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御城の事件 〈西日本篇〉 [読書・ミステリ]


御城の事件 〈西日本篇〉 (光文社時代小説文庫)

御城の事件 〈西日本篇〉 (光文社時代小説文庫)

  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2020/04/14
  • メディア: 文庫

評価:★★★


 西日本の御城を舞台に起こる怪事件の数々を描く、書き下ろし歴史ミステリ・アンソロジー。


「幻術の一夜城」(黒田研二)
 小牧・長久手の戦いの後、秀吉が家康を攻めるべく軍勢の準備を進めている頃。かつて秀吉が一夜にして築いたと伝わる墨俣(すのまた)城に、家康が現れる。
 家康は「自分もまた幻術を使うことができる」と豪語し、秀吉が墨俣城を築いたカラクリを暴き、さらには「自分も城を一夜にして築き、そして消してみせる」という・・・
 このネタはトリックの枠を超えてますね。「運も実力のうち」なんていうけど、天下人になる人には運も味方するのだね。


「小谷の火影」(岡田秀文)
 天正元年(1573年)、越前の朝倉義景を滅ぼした織田軍は、羽柴秀吉の指揮の下、浅井長政が籠城する小谷城を包囲していた。
 そんなとき、城内で捕らえた織田方の間者が牢を脱走する。しかし間者は何者かに殺されてしまう。そして殺した賊は長政の父・久政とお市の方を人質に取り、城内の一角に立て籠もってしまう・・・
 一連の事件の真相は、かなり意外なもの。一般的な「浅井家滅亡」のイメージを覆す展開に驚かされる。


「ささやく水」(森谷明子)
 本能寺の変で信長が倒れ、天下の実権が秀吉に移った天正13年(1585年)、キリシタン大名・高山右近は明石に転封され、船上(ふなげ)城の築城に取りかかった。
 その工事中の城内で殺人が起こる。被害者はキリシタンの布教を行っていた武士。死因は溺死だったが、遺体の発見場所は海から離れた城の本丸近く。現場周囲も着ていた服も乾いていたが、死者は大量の水を飲んでいた。
 探偵役は高山右近。自然の川と海を取り込んだ城の設計を巧みに利用したトリックが光る。キリシタン布教の意外な裏面、そして瀬戸内海ならではの○○○○伝説まで絡んで盛り沢山な作品。


「影に葵あり」(安萬純一)
 既刊の忍者小説アンソロジー『忍者大戦 黒ノ巻』所収の「死に場所と見つけたり」の続編だが、ストーリーは独立しているので未読でも大丈夫。
 舞台は小浜藩・小浜城。主人公・韮山兼明(にらやま・かねあき)は小浜藩士だが、その正体は忍び。幕府が藩に潜ませた "草"(スパイ)だった。
 「死に場所と-」の事件を解決した功績で、城の警護役へと昇進したが、彼を妬む桶川亢之進(おけがわ・こうのしん)は、兼明を追い落とす陰謀を巡らせる。
 一方、兼明の前に現れた幕府の隠密・雷蔵は「おまえを見張っている2人組がいる」と告げる。そして、城内の巻物(機密文書)奪取を巡って殺人事件が起こるのだが・・・
 前作で、幕府の "草" だった父を喪い、その役を引き継いだ兼明は、その立場に疑問を覚える青年。忍者アクションもあり、ミステリとしてもよくできているが、兼明の成長が描かれているのがいちばん嬉しかった。


「帰雲城の仙人」(二階堂黎人)
 既刊の忍者小説アンソロジー『忍者大戦 黒ノ巻』所収の「幻獣」で活躍した伊賀忍者・風鬼と雷神が再登場。
 天正13年(1585年)の大地震によって、飛騨の国の帰雲(かえりぐも)城が崩壊してしまった。そこには城主・内ヶ島氏がため込んでいた埋蔵金と、金鉱への入り口があるという。しかしその辺り一帯では、暗黒斎なる怪人が率いる暗闇党という忍びの一群が暗躍しているらしい。
 帰雲城探索を命じられた風鬼と雷神は、暗黒斎が "神通力" を発揮するという儀式へ潜入する。暗黒斎は、眼前に見える山城を、一瞬にして消してみせるのだった・・・
 いわゆるイリュージョン、マジックショーのネタなんだけど、それを時代劇の中にうまく取り入れている。さらに、終盤になるとミステリというよりは伝奇小説になってしまう。まあ、こういうネタは嫌いではないが。
 暗黒斎はたいへんな長命であると自称しており、邪馬台国さえその目で見たという。彼の云うことが本当なら、正体は "あの人" だよねぇ。
 彼が語る "邪馬台国の所在地" も、かなり荒唐無稽。でももし本当ならちょっと見てみたくはある。



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