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その可能性はすでに考えた [読書・ミステリ]


その可能性はすでに考えた (講談社文庫)

その可能性はすでに考えた (講談社文庫)

  • 作者: 井上 真偽
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2018/02/15
  • メディア: 文庫
評価:★★★★

主人公は私立探偵・上苙丞(うえおろ・じょう)。
彼が凡百の探偵と異なるところは、「奇蹟」の存在を信じていること。
そして「奇蹟の存在を証明する」のが彼の悲願だった。

 彼がそう考えるようになってしまった理由は、後半で明かされていく。

「奇蹟」のように見える不可能犯罪を解き明かし、
人間の手で実行することが可能であることを証明した探偵はいても、
その逆はいなかったわけで、これが本作のユニークさを示している。

彼の前に現れた依頼人・渡良瀬莉世(わたらせ・りぜ)は
10年以上前に起こった怪奇で不可解な事件を語り始める。

小学生だった莉世は、カルト宗教団体に入信した母と共に山村に移住した。
そこは高い崖に囲まれた窪地にあり、暮らしているのは教祖と信者のみ、
合計で33人がこの村の住人のすべてだった。

外部との唯一の交通路は村の東側にある ”洞門” と呼ばれる洞窟のみで、
そこは鉄の扉で閉ざされていた。周囲の崖の高さは30m以上あり、
崩れやすい地質のため登ることはできない。また、
村にはほとんど木材がないので梯子や櫓を作ることもできない。

莉世の孤独を癒やしてくれたのは、年上の少年・堂仁(ドウニ)だった。
ドウニは密かに村からの脱出を画策していて、
莉世も彼と共に逃げるつもりだった。

しかし計画を実行する矢先に地震が起こり、
村で唯一の水源が涸れてしまう。
これを凶兆と捉えた教祖は、信者全員による集団自殺を敢行してしまう。

教祖はダイナマイトで ”洞門” を爆破して村を封鎖し、
さらに村人全員を拝殿に集めて、斧で首を切り落としてしまう。
その光景に意識を失った莉世は、村の西にある洞窟で目を覚ます。
そこにはドウニの生首が転がり、彼の胴体は
洞窟から数十mも離れた場所で発見された。
さらに拝殿の中には教祖と信者全員の死体があったが、
拝殿には外から鍵がかけられていた。

いったい、誰が莉世をここまで運んできたのか?
彼女には、首を切られたドウニが自分を抱えて運んでいるという
おぼろげな記憶があった・・・


”「奇蹟」のように見える現象” に対して、
どんな説明も成立しないのならば、それは「奇蹟」だ、
というのが上苙のスタンス。

彼女の話を聞いた上苙は、”あらゆる可能性を検討” し、
この事件は人智の及ばない「奇蹟」であると断定、
その理由を詳細な報告書にまとめる。

「奇蹟」と思える現象を ”人間の仕業” へと引き下ろしてみせるのが
通常の探偵であり通常のミステリであるのだが、本書では逆である。

もちろんそれで納まるわけもなく、彼の前には
「奇蹟」を突き崩そうと挑戦する者たちが現れる。
さまざまな方法で「奇蹟」を説明しようとする試みに対し
それらを上苙はことごとく論破してみせる。
ここで描かれる、論理vs論理のぶつかり合いが本書最大の読みどころ。

 このへんは少年マンガの格闘技対決ものみたいなノリである。

次々と現れる挑戦者を倒していく上苙。
そのときの決め台詞が、タイトルにもなっている
「その可能性はすでに考えた」なのだ。


すべての挑戦者を倒してしまえば、「奇蹟」を否定するすべがなくなる。
それは「奇蹟」の証明なのか・・・と思われるが
本書はSFでもオカルトでもホラーでもないので、
ラストはきちんとミステリとして着地する。


論理バトルの部分も楽しいが、登場するキャラも個性的。
かなりエキセントリックな性格の上苙の他にも、
彼のスポンサー(金貸し)にして中国黒社会出身の女性、
姚扶琳(ヤオ・フーリン)は、口は悪いが何かと上苙を助ける。
もっともそれは彼に死なれると借金が回収できないからだが(笑)。
挑戦者として現れるのは元検察官、謎の中国美人、
かつて上苙の助手を務めていた少年、
上苙に「奇蹟」探索を決意させるきっかけを作った男・・・
みな見事にキャラが立っていて、上苙との推理バトルを盛り上げる。

しかし、たった1つの事件に対して、これでもかこれでもかと
新しい解釈を示してみせる展開は素直にスゴいと思う。

事件 → 捜査 → 解決 というミステリの定型を崩して
また一つ、新しい語り方を見せてくれた。

nice!(5)  コメント(5) 
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コメント 5

mojo

鉄腕原子さん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2020-03-23 22:48) 

mojo

@ミックさん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2020-03-23 22:49) 

mojo

サイトーさん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2020-03-23 22:49) 

mojo

コースケさん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2020-03-23 22:49) 

mojo

31さん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2020-03-23 22:50) 

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