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夜光怪人 [読書・ミステリ]


夜光怪人 (角川文庫)

夜光怪人 (角川文庫)

  • 作者: 横溝 正史
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2022/10/24
  • メディア: 文庫

評価:★★☆


 蛍火のような光を放つ怪人が夜の東京で様々な凶悪犯罪を引き起こす。
 短めの長編である表題作に加え、短編2作を収録。
 横溝正史・復刊シリーズ、ジュブナイルものの一編。


「夜光怪人」

 つば広の帽子、ダブダブのマント、能面のような仮面、そしてどれもがボーッと蛍火のような光を放つ。そんな装束に身を包んだ怪人が世を騒がせていた。

 中学3年生の御子柴進(みこしば・すすむ)少年は、ある夜、上野公園で全身から光を放つ犬に追われる少女と出くわす。とっさのことで彼女とともに樹上へ隠れるが、そこへ現れたのが夜光怪人だった。
 怪人の言葉から、少女が財宝の隠し場所を握っていることを進は知る。しかし彼女は進の隙をついて逃げ出してしまう。

 半月後、銀座のデパートで防犯展覧会が開かれる。新聞記者・三津木俊助(みつぎ・しゅんすけ)とともに会場に訪れた進は、そこで夜光怪人に追われていた少女を目撃する。しかし彼女は『人魚の涙に気をつけろ』という伝言を残して姿を消してしまう。

 『人魚の涙』とは、真珠王・小田切準造(おだぎり・じゅんぞう)が所蔵する真珠の首飾りの名。三津木俊助は、彼に請われて『人魚の涙』の警備の一員として加わることになるのだが、夜光怪人は易々と盗難に成功、殺人まで犯してしまう。

 続いて夜光怪人は古宮元伯爵主催の仮面舞踏会に現れ、元伯爵の令嬢・珠子を掠ってしまう。古宮元伯爵によると、夜光怪人の正体は大江蘭堂という悪人で、考古学者・一柳博士が発見した財宝を狙っているという。
 一柳博士は財宝の隠し場所を二人の子に託した。その一人が夜光怪人に追われていた少女・藤子だったのだ・・・

 前半は夜光怪人に翻弄される俊助たちが描かれるのだが、トリック自体はジュブナイルだけにわかりやすい(笑)。
 後半になると真打ち・金田一耕助が登場し、夜光怪人が探し求める財宝をめぐる物語へと変わり、夜光怪人との対決、そしてその "真の正体" へと迫っていく。

 文庫で200ページ弱という分量に、多くの登場人物に加え、これでもかといろんな材料をぶちこんだ感がある。流石にベテランだけあって読みにくくはないけど、もう少し余裕がほしいかなとも思った。


「謎の五十銭銀貨」

 主人公の小説家・駒井啓吉は、昭和16、17年頃に易者から手に入れた五十銭銀貨を大事に持っていた。ひねると表裏が外れ、中に数字の羅列が書いてある紙が入っていたからだ。

 そのことを雑誌社が記事にしたところ、啓吉の家に賊が入る。しかしこれは敬吉の仕掛けた罠で、賊は何も盗めずに逃げだす。だがその際に、何者かに殺されるという事件が起こる・・・

 暗号ミステリだが、この暗号自体は初歩的で難しくはない。銀貨のことを公にすることで真相を突き止めようとする啓吉の活躍が鮮やか。


「花びらの秘密」

 両親を失った美絵子は、祖父と2人暮らし。しかしある夜、家に置いてあった幻燈に脅し文句が映し出されているのを発見する。

 幻燈とは、いまでいうところのスライドプロジェクターのようなもので、映像を記録したガラス板やフィルムからスクリーンに映し出す機械だ。

 気丈な美絵子は、数日後、幻燈に細工をしようとしている若い男を発見する。男は逃げ去ったが、花びらのような形の奇妙な金属板を落としていった。
 それは、昨年亡くなった美絵子のおじ・藤倉博士の遺品の中に残されていたものと同じだった。

 生前、藤倉博士はロケット機PX号の設計を完成させており、それを狙って各国のスパイが周囲を暗躍していたらしいが、設計図はどこからも見つからなかった。博士がいずこかに隠したものと思われていたのだが・・・

 横溝正史にスパイものとは珍しい。終盤では事態が二転三転するが、最後に決着をつけるのが美絵子さんとは畏れ入る。
 作品中に美絵子さんの年齢は記されてないんだが、なんとなく十代前半~半ばくらいかと思われる。
 勇気と知略を兼ね備えたすばらしいお嬢さんで、彼女を主役にした作品が読みたくなったよ。



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