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他殺岬 有栖川有栖選 必読! Selection 5 [読書・ミステリ]


有栖川有栖選 必読! Selection5 他殺岬 (徳間文庫)

有栖川有栖選 必読! Selection5 他殺岬 (徳間文庫)

  • 作者: 笹沢左保
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2022/06/08
  • メディア: 文庫

評価:★★★☆


 ルポライター・天知昌二郎(あまち・しょうじろう)は、美容研究家として人気絶頂の環千之介(たまき・せんのすけ)の悪徳商法を暴露する。その結果、千之介と娘のユキヨは自殺してしまう。しかしユキヨの夫・日出夫は、報復として天知の息子を誘拐、5日後に殺害すると予告してくる。
 ユキヨの死が他殺であると証明できれば、日出夫を思いとどまらせることができるのではないか。天知はそう思い立つが、タイムリミットまでは120時間しかない・・・


 ルポライター・天知昌二郎は36歳。妻に先立たれ、保育園に通う息子・春彦と2人暮らしだ。やもめの天知が仕事と子育てを両立できるのは、宝田真知子のおかげである。
 真知子は28歳の独身女性で、天知が住むマンションのオーナーだ。子ども好きな真知子は春彦の世話を自ら買って出てくれていた。

 天知は6月に雑誌『婦人自身』に署名記事を載せた。美容研究家・環千之介が行っている悪徳商法を告発するものだった。

 環は美容業界のカリスマと呼ばれ、TV・ラジオで10本近いレギュラー番組を持つ売れっ子であり、新宿に自社ビルを構えて広く事業展開をしていた。
 雑誌発売と同時に環は表舞台から姿を消して引きこもってしまい、7月8日には自宅で縊死。警察は自殺と断定する。

 さらに8月8日、環の一人娘・ユキヨが高知県の足摺岬で死亡。これも警察によって投身自殺と断定された。このとき、ユキヨは妊娠中であった。

 そして8月下旬、春彦の通う保育園で事件が起こる。園内で保母(女性保育士)の死体が発見されたのだ。
 さらにその5日後、今度は春彦が誘拐される。犯人はユキヨの夫・日出夫。保育園の職員を巧みに欺いて春彦を連れ出してしまったのだ。

 天知への電話で日出夫は告げる。
「俺の子をあんたは殺した。だから俺もあんたの子を殺す」
「処刑は5日後だ。それまで、身を削られる思いをして苦しみ続けろ」

 日出夫に殺害を思いとどまらせるにはどうしたらいいのか。
 ユキヨの死が自殺ではなく、他殺だと証明すればいいのではないか?
 だが、警察が自殺と断定したものをひっくり返すのは不可能ではないか?

 ユキヨは死んだ父親の遺骨を持って故郷の高知にある菩提寺に赴き、日出夫と2人だけで法要を済ませ、その夜に足摺岬の断崖から身を投げた。しかし、その瞬間を目撃した者はいない。

 天知は『婦人自身』編集部員の協力を受けて情報を収集。その結果、ユキヨ殺害の動機をもつと思われる者が3人浮上する。しかしいずれも犯行時には強固なアリバイがあった・・・


 なかなか極限的なシチュエーションである。
 自殺を他殺へとひっくり返すだけでなく、真犯人の指摘と確固な証拠を示さなければ日出夫は納得しないだろう。そしてタイムリミットは120時間。もちろん睡眠や移動の時間もあるから、実際の捜査に使えるのはその何分の一もない。

 だが、"つかんだ" と思った糸も、虚しく途切れていく。しかし我が子の命がかかっているからには諦めるわけにはいかない。真相を求める天地の、必死の探索行が続いてゆく。

 ヒロインの宝田真知子は、天知の調査に同行するなどストーリーに大きく関わっていくようになるが、2人の関係の変化も読者の興味を引くだろう。

 次第に明らかになっていく事件の根の深さ、全てを仕組んだ者の強烈な悪意、それによって運命を狂わされた者たちの悲哀。いずれも多くの読者の予想を超えるものだろう。

 真相は意外だが、それを納得させる伏線は作品冒頭から張られており、終盤でそれらが天知によって一気に回収されていく。このあたりは見事。
 最後までサスペンスが途切れることなく読ませる。語りの巧みさは流石だ。



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