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ミステリマガジン700【国内編】 創刊700号記念アンソロジー [読書・ミステリ]

ミステリマガジン700 【国内篇】 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

ミステリマガジン700 【国内篇】 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2014/04/24
  • メディア: 新書



評価:★★★

【海外編】で、柄にもなく "ミステリの定義" なんてものを
書いてしまって、ちょっぴり反省してる。

誤解されたくないのだが、
(私基準の)ミステリだから評価して、非ミステリだから評価しない、
なんてことは全くない。

ミステリでもつまらなかったり気に入らない作品はたくさんあるし
非ミステリでも面白いもの、大好きな作品はたくさんある。

実際、今年になって読んだ本が10月末までで約120冊あるんだけど、
いわゆるミステリ(謎解き要素が多めの作品)が50冊、
非ミステリ(私の分類で)が70冊と、ミステリでない方が多い。

 もちろん、非ミステリの中にも、人によっては
 「これはミステリだ」って分類する人もいるだろうけどね。

閑話休題。

今回は日本編。作品紹介と合わせて、
作家さんにまつわる個人的な思い出も、ちょっと書いてみた。


まずは、とても面白かったのは次の2編。
実は両方とも個人短編集で既読だったよ(^_^;)。

「少年の見た男」原尞
 私立探偵・沢崎の元に現れたのは10歳の少年。
 "西田サチ子" という女性の護衛を頼みに来たのだ。
 少年の正体と依頼理由に疑念を抱きながらも行動を起こす。
 サチ子の勤務先から、彼女を尾行して銀行へ入った沢崎は、
 そこで二人組の銀行強盗に遭遇する・・・
 ハードボイルドなんだけど、きっちりとした伏線と意外な真相。
 ものすごく本格ミステリな作風で大好きな沢崎シリーズ。
 短編集で既読のはずだったのだけど、すっかり内容を忘れてた。
 惜しむらくは超寡作なこと。
 いちばん最近の長編作品「愚か者死すべし」が2004年だから、
 もう10年以上沈黙してる。病気なのかと心配してしまうよ。

「船上にて」若竹七海
 短編集で既読のはずだったのだけど、(以下同文)。
 1920年代。ニューヨークに滞在していた主人公は、
 大西洋ーインド洋回りで日本へ帰ることにする。
 乗り込んだ客船で知り合った元宝石商のジェイムズ・ハッターから、
 彼が若い頃に巻き込まれた盗難事件の話を聞く。
 密室状態の部屋からダイヤの原石が消え、
 ジェームズは犯人として逮捕、収監されたという。
 しかし、彼を救ってくれたのは意外な人物だった。
 "ミステリ" マガジンと銘打ってある割には、
 (私基準だが)あんまりミステリっぽくない話ばかり収録されてる
 このアンソロジーの中では、珍しく(笑)まっとうな謎解きミステリ。
 ラスト一行が鮮やかに決まる。
 若竹七海も好きな作家で、既刊本はだいたい読んでる。
 ここ数年、寡作になってませんかね。


(私基準の)ミステリとして良く出来てるなあ・・・てのが2編。

「寒中水泳」結城昌治
 広告会社へ勤めながら細々と絵の勉強を続ける "私"。
 美術学校時代の同級生・ミノルが、川に落ちて溺死する。
 保険金目当ての自殺かとも思われたが、ミノルの妹・ユキは
 兄は何者かに殺されたのだと "私" に訴える。
 容疑者は同級生だった二人。
 自分の才能を見切り、大学の美術史講師に転身した花岡二郎。
 新進気鋭の画家として同期のトップを走る五味伍平。
 張った伏線をきちんと回収し、ラストが綺麗に決まって、
 短編ミステリのお手本みたいな作品。

「クイーンの色紙」鮎川哲也
 安楽椅子探偵ものの<三番館のバーテン>シリーズは、
 けっこう前に創元推理文庫で再刊されて、
 全巻読んだはずなんだけど、すっかり忘れてる。トシだなあ。
 日本を訪れたエラリー・クイーン(フレデリック・ダネイ)夫妻。
 二人を主賓に開かれたパーティで、翻訳家の益子田は
 色紙にダネイ氏のサインをもらった。
 しかし、彼の家に友人たちが集まった際にその色紙が盗まれる・・・
 鮎川哲也をはじめ、多くの作家や編集者などが実名で登場する。
 その意味では当時のミステリ界の様子が窺える楽しい作品。
 紛失事件の真相はまさに盲点なんだけど、普通は気づくよなあ・・・


(私基準の)ミステリ度が高いか低いかに関係なく、
それなりに楽しめたのが7編。

「ドノヴァン、早く帰ってきて」片岡義男
 18歳で志願兵となり、ベトナムへ従軍したドノヴァン。
 4年後、除隊してオクラホマへやってきた。
 入隊の時に別れを告げた恋人・ジャニスに再会するために。
 4年の間に、変わってしまった自分を彼女はどう思うだろうか・・・
 「幸せの黄色いハンカチ」みたいな話だなあと思っていたら
 ちょっと苦めのラスト。この後二人はどうなるのだろう。
 たぶん、片岡義男の作品は今回初めて読んだ。

「聖い夜の中で」仁木悦子
 主人公は、来春には小学校入学を迎える少年・ひろむ。
 育ててくれた祖母が亡くなり、別居していた母と暮らし始めた。
 クリスマスの日に、ひろむは一人の男と出会う。
 彼は、自分を裏切った女に復讐するために、
 刑務所を脱獄してきたところだった・・・
 昔、短編集で読んだはずなんだけど、(以下同文)。
 本作は作者の絶筆なのだが、そのせいか、もの寂しい雰囲気の作品。
 哀しいサスペンスではあるけどミステリではないなあ。
 仁木兄妹シリーズは大好きだったよ。

「『私が犯人だ』」山口雅也
 教え子の女子高生・レノラに入れあげたあげく、
 全財産をなくした教師・チャールズは、レノラとともに逃避行に出る。
 しかし、金の切れ目が縁の切れ目。
 豪雨の中、辿り着いた無人の屋敷内でレノラと諍いを起こし、
 彼女を死なせてしまい、自らも気を失ってしまう。
 目覚めたチャールズの回りでは警察官たちが捜査の真っ最中。
 しかし誰もチャールズの存在に気がつかない・・・
 チャールズが熱愛するポオの世界を舞台に展開する不可解な物語。
 最後はちゃんと合理的に説明されるんだが、
 ラストまで奇妙な雰囲気が持続するのはたいしたもの。
 出世作「生ける屍の死」も読んだけど、
 あっちのほうは今ひとつよく分からなかったなあ。

「城館」皆川博子
 今年86歳になろうという大御所作家さん、62歳の時の作品。
 兄は勉学のために母とともに欧州へ行き、
 父とも離れて祖母と暮らす、主人公の少年。
 ある日、祖母の屋敷の奥の間から一人の女性が現れる・・・
 幻想的な雰囲気なのだけど、その背後には
 少年にとって厳しい現実が隠れている。
 未だに大作・話題作を発表し続けている人なので
 読みたいとは思っているのだけど、何しろ長い時代にわたって
 膨大な作品を発表しているので、どれから読んだらいいのか迷う。
 とりあえず、この間文庫になった「双頭のバビロン」は買ったんだけど
 例によって積ん読の山に埋もれているんだなあこれが・・・

「川越にやってください」米澤穂信
 「氷菓」に始まる古典部シリーズでブレイクし、アニメもヒット。
 日本推理作家協会賞(短編部門)も受賞、直木賞候補になったり
 本屋大賞候補になったりと大活躍の人だね。
 昔、こんな夢を見た・・・というエッセイ風のショートショート。
 私(作者)が夢の中でタクシーを拾い、川越に向かう話。
 "夢" と断っているのにちゃんとオチがある。
 だったら "夢" なんて言わずに普通の作品にすればいいのに・・・
 とも思ったが、ラストに来て納得。
 あの一行が書きたかったんだねえ・・・

「交差」結城充孝
 互いに殺意を抱く4人の人間が、
 スクランブル交差点上の一点に集まっていく。
 錯綜する4人の思惑を上手に裁く、"交通整理" ぶりが見事。
 女性警官「クロハ」シリーズの人だったんだね。

「機龍警察 輪廻」月村了衛
 テロ対策のために、人型近接戦闘兵器<機甲兵装>を導入した
 警視庁特捜部SIPD(Special Investigation Police Dragoon)の
 活躍を描く、ハードボイルド・アクションSFシリーズの短編。
 ウガンダの反政府組織の武器調達幹部が来日、
 しかし彼が接触したのは医療機器メーカーの社員だった・・・
 長編シリーズと異なり、機甲兵装の登場シーンはないが
 特捜部メンバーの意気込みが伝わってくるストーリー。


ミステリの間口を広げること自体に反対はしないけど、
次の8編は、私の好みからはかなり外れてるなあ・・・。

「ピーや」眉村卓
 その男は、一匹の猫と暮らしている。「ピー」は猫の名だ。
 毎日仕事が終わると、自分の食事と猫のエサを買って帰る。
 周囲の人々は、男の周囲に漂う異臭に気づく。猫の臭いだ・・・
 ホラーっぽいSFって感じかなあ・・・

「幻の女」田中小実昌
 他の男のもとへ去ったシズ子を、渋谷の路上で見かけた "おれ"。
 アメリカにいるはずが、いつの間に帰ってきたのか。
 見失ったシズ子を探しまわり、ついに見つけるが・・・
 一人称での語り口は軽妙だが、このオチは好きになれないなあ。

「離れて遠き」福島正実
 愛人・美子を殺し、バンコックへ逃亡してきた "彼"。
 彼女とのことを回想しつつ、退廃的な時間を過ごしていく・・・
 一人称と三人称が混在してて読みにくく、
 分かりにくいのもあるかも知れないけど、好きになれない話だなあ。
 福島正実はやっぱりSFの人だよねえ。
 彼が訳した「夏への扉」(ロバート・A・ハインライン)なんて、
 いまになってみると訳語がかなり時代を感じさせて
 古くさい部分もあるけど、独特の味があって私は好きだなあ。
 別の人による新訳が数年前に出たけど、
 福島正実の旧訳版が文庫で再刊されたりしてて、
 やっぱり根強い人気があるんだろうなと思う。

「温泉宿」都筑道夫
 温泉宿へやってきた男女の二人組。
 ところがどこの旅館でも宿泊を断られてしまう・・・
 よくあるタイプの怪談かと思わせて
 ホラーでも何でもない終わり方。一体何だったのでしょう。
 ミステリもSFも書く人だったけど、
 この人の書くSFは今ひとつだった記憶が。
 本格ミステリである「キリオン・スレイ」シリーズは
 好きだったんだけどね。

「暗いクラブで逢おう」小泉喜美子
 作家の夢を諦め、深夜クラブのマスターへ転身した男。
 常連客が多く訪れる彼のクラブの、一晩の様子を描いている。
 でも、それだけなんだよねえ。
 昔、NHK銀河テレビ小説(古!)でやってた「冬の祝婚歌」。
 その原作が小泉貴美子の「弁護側の証人」だった。
 ドラマの方はけっこう好きで一生懸命見ていたんだけど、
 原作小説を手に取ったのはけっこう後だったなあ・・・
 何年か前に再刊されたので再読した。
 そのときの記事も、このブログの中にアップしてあるはず。

「閉じ箱」竹本健治
 深い霧が立ちこめる中を歩く、ブラウン神父と思しき人物。
 彼の前に一人の男が現れ、
 犯罪の解決と不確定性原理について語り出す。
 ミステリの有名キャラが出てくればミステリなのか?
 ちょいと素朴な疑問が。
 この人、「ゲーム三部作」はけっこう面白かった記憶がある。

「鳩」日影丈吉
 病気治療のために、丘の上にそびえる大学病院へ入院した "私"。
 手術も無事に終了し、療養生活に入るが、
 やがて病院に大量の新人看護婦がやってくる。
 しかし、古参のベテラン看護師たちとはそりが合わない様子だ・・・
 ラスト1ページで、物語は予想の斜め上どころではない
 遙か彼方へ飛んで行ってしまう(まさに文字通り)。
 ファンタジー? 不条理小説? いわゆるシュールレアリスム?

「怪奇写真作家」三津田信三
 写真集の企画を考えていた編集者である "僕" は
 ある女性から沐野好(もくの・よしみ)という写真家を紹介される。
 刀城言耶シリーズは大好きなんだけど、
 ホラーはやっぱり苦手だなあ。


これは私には評価不能。

「死体にだって見おぼえがあるぞ」田村隆一
 ミス・マープルを題材にした詩です。文庫で3ページです。
 詩はよく分かりません。ごめんなさい。
 クリスティーの翻訳でよく名前を見た人。
 翻訳専業の人かと思ってたら、本職は詩人だったんですね。


最後はリレーコラムから5編を収録。書かれたのはみな1958年の前半。

「証人席」山田風太郎・渡辺啓助・日影丈吉・福永武彦・松本清張
 読んでみると、当時の国内ミステリの状況の一端が窺える。
 そのころは、ミステリ(当時は「探偵小説」かな?)というものが
 今ほど市民権を持っていなかったのだろうな・・・と。
 そして、執筆者5人それぞれのミステリに対する思いも伝わってくる。
 それは期待だったり不満だったりするけれど、
 ミステリのよりいっそうの興隆を、みんな願っている。


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