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グラーフ・ツェッペリン あの夏の飛行船 [読書・SF]


グラーフ・ツェッペリン あの夏の飛行船 (ハヤカワ文庫JA)

グラーフ・ツェッペリン あの夏の飛行船 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 高野 史緒
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2023/07/19

評価:★★★


 女子高生・藤沢夏紀(ふじさわ・なつき)と大学生・北田登志夫(きただ・としお)は、2021年の夏を茨城県土浦市で迎えた。しかし二人はそれぞれ ”科学技術の進歩が異なる別々の宇宙(並行世界)” に生きていた。
 それなのに、2人にはなぜか幼い頃に "飛行船「グラーフ・ツェッペリン号」を一緒に見た" という共通した記憶があった。
 本来なら、全く触れあうことがない二人のはずだが、ある日、夏紀宛てに不思議な電子メールが届く・・・


 藤沢夏紀は土浦市内の女子校に通う17歳の高校2年生。自らの成績も容姿も平凡であることを自認している少女である。今は夏休みで、学校で行われる外国人講師による英会話講座に参加している。
 パソコン部に所属しているが、PCは筑波大から貰った中古品で、OSだけは最新版のWindows21が入っている。IT技術に関しては、インターネットがやっと普及し始めているというところ。
 しかしその一方で、重力制御技術が実用化されており、月面には恒久的な基地が置かれ、火星開発が進んでいる、というのが彼女が暮らす2021年の世界だ。

 北田登志夫は17歳。小中学校を飛び級で修了して、現在は東京大学2年生。知力はずば抜けているのだが、いわゆる天才キャラではなく「ハタチ過ぎたらタダの人」になってしまうことを本気で心配している、いたって普通の感性をもつ少年だ。
 夏休みを利用して両親の故郷でもある土浦市にやってきた。土浦光量子コンピュータ・センターで1ヶ月間のアルバイトをするためだ。
 登志夫の世界は、量子コンピュータの開発・運用が実現しているが、宇宙開発は発展途上と、ほぼ我々(読者)の世界と近い科学技術レベルにあるようだ。

 異なる並行世界を生きている二人は、本来なら過去・現在・未来いずれにおいても一切、触れあうことのない存在のはず。しかし二人には幼い頃、"飛行船「グラーフ・ツェッペリン号」を一緒に見た" という共通した記憶があった。

 夏紀は覚えている。そのとき、傍らに自分と同じくらいの年頃のトシオという男の子がいたことを。
 登志夫は覚えている。そのとき、傍らに自分と同じくらいの年頃のナツキという女の子がいたことを。

 ドイツの飛行船「グラーフ・ツェッペリン号」は、1929年に世界一周の旅に出発し、その途中の8月19日に、土浦にあった帝国海軍の霞ヶ浦航空隊基地に寄港している。これは夏紀の世界、登志夫の世界、加えて我々(読者)の世界でも、それぞれに共通に起こった ”史実” だった。

 しかしそれならば、なぜ90年以上も過去に起こった出来事に、二人は遭遇していたのだろう・・・

 というのを根底の謎として設定しつつ、二人のひと夏の物語が綴られていく。


 中古のPCで、開通したばかりの電子メールの練習のために、自分宛にメールを送っていた夏紀は、来るはずのない "返信メール" が来ていることに気づき、驚く。

 実はこれは、光量子コンピュータ内の、いわゆる電脳空間に "ダイブ" していた登志夫からのものだった。二人はこれをきっかけにコミュニケーションを取ることに成功、お互いの情報を交換していくようになっていくのだが・・・


 ひとことで云えば、量子コンピュータを介してつながった2つの並行世界における "ボーイ・ミーツ・ガール" を描いたラブ・ストーリー、だろうか。

 ただねぇ・・・並行世界に生きている2人だけに、前途は多難というか、この恋が成就する可能性は限りなく低そうだなぁ、なんて思いながら読んでいた。
 やっぱりこの手の話は、ヒロインの笑顔で終わってほしいなぁ。年を取ったせいか、だんだん哀しい話を受けつけなくなってきたのもあるんだが。

 ・・・と思いながら迎えたラストシーン。ある意味、予想を超えた結末ではあった。SFとしては綺麗に終わっていると思うけど、ラブ・ストーリーとしては評価が分かれそうな気もする。


 最後に余計なことをふたつ。
 ひとつ目は、文庫の表紙。この絵、いいよねぇ。この本を買った理由の六割くらいはこの表紙にある(おいおい)。
 二つ目は、ヒロインの夏紀さんが電子メールの練習で自分宛にメールを送るシーン。これ、私もやりましたよ。それ以外にも、ネット普及期の描写には懐かしさを覚えました。



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