で、仕方のないことだろう」って考える人もいるかもしれない。でも、あまりにも臆面が無さ過ぎるように思うんだが。



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