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黄金の指紋 [読書・冒険/サスペンス]


黄金の指紋 (角川文庫)

黄金の指紋 (角川文庫)

  • 作者: 横溝 正史
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2022/07/21
  • メディア: 文庫

評価:★★★


横溝正史復刊シリーズ、ジュブナイルものの一編。
"体はゴリラ、頭脳は人間" のモンスター・怪獣男爵が三度目の登場、謎を秘めた黄金の燭台を巡って金田一耕助と対決する!


 中学2年生の野々村邦雄(ののむら・くにお)は、夏休みを利用して伯父のもとへ遊びに来ていた。そこは瀬戸内海に面する岡山県の児島半島にある町・下津田。
 ある夜、下津田を嵐が襲い、沖合で汽船が難破してしまう。町民たちが救助活動を始める中、邦雄は岩場で若い男を発見する。難破船から流れ着いた遭難者かと思われたが、胸部をピストルで撃たれて重傷を負っていた。彼は邦雄に黒い箱を託し、こう告げる。
 「東京に帰ったら・・・これを金田一耕助という人に渡してくれ・・・」

 箱の中身は、紫ダイヤを組み込んだ黄金の燭台だった。そして火皿のところには指紋がひとつ、黄金の地肌に "焼き付け" られていた。

 船が難破した夜から、邦雄の周囲には怪しげな男女たちが姿を見せ始める。いずれも、あの青年の行方を追い、黄金の燭台を狙っているらしい。
 一刻も早く東京へ向かうべく、新幹線に乗り込んだ邦雄だったが、車中で乗り合わせた美女の奸計にはまり、燭台が入ったバッグを奪われてしまう。

 燭台を奪った賊は神戸の酒場にやってくる。ところがそこには既に、変装した金田一耕助が潜んでいた。
 酒場の奥は賊のアジトになっており、そこには邦雄と同年代の少女が囚われていた。彼女は玉虫元伯爵の孫娘・小夜子。黄金の燭台は彼女の両親が遺したものであり、玉虫家に連なる彼女の身元を示す、唯一の証拠であったのだ。
 黄金の燭台の争奪を巡り、全編にわたって冒険活劇が繰り広げられていく。


 今回の主人公・邦雄少年はいままでのジュブナイルものの主役とはひと味違う。頭の回転が速くて機転が利き、実行力も充分。
 新幹線の中で燭台を入れたバッグを奪われてしまうのだが、彼は狙われることを想定しており、”ある方法” を使って燭台の無事を確保してみせる。これはスゴい。

 金田一耕助も、ジュブナイルものでは華やかに活躍する。変装して敵のアジトび潜入するのはもちろん、ピストルを持って悪漢と対決したりと熱血キャラぶりを見せる。

 今作の特徴は、燭台を狙う悪人が複数いること。それぞれ異なる思惑をもって争奪戦を繰り広げるのだけど、そのグループのひとつを率いるのが怪獣男爵だ。

 前作『大迷宮』の記事で「怪獣男爵のキャラが強烈すぎて、さすがの横溝正史も持て余してるのではないか」みたいなことを書いたのだけど、横溝自身もそれは感じてたのかも知れない。
 なぜなら、今作の怪獣男爵は実にアグレッシブ(笑)で、露出も多いし台詞も多くなっている。衆人環視の中で姿を見せたり、警官隊の前からゆうゆうと逃亡してみせたりと、パフォーマンスも派手になってる。
 終盤では隅田川に浮かぶ船上で金田一耕助と2人(1人と1頭?)だけで対決したりと、前作とは桁違いに存在感がアップしている。
 「持て余してる」なんてとんでもなかったですね。巨匠の "本気" を見せていただきました(笑)。



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