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大癋見警部の事件簿 リターンズ 大癋見vs芸術探偵 [読書・ミステリ]


大べし見警部の事件簿 リターンズ 大べし見VS.芸術探偵 (光文社文庫)

大べし見警部の事件簿 リターンズ 大べし見VS.芸術探偵 (光文社文庫)

  • 作者: 深水 黎一郎
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2020/04/14
  • メディア: 文庫
評価:★★☆

  タイトルの「大癋見」は「おおべしみ」と読む。この変わった姓を持つ警視庁捜査一課の警部の登場する、シリーズ第2作。

 やる気はゼロ。思いつくままの行き当たりばったりの捜査。口を開けば下ネタと暴言が飛び出し、ヒマさえあれば居眠りばかり。
 ところが彼が率いる捜査班は検挙率100%という。不思議な人。

 彼のもとで苦労している(させられている)のが海埜警部補。
 そして海埜の甥が神泉寺瞬一郎。芸術一般に造詣が深い「芸術探偵」として、そちらのシリーズでは主役なんだが・・・


第一部  大癋見vs芸術探偵

「盗まれた逸品の数々」
 元華族・東薗寺(とうおんじ)家に泥棒が入る。87歳の当主は、盗難事件のショックで意識不明の状態に。
 彼が残したメモには、盗まれた物品のリストが書かれていた。中には、本物ならば金銭に換算できないくらいのトンデモナイお宝もあったのだが・・・
 それを見た瞬一郎が、例によって蘊蓄を語り出すのだが、中には ”絶対に実在しないもの” まであるという。
 ラストのオチは脱力系のバカミス。

「指名手配は交ぜ書きで」
 新聞やTVなどで「損失補填」を「損失補てん」、「嗜好品」を「し好品」などと表記されることがあるが、あれが ”交ぜ書き”。要するに常用漢字表を守った表記のことだ。
 大癋見警部が町を歩いているとき、1枚の看板を目にする。そこには
 【伝助と博に注意 東芝山警察署】とあった。
「伝助(でんすけ)と博(ひろし)って誰だ?」疑問に思う大癋見だが。
 これもオチはバカミス。

「大癋見警部殺害未遂事件」
 捜査一課の大部屋で、大癋見は一冊の黒革の手帳を見つける。その中には、なんと ”大癋見警部はコロス” という記述が。
 それだけではない。”棟方もコロス” と、一課所属の他の刑事の名もあった。
 さらに、手帳の後ろの方には ”大癋見警部はぶちコロス” という記述まで。
 いったいこの手帳は誰のもので、どんな意図があるのか・・・
 もうここまでくると脱力すらしないバカミス(笑)。

「ピーター・ブリューゲル父子真贋殺人事件」
 美術評論家の太田垣が自宅で撲殺された。
 現場には、彼が書いたと思われる絵画の鑑定書が落ちていた。そこには「偉大なる大ブリューゲルの画面を子が台無しに」とあった。
 そして瞬一郎の蘊蓄が始まる。ピーター・ブリューゲルは16世紀の大画家だが、同名の息子も画家なので、ブリューゲル(父)・ブリューゲル(子)と表記されることもあるという。
 文庫で100ページほどもあって、本書中で最長の作品で、ミステリとしてはいちばんまとも。でも、最後のページのオチはやっぱりバカミス(笑)。


第二部 「とある音楽評論家の注釈の多い死」

 まず、この作品はページが上下二段に分かれている。
 上の段では、音楽評論家の松浦暢弘(のぶひろ)が殺された事件を捜査する大癋見警部たちの様子が描かれるのだが、下段では、増渕尚志(ひさし)という元・音楽評論家が、上段の文章に好き勝手に注釈をつけていくという構成。
 最初のうちは、捜査に茶々を入れるような感じだったのだが、途中から被害者がPC中に残した文章が出てくると俄然、暴走を始める。
 主に国内で開かれたクラシック・コンサートのレビュー(短評)なのだが、業界内部を知る増渕は、文章の裏に隠された意味を暴いていく。
 雑誌に掲載される文章なので、基本的には褒めているのだが、”一見して褒めているような表現” に、実は裏の意味があることが明らかに。
 例えば〈あるがままの自分をさらけ出した〉→〈下手くそなことがよく分かった〉、〈人間的な温もりのある演奏〉→〈ミスタッチが多くて閉口した〉など。
 この勢いで、被害者が残した文章に隠された ”本音” をバラしていく。
 ミステリとして書かれてるはずが、途中からは音楽評論家の ”褒めていそうで実は貶している文章表現のテクニック大公開” がメインになってしまう。
 まあこれはこれで面白いからいいのだが(おいおい)。



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