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神子上典膳 [読書・歴史/時代小説]

神子上典膳 (講談社文庫)

神子上典膳 (講談社文庫)

  • 作者: 月村 了衛
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2015/11/13
  • メディア: 文庫



評価:★★★☆

「凶悪なる敵から、亡国の美姫を守って戦う孤高の戦士」

本書のストーリーをざっくり書くとこうなるが、
この一行から連想される物語と本書との落差は大きい。


時は戦国末期、文禄2年(1592年)。
下野国(しもつけのくに)に領国を持つ藤篠光永は、
重臣・龍田織部介の謀反により討たれ、一族は悉く斬首される。
ただ一人難を逃れた17歳の澪(みお)姫は、
小姓の小弥太とともに落ちのびるが、
追っ手に取り囲まれ万事休す、かと思えた。

そのとき、黒い長羽織の牢人が現れて二人を救う。
その男の名は神子上典膳(みこがみ・てんぜん)。
剣聖・伊藤一刀斎から奥義を授けられた剣の達人であった。

理由も聞かず、報酬も求めず、
二人を国外まで無事に送り届けることを約束する典膳。

澪姫主従が目指すのは、藤篠家と同盟を結ぶ三荻領の筑波家。
しかし龍田の手の者によって街道を押さえられ、
一行は険しい山道の続く雉ヶ岳に向かう。
断崖絶壁が行く手を阻む中、追っ手は着実に近づいてきていた・・・


典膳の剣がいかに無敵とはいえ、多勢に無勢。
龍田側にも、天下の剣豪を倒して名を上げようという
黒蓑(くろみの)右門・左京次という凄腕の兄弟がおり、
戦い続ける典膳は次第に満身創痍に。
しかし、どんなに深手を負おうとも、
澪姫主従を守るという自らに課した "使命" を
異常なまでの執念で全うしようとする。

 本心が窺い知れないところといい、とてつもない不死身ぶりといい、
 ちょっぴり『装甲騎兵ボトムズ』のキリコ・キュービィを彷彿とさせる。


この物語で最大の謎は、"典膳その人" にある。

龍田側の追っ手の一人、白木蔵人が典膳に問う。
「貴公には関わりのなきこと。何故に退かれぬ」
典膳は答える。
「この二人は俺に助けてほしいと言った。だから助ける」
冗談ではなく、彼は心底そう考えているようなのだ。

無法に泣く民あれば、無敵の剣で悪を懲らす。
たとえ相手が何者であろうとも、ただ一人にて立ち向かう。
そして名乗ることなく立ち去る<黒い長羽織の男>。

しかし、彼の言動の端々に見え隠れするのは、底知れぬ虚無。
"無私の境地" などという高尚なものではなく、
ましてや "正義" なんてどこにもない。

自らの命にすら執着せず、澪姫主従を救うために
生還が期しがたい敵の罠へも淡々と踏み込んでいく。
何が彼をそうさせているのか。


終盤に明かされる意外な事実によって、彼の "真意" が明らかになる。
私も驚かされたけれど、思い返せば
そこに至るまでの伏線もちゃんと張ってあったし、
そういう意味では「ミステリ」としてもよくできている。


SFハードボイルド「機龍警察」シリーズでブレイク中の著者だが、
解説によると、本書が実質的な小説家デビュー作だという。
SFや冒険小説も楽しみなんだけど、
この人が書く時代劇ももっと読んでみたくなった。


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mojo

31さん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。
by mojo (2016-02-01 23:04) 

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