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論理爆弾 [読書・ミステリ]


論理爆弾 (講談社文庫)

論理爆弾 (講談社文庫)

  • 作者: 有栖川 有栖
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2015/09/15
  • メディア: 文庫
評価:★★★

パラレルワールドの日本を舞台にした、大河ミステリ・シリーズ第3作。


第二次大戦終結直前の召和(しょうわ)20年9月、
北海道はソ連の侵攻・占領を受け、そのまま
<日ノ本(ひのもと)共和国>として独立することとなり
日本は分断国家として戦後の歴史を歩むことになる。

そして作品世界の “現在” は、平世(へいせい)21年と呼ばれる時代。
準戦時体制を続ける日本は、“北”(日ノ本共和国)への
対抗姿勢を強め、国民の “統制” に注力するようになる。

探偵という存在もまた体制への反逆分子と見做されていた。
犯罪捜査は警察(国家権力)にのみ許された行為であり
民間人による捜査(私的探偵行為)は違法となっていたのだ。

主人公は、高校2年生の少女・空閑純(そらしず・じゅん)。
秘密裏に探偵を生業としていた両親を持つが,
母・朱鷺子(ときこ)はある事件を調査中に消息を絶っていた。

前作「真夜中の探偵」では、母の手がかりを求めて大阪へ出てきた純が
両親に探偵の仕事を仲介していた人物・押井照雅とその仲間たちと出会い、
彼の周囲で起こった殺人事件を純が解決するところまでが描かれた。

そしていよいよ今作で、純は朱鷺子の足取りを追って九州の地を踏む。


純は押井の仲間・真行寺晴香から福岡に住む黒田伊都子を紹介される。
朱鷺子は、行方不明になる直前に彼女の元を訪れていたのだ。

5年前、朱鷺子が向かったのは深影村。
宮崎県の山奥にあって、平家の隠れ里との伝説がある場所だ。
さらに、朱鷺子の行方を探して村に入った探偵・花隈慎二もまた
消息を絶ってしまったのだという。
純は母の行方に繋がる手がかりをつかむため、深影村へ向かう。

同じ頃、中央警察の明神警視も宮崎へ向かっていた。
そこには ”北”(日ノ本共和国)からの亡命者・佐々木が暮らしている。
”北” が裏切り者である佐々木を暗殺しようとしているとの
情報を得た彼は、それを阻むべく宮崎入りしたのである。

密かに純の動静を探らせていた明神は、純が御影村へ向かったことを知る。
佐々木の暮らす場所と深影村は、直線距離にして
20キロと離れていなかった。

村へ到着した早々、拝み屋(祈祷師)の老女・茶部から
理不尽な罵倒を浴びせられるという荒々しい ”洗礼” を受けた純だが、
逗留することになった<民宿おがた>では、
5年前に母が宿泊した記録が見つかり、
さらに彼女は村の旧家・友淵家を訪ねたという情報を得る。

友淵家で事情を聞いた純は、
朱鷺子が会ったのはそこの長男・隆一であったこと、
そして隆一は2年前に自殺していたことを知る。

そのころ明神は、宮崎に ”北” の工作員の一団が
潜入したという情報を得る。
大がかりな山狩りが開始され、工作員たちは逃走を始めるが
その行く先には深影村があった。

警察は村へ通じるトンネルを封鎖していたが、
工作員たちの反撃でトンネルが破壊されてしまう。

外部との連絡を絶たれ、孤立した深影村で、
茶部が自宅で絞殺死体となって発見され、
さらに次々と村人が死体となっていく。

警察の組織的捜査が入れない状況で、
純は連続殺人犯を突き止めるべく行動を開始するが・・・


深影村のパートだけ観ていると、
平家の落ち武者伝説、拝み屋の老女、旧家、
クローズトサークルとなった村など、
ちょっと横溝正史を思わせる舞台設定なんだが
並行して描かれる ”北” の暗殺部隊と
それを阻止しようとする中央警察とのせめぎ合いのパートは
一転してスパイ・サスペンス風の味付けになっている。

一見して水と油のような2つの流れだが、
これがラストにおいて意外な形で交錯する。


本格ミステリの中の探偵というものは、
いろいろな犯人と対決しなければならないのだけど、
本書で純はシリーズ中で最凶の犯人と遭遇する。

なにがどう凶悪かはネタバレになるので書かないが
これもまた、探偵として成長しなければならないステップなのだろう。
しかし、作者が純に与える試練はホント過酷だなあ・・・

本書は分断国家となったパラレルワールドの日本を舞台にしている。
いままで ”北” の存在は、物語の背景として見えてはいたが、
ストーリーを構成する要素としては決して大きなものではなかった。
ただ、朱鷺子の失踪には何らかの形で ”北” が関わっていることも
前2作のあちこちで描かれてきている。

そして今作では、”北” の暗殺部隊が登場し、
純の ”事件” へ関わってくるなど、
今までになく ”北” の存在感が増してきた。

現時点(2018年8月)で、このシリーズの続刊は出ていないが
次作かその次あたりで、純自身が母の行方を捜すために
”北” へ渡っていってしまいそうで、
オジサンはとっても心配になりました。


タイトルの ”論理爆弾”(ロジック・ボム)とは、
IT用語でコンピュータウイルスの一種のこと。
コンピュータの内部に潜伏し、設定された条件が満たされると
起動して破壊活動などを行う、「論理的な時限爆弾」という意味。

作中にも同様のコンピュータウイルスが登場するんだけど
もちろんそれだけではなく、ダブルミーニングになってる。
そのへんは読んでのお楽しみかな。

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コメント 5

mojo

31さん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2018-08-28 21:45) 

mojo

鉄腕原子さん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2018-08-28 21:45) 

mojo

@ミックさん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2018-08-28 21:46) 

mojo

xml_xslさん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2018-08-28 21:46) 

mojo

コースケさん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。

by mojo (2018-08-28 21:46) 

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