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槐 [読書・冒険/サスペンス]


槐 (光文社文庫)

槐 (光文社文庫)

  • 作者: 月村 了衛
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2017/06/13
  • メディア: 文庫
評価:★★★★☆

主人公・弓原公一は水楢(みずなら)中学校の3年生。
彼が部長を務める野外活動部が夏合宿のために訪れたのは
携帯の電波も通じない人里離れた湖畔にあるキャンプ場だった。

寄せ集めでやる気のない部員たち、
怪我をして参加できない顧問に代わって引率を買って出た
教頭・脇田は規則に厳しく口うるさいので有名。

前途多難を思わせる中、突如キャンプ場を惨劇が襲う。
無法者の集団である「関帝連合」が大挙して押し寄せ、
宿泊客を虐殺し始めたのだ。

彼らの目的は、キャンプ場のどこかに隠された大金を見つけること。
公一たちも囚われの身となり、絶体絶命の危機を迎えるが
そのとき、何者かが突如「関帝連合」に反撃を開始した。

その戦闘力は驚異的で、さしもの凶悪集団も
赤子の手をひねるように易々と屠られていく。
しかも無慈悲にして容赦ない。

そんな殺戮が続く中、公一たちは外部へ連絡をとろうと
決死の脱出を試みるのだが・・・


評価の星の数を見てもらえば分かるが、
本書は現在のところ「今年読んだ本」の中で、
暫定ながら堂々の第1位である。

面白い本を薦めるときにいつも書くことだが
これから私が書く駄文を読むヒマがあったら
本屋に行くかネットでポチりましょう。

余計な予備知識がない方が楽しめます。

以下、本書の紹介を続けるけど
構成上どうしてもある程度のネタバレは避けられない。
なので、これから読むつもりになった人は以下の文章は読まずに(ry


本書は基本的にはアクション小説なのだけど
そこがメインではない。

本書の登場人物はみな "苦悩" を背負っている。
"負い目" と言ってもいい。
それは家族の問題だったり、人間関係だったりするが
みな何かしらの葛藤を抱えてこの場にいる。

例えば部長の公一には、祖母が振り込め詐欺に引っかかって大金を失い
それを苦にして自殺したという過去がある。
そのために家族が崩壊寸前まで追い込まれたことも。

同じく3年生で生徒会副会長を兼務する小椋早紀は、
部員減少に悩む公一に泣きつかれて入部した。

2年生の浅倉隆也は札付きの問題児で、
3年生で副部長の久野進太郎は彼の言動がことごとく許せない。

2年生の小宮山景子はクラスでいじめに遭っており、
同級生の新条茜に引きずられて入部はしたものの、
内心では茜に対して反撥している。

唯一の1年生の日吉裕太だけはやる気満々だが。

お世辞にもまとまりがいいとは言えないこの7人が
極限状態の中に放り込まれ、必死になって勇気を振り絞り、
そして生き延びるためにあがいていく。

一人一人は弱いけれど、力と知恵を合わせて仲間を守り、
苦難を乗り越えようとひたすらもがいてゆく。

昨日までの自分という殻を打ち破り、
一回りも二回りも大きく成長していく。

そんな姿を描くことこそが本書の眼目なのだ


この先はネタバレではないものの、けっこう重要な要素を明かすので
ここまで読んできて「読もうかな」と思った人は
以下の文章は読まずに(ry    (^^;)


自らの殻を打ち破り、乗り越える。
そしてそれは大人も例外ではない。

今回、怪我のために参加できない顧問に代わり
引率を買って出た教頭・脇田大輔。

学園ドラマなどのフィクションにおける「教頭」って、
けっこう損な役回りを振られることが多いように思う。

あるときは校長の腰巾着になってお世辞を振りまき、
逆に若手の平教員には尊大に振る舞う、中間管理職の典型とか。

またあるときは、校長の座を狙って密かに陰謀を巡らせて
生徒や平教員まで巻き込む騒ぎを引き起こしたりする極悪人だったり。

しかしこの脇田は違う。
規則にやかましくて口うるさいが、
街中で不良に絡まれても毅然と対応できず、
それを目撃された生徒たちからは莫迦にされてしまう。
一見するとダメ人間みたいだがそれが実は・・・なのだ。

脇田教頭もまた、この極限状態に放り込まれる。
そして彼はこの修羅場の中で、意外な行動を示す。
いや、意外と言っては失礼か。
彼は、徹頭徹尾、"教師" として振る舞うのだから。

私が思うに、本書における脇田は
フィクション史上 "最高の教頭先生" だ。
"最もカッコいい教頭先生" と言ってもいい。
そして、"最も泣かせる教頭先生" でもある。
実際、彼の "活躍" するシーンを読んでいると
涙があふれて止まらない。

もしあなたが本書を未読なら、ぜひこの
"史上最高の教頭先生" の活躍を見ていただきたい。
このシーンを読むためだけでも、この本を買う価値がある。

彼の活躍するシーンは、本書でも屈指の名場面といっていいだろう。


タイトルの「槐」(えんじゅ)についてまだ何も書いてない。
この記事の冒頭に "何者かが突如「関帝連合」に反撃を開始した"
と書いたのだが、この人物の名が「槐」なのだ。

この正体については、読み始めれば早々に分かることなんだけど
明かしてしまうと読書の興を削ぐことになると思うので書きません。


「関帝連合」については、
全く同情の余地のない極悪集団として描かれている。
登場する早々、キャンプ場にいる何の罪もない人たちを
次々に虐殺していくのだから。
幼い子どもの前にして、平然とその両親を殺害するなど
その冷酷非常ぶりも徹底している。

逆に言うと、この段階でもう
「こいつらは殺されても文句言えないなぁ」と
読者に納得させてしまうのだ。

巻末の解説で、「槐」が次々と悪人どもを粛正していくシーンを
往年のTVドラマ「必殺シリーズ」になぞらえているが、
私はむしろ「破れ傘刀舟悪人狩り」を連想したよ。
「てめぇら人間じゃねえ! 叩き切ってやる!!」って思ったもの(笑)。


すべてが終わったあとに置かれるのは
やや長めのエピローグ。
子どもたちの "その後" が丹念に綴られて
彼らの成長ぶりが実感でき、
満ち足りた想いで読み終えることができるだろう。


熱く燃え、感動に泣く。最高のエンターテインメントだ。
極上の読書の時間を提供してくれることは間違いない。

nice!(3)  コメント(3) 
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コメント 3

mojo

鉄腕原子さん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。
by mojo (2017-10-15 01:27) 

mojo

@ミックさん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。
by mojo (2017-10-15 01:28) 

mojo

31さん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。
by mojo (2017-10-16 00:51) 

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