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100億人のヨリコさん [読書・SF]


作者である似鳥鶏氏は、自作の「あとがき」がいつもユニークで面白い。
とりとめの無い妄想が暴走していくような内容で
作品の中身に関することはほとんどない(笑)。

本書のタイトルにある「ヨリコさん」も、一時期この「あとがき」に
よく登場してきたキャラ(?)で、作者が夜中に目を覚ますと
血まみれの女性が天井に張り付いているという(おいおい)、
その女性の名が「ヨリコさん」。

その「血まみれのヨリコさん」が、「あとがき」だけでの出演では
つまらないと思ったのか(どうかは分からないが)、
ついに長編デビュー(笑)したのが本書だ。


100億人のヨリコさん (光文社文庫)

100億人のヨリコさん (光文社文庫)

  • 作者: 鶏, 似鳥
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2019/06/12
  • メディア: 文庫
評価:★★★

貧乏学生の小磯くんは、実家の経済状況が悪化したことにより
住んでいる学生寮を出なければならなくなった。

学生課で紹介されたのは、寮費が月1300円という破格の安さの
「富穣寮」(ふじょうりょう)だった。

大学の敷地の東の果て、時折首つり死体が発見されるという(おいおい)
農学部の演習林と、「四神池」(しじんいけ)に囲まれた一角にある、
一見して倒壊寸前の木造二階建てアパートに見える建物である。
そしてなぜか敷地の周りをガラパゴスゾウガメ(!)が闊歩している。

住人も奇人変人揃い。
浦島太郎かと見紛う出で立ちで正体不明の ”先輩”、
メカオタクでロリコンのアフリカ人・マフトンジ、
電動車椅子に乗っている汪(ワン)さんは上半身マッチョ、
寮の裏の畑で野菜作りに励む農学部の儀間(ぎま)、
学生でもないのになぜか寮に住んでる奈緒さんと、
その娘のひかりちゃん(小学4年生)。

池でとれた魚、畑でとれた野菜、溜め込んだパンツに生えたキノコ
(どこかのマンガでみたような)など、食料は自給自足で暮らしている。

しかも夜な夜な、血まみれの「ヨリコさん」なる若い女性の幽霊が
廊下や窓の外や天井に張り付いて現れる(おいおい)。

とまあこんな具合に、前半は主にこの奇天烈な寮の住人たちの
奇妙な生活ぶりと、それに振り回されながら次第に適応していく(笑)、
小磯くんの姿が描かれていく。

ここまで書いてきたとおり、本書の一番大きな要素はユーモアで
次に多いのは「ヨリコさん」によるホラー成分。
さらに、作中でこの「ヨリコさん」なるものが現れる ”メカニズム” を
寮の住人たちが(それなりに合理的に?)推定するシーンがあるためで、
しかもそれはあながち間違っていなかったことが後で分かるという
SF的な要素も持ち合わせていて、ジャンル分けに悩む。
でもまあ、小説は面白いかどうかが第一で、
ジャンルなんてのは後からついてくるものだろう。
(いちおう記事の都合上「SF」に分類したけど)

「ヨリコさん」は、基本的に寮の住人にしか
見ない、見えない存在だったのだけど、
後半に入ると「ヨリコさん」は「富穣寮」を飛び出し、
世間一般の人の前にも現れるようになっていく。
そしてそれは日本だけにとどまらない。

血まみれの女性が、時と場所を選ばずに突然目の前に現れたら
普通の人なら驚くし、パニックに陥ってしまうこともあるだろう。

「ヨリコさん」によって大混乱に陥った世界を救うべく、
小磯くんたち「富穣寮」の住人たちが立ち上がる・・・


とにかく序盤の「富穣寮」とその住人たちの描写がすごい。
ここの部分だけでも、本書は読む価値があると思う。
ある意味、想像力(妄想力?)の限界というか
「よくこんなこと考えつくなぁ」と驚かされるような
”異世界”(笑) が描かれる。

後半は、いわゆる「はみ出し者たちのチームが世界を救う」という
「シン・ゴジラ」みたいな展開で、彼らひとりひとりに
しっかりと見せ場が用意されていて物語を盛り上げていく。

「戦力外捜査官」シリーズでも思ったが
パニック映画的な描写も作者は得意にしてる。
本書でもそれは遺憾なく発揮されてるんだけど
いつか、本格的なパニック・サスペンス大作を書いてほしいなあ。

あ、本書も舞台のスケールとしては
十分に「大作」ではあるんだけどね・・・

nice!(3)  コメント(3) 
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コメント 3

mojo

鉄腕原子さん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2020-03-23 22:52) 

mojo

@ミックさん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2020-03-23 22:52) 

mojo

31さん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2020-03-23 22:52) 

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