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御城の事件 〈東日本篇〉 [読書・ミステリ]


御城の事件~〈東日本篇〉~ (光文社文庫)

御城の事件~〈東日本篇〉~ (光文社文庫)

  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2020/05/29

評価:★★★


 日本各地の御城(実在/架空を問わず)を舞台にした、時代ミステリーの書き下ろしアンソロジー。


「大奥の幽霊」(高橋由太)
 主人公の弥助(やすけ)は16歳。伊賀者である。組頭から、大奥内の怪事件の探索を命じられる。四代将軍・家綱が「大奥で赤子の幽霊が泣いておる」と組頭に告げたのだ。大奥を取り仕切る "お梅の局"(おうめのつぼね)のもとで、調査を始める弥助だが・・・。
 ミステリと云うよりは人情噺という趣き。


「安土の幻」(山田彩人)
 舞台は武蔵国大志(おおし)城。モデルは行田の忍(おし)城。いまは豊臣方に包囲されている。攻め手は利根川の堤防を切り、城内を水浸しにしようとしていた。
 そこに滞在している若い絵師・芳永(よしなが)が主人公。師の命により、大志城二の丸の襖絵の写生を命じられていた。本能寺の変の直後、灰燼に帰してしまった安土城の姿がそこには描かれていたからだ。しかし城が落ちれば彼の命も無いだろう。
 城主・鳴田(なりた)氏の娘・澪(みお)姫は、そんな芳永がお気に入りの様子だ。盲目であるにも関わらず、連日、芳永の写生につき合っている。
 いよいよ大志城も落城の時が迫ってきたとき、澪姫が城に抜け穴があることを発見する。芳永は、姫と共にそこから脱出を図ることになるが・・・
 これもミステリと云うよりはラブ・ストーリーの一種かな。"天真爛漫でお転婆な盲目の美姫" という澪姫のキャラが素晴らしく魅力的。彼女のパワー溢れる言動に導かれて最後まで読ませる。ラストの一行が最高だ。


「紙の舟が運ぶもの」(松尾由美)
 江戸の北、川越城に奉公する左右田隆信(そうだ・たかのぶ)は、場内の鳥の様子を監察し記録することを命じられる。
 役目を始めてしばらくしたある日、城の外堀に紙の舟が一艘浮かんでいるのを見つける。そしてそれは日を追ううちに二艘、四艘、八艘と倍々に増えていくのだった・・・
 基本は時代劇版 "日常の謎" という趣き。その理由というか動機も、まさにこの時代だからこそ成り立つもの。超自然な要素もちょっと出てくるけど、ミステリとしてはフェアだ。


「猿坂城の怪」(門前典之)
 4年前に起きた大地震で石垣が崩れ、修復中の猿坂城(モデルは熊本城)。様々な職人が大量に集められ、三の丸に設営された飯場で暮らしている。
 そんなとき、殺人事件が起こる。工事のために内堀に掛けられた仮橋の上で絵師・佐田が殴殺死体で発見される。彼は修復中の城の様子の記録をとるために場内に滞在していたのだ。しかし現場に向かう通路にはいくつもの関門が設けられており、凶器を持ち込むことは不可能。
 本書の中ではいちばんミステリ成分が濃いかな。トリックもなかなか大がかり。この作家さん初めて読んだけどけっこう面白い。


「富士に射す影」(霞流一)
 舞台は駿河国の冠原(かんばら)城(モデルは小田原城)。
 この城の周囲には謎の事態が立て続けに起こっていた。城門の近くで首の無いイタチの死骸と、男の生首が見つかった。10日前には小姓頭が変死しており、さらにひと月前には町の番屋から2人の囚人が脱走し、うち1人が林の中の土楼で死体となって発見されていた。3ヶ月前には、村はずれに6つあった地蔵のうち一つを何者かが持ち去っていた。
 うち続く不可解な事件に取り組むのは探偵役は、梵土丸七(ぼんど・まるしち)という(!)人を食った名前の旅の武士。
 一連の奇妙な出来事がきれいにひとつながりになるのはお見事。さらには、城自体に隠されていた秘密も明らかに。これはスケールが大きい。



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