探偵は教室にいない [読書・ミステリ]
評価:★★★
第28回鮎川哲也賞受賞作。
語り手は海砂真史(うみすな・まふみ)。札幌で暮らす中学2年の女子生徒。
169cmと高い身長をコンプレックスに感じているが、女子バスケット部で熱心に活動している。
探偵役となるのは鳥飼歩(とりかい・あゆむ)。真史の幼馴染みの男の子だが、中学校には通っていない、いわゆる不登校状態。しかし頭のキレは抜群だ。
名探偵キャラの常として、彼もまたかなりの偏屈者だ(笑)。でもスイーツに目がないので、それに釣られて探偵として動き出す。
真史の周囲、あるいは彼女自身に起こった事件の謎を、歩が解き明かしていく ”日常の謎” 系連作短篇集。
「第一話 Love letter from...」
1時間目の体育の授業が終わり、教室に帰ってきた真史の机の中に若葉色の封筒が。中身はなんとラブレター。そして無記名。
誰が差出人なのかわからず、不安感に駆られた真史は、9年ぶりに幼馴染みの歩に連絡を取る。
真史の話とラブレターの文面から、書いた人物に迫っていく歩。
わかってみれば他愛ない話なのだが、それを一篇のミステリに仕立てて読ませてしまうのはやはり上手いのだろう。
「第二話 ピアニストは蚊帳の外」
真史の中学校でクラス対抗の合唱コンクールが開かれる。
男子バスケット部の岩瀬京介は、ピアノの名手でもあった。彼のクラスは担任の指導の下、熱心に練習していた。
ピアノ伴奏は京介が務めることになっていたが、彼は途中でその役から降りてしまう。どうやら指揮者を務める望月という生徒とトラブルがあったらしい。
京介と望月の行動に不審なものを感じた真史は、歩に相談するが・・・
学校行事で生徒間に軋轢が生じる、なんてのはよくあることだろうが、当事者間でしか分からないようなことを、安楽椅子探偵の歩が説き明かしてみせる。
「第三話 バースデイ」
男子バスケット部の田口総士(そうし)は14歳の誕生日を迎えた。それを祝って京介、真史、女子バスケット部の栗山絵奈(えな)の4人は余市(よいち)まで遊びに行く。
その1週間後、部活の練習を終えた真史の前に現れたのは、他の中学校に通う有原奏(ありはら・かなで)という女子生徒。総士の彼女だった。
最近、総士の様子がおかしい。全く会ってくれないのだという。
その翌週、真史は総士が奏とは別の女の子と相合い傘をしているシーンに出くわしてしまう。
総士の態度に腹を立てた真史だが、歩にその話をすると、彼は意外な提案をしてきた・・・
本書の中ではいちばんミステリとしてよくできてるかな。伏線とその回収がきっちりかみ合ってすっきり終わる。
「第四話 家出少女」
父親とケンカして、家出をしてしまった真史。原因は歩だったりする。
幼馴染みとは言え、中学2年の娘が男の子と一緒にあちこち行動してたら、そりゃ面白くないだろう。心配する気持ちも分からなくもないが(笑)。
夜8時過ぎに絵奈に真史から電話がかかってきた。ある場所にいるが帰る手段がないと告げた直後に通話は切れ、以後の連絡は途絶してしまう。
絵奈は歩、京介、総士を呼び出し、4人で真史の居場所を推理することに。
いろんな条件を挙げて真史の居場所を絞り込んでいく歩。だけどこれは何となく見当がついたよ。旅行で北海道を訪れたことがある人なら、わかりやすいかも知れない。
鮎川哲也賞にしては地味かな。まあこの作品の前には派手な作品が2作続いてたからね。
でも、小説自体は上手いのは分かる。中学生の日常生活の中からミステリ要素を見つけ、謎に仕立てていく。言うのは簡単だけど、実際にはなかなか難しいことだろう。
真史の親友の絵奈、モテ男の総士、どうやら真史に気がありそうな京介など、主役の2人以外の人物もよく書き込みされていて、キャラが立っている。
本書はシリーズ化されていて、続編も刊行されてるみたいだ。文庫になったら読みます(笑)。
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