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新しい十五匹のネズミのフライ ジョン・H・ワトソンの冒険 [読書・ミステリ]


新しい十五匹のネズミのフライ :ジョン・H・ワトソンの冒険 (新潮文庫 し 28-5)

新しい十五匹のネズミのフライ :ジョン・H・ワトソンの冒険 (新潮文庫 し 28-5)

  • 作者: 島田 荘司
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2020/01/29
  • メディア: 文庫
評価:★★★

ジョン・H・ワトソンといえば、言うまでもなく
シャーロック・ホームズの相棒であり、かつ彼の探偵譚の執筆者として
ミステリ界で知らぬ者はいないくらい有名な人物だろう。

本書は、そのDr.ワトソンを主役にしたパスティーシュで
文庫判にして640ページ近い堂々たる大部である。


まず冒頭で明らかになるのは、「赤毛組合」事件の裏側。
銀行強盗たちの企んだこの事件は、ホームズの活躍によって
無事に解決したが、ワトソンが発表した手記に描かれていたのは
この事件の表層に過ぎず、実は真の ”黒幕” が存在していた、
というところからこの物語は始まる。

”黒幕” はホームズの介入まで織り込んで計画を立てており、
実行犯たちの逮捕・投獄までが想定内。
だから、彼らの脱獄の手配まで準備してあった。

一方、事件を ”解決” したホームズにも変化が起こる。
もともと薬物中毒だったのだが(笑)、それがさらに進行して
ついに精神錯乱状態に陥ってしまう。

住居であるベーカー街の部屋で、奇声を発してモノを壊して回るという
大暴れをはじめて、止めようとしたワトソンを相手に
殴るわ蹴るわの暴行をはたらき、彼に重傷を与えてしまう。
ホームズってボクシングができたり日本の武術(?)にも通じていたりと
無駄に強いので始末に悪い(笑)。

やっとの思いでホームズを取り押さえ、病院へ送り込んだワトソンだが
今度は、「新しいホームズ譚の原稿」を催促に来る編集者に悩まされる。
何せ、ネタ元のホームズがいないので書くに書けない。
満身創痍のワトソンが悩みに悩んで、あげくの果てに
「這う男」をひねり出すエピソードには笑ってしまう。

さて、病院までホームズの見舞いに行ったワトソンだが、
彼の元へヴァイオレット・ブラックウェルからの手紙が届く。
彼女は亡くなったワトソンの兄の妻で、
未亡人となった彼女に対してワトソンは叶わぬ思慕を募らせていた。

夫亡き後、彼女は裕福な銀行家と再婚を考えるようになっていたが
その相手の行動に不審の念を募らせるようになっていた。

愛する女性からの救援要請にワトソンは一躍、彼女のもとへ向かうが、
時既に遅く、ヴァイオレットは囚われの身となっていた・・・


前半は薬物中毒のホームズに翻弄されるワトソンを描いたドタバタ劇、
後半は一転して、愛する女性を救うために奮戦する冒険譚が描かれる。

ワトソンはもともと、第二次アフガン戦争も経験した軍人だし、
実際、劇中でも見事な銃の腕前を披露する。
先を見通した状況判断も的確だし、何より不撓不屈の気概に満ちている。
ホームズによって負わされた傷も癒えぬ身で、悪漢一味に立ち向かう。
彼の意外な(といっては失礼か)ヒーローぶりが本書の読みどころだろう。


一番気になったのはワトソンとヴァイオレットの行く末。
読み出してすぐ、たしかワトソンの奥さんって
「メアリー」って名前だったよなあ(うろ覚え)・・・
という知識を思い出したのでwikiで見てみたらちょっと驚き。

ワトソンは「四つの署名」で知り合ったメアリー・モースタン嬢と
結婚するのだが、数年後にはワトソンは独身に戻っているのだ。
シャーロキアンの方々の研究では「死別した」というのが定説らしい。

しかも彼女以外にも、ワトソンの妻になった女性はいるらしく
彼は複数回の結婚をしたという説を唱えている人もいるらしい。

 ちなみに、本書の作者の島田荘司もその説を採っていて
 本書巻末の後書きに詳しく自説を述べている。

ワトソンとヴァイオレット嬢の行く末については
ネタバレになるので書かない。気になる人は本書を読んでください(笑)。


冒険活劇としてはとても楽しく読めるのだが、ミステリとしてはどうか。
一番大きな謎は、タイトルにもある「新しい十五匹のネズミのフライ」。
これは悪漢一味のうち、刑務所から脱獄してきた連中が
口にする言葉なんだが、この言葉の意味が最後に明かされる。

うーん、でもこれ、日本人ならともかく
欧米の人ならすぐ気がつくことじゃないのかなぁ・・・

 大学時代に知った英文を思い出したよ。
 Oh, Be A Fine Girl, Kiss Me Right Now, Sweet!


最後にどうでもいいことを。

劇中に登場するヴァイオレットの母親は、
娘が夫の弟と結婚することに「人倫にもとる」ようなことを言って
猛烈に反対するのだが、これって彼女だけの価値観なのかな。
それとも当時のイギリスでは普通の価値観なのか、どっちなのだろう。
キリスト教(プロテスタント)の影響かな、とも思ったり。

これとは比較できないけど、”家” 中心、男性優位な封建的価値観が
幅をきかせていた頃の日本、昭和の前半あたりまでの時代では、
奥さんが早世したとき、彼女に未婚の妹がいたら
その人が旦那さんの後妻に入る、なんてことがよくあったとか・・・

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コメント 4

mojo

@ミックさん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2020-03-28 01:14) 

mojo

鉄腕原子さん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2020-03-28 01:14) 

mojo

31さん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2020-03-28 01:15) 

mojo

サイトーさん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2020-03-28 01:15) 

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