まもなく電車が出現します [読書・ミステリ]
評価:★★★
某市立高校に通う葉山くんは、一人だけの美術部員。
演劇部の看板女優・柳瀬先輩を相方に、彼が巻き込まれる事件を
ユーモラスに描いた学園ミステリ連作。
探偵役は神出鬼没のOB・伊神先輩がつとめる。
「まもなく電車が出現します」
部室棟になっている別館の3階にある
老朽化のために "開かずの間" になっている部屋に、
ある日突然、鉄道模型が出現した。
それには、芸術棟の閉鎖に伴い新たな活動場所を求める
映研と鉄研の争いが絡んでいるかと思われたが・・・
不思議なタイトルで、いったい何がどうなるのかと思ったよ。
動機は些細だが本人からすれば深刻なんだろうなあ。
「シチュー皿の底は並行宇宙に繋がるか?」
調理実習でシチューを作った葉山くんたち。
完成した料理を美味しく頂いた後、メンバーの藤巻さんが不審な顔。
ジャガイモにアレルギーがあったはずの三野くんが
シチューを完食していたからだ。
"どうやって○○を入れた?" はよくあるが
"どうやって○○を抜いた?" は斬新ではある。
ラストで明かされる方法も、なるほどよくできてる。
実行するのはかなり難しそうな気もするけど
それを言っちゃあおしまいかあ。
「頭上の惨劇にご注意ください」
部室棟になっている別館前を、柳瀬先輩と歩いていた葉山くん。
突然、彼に向けて植木鉢が降ってきた。
その鉢は園芸部のもので、落とした人物がいたと思われるのは
ESS部とボランティア部が使っている部室だった。
さらに翌朝、葉山くんの下駄箱には釘入りの封筒が入っており、
二人は犯人捜しを始めるが・・・
私は、てっきり柳瀬先輩に横恋慕している男が
葉山くんを彼氏と勘違いして(それはあながち間違ってもいないが)
嫌がらせを仕掛けているものと思ってたんだけどね・・・
「嫁と竜のどちらをとるか」
かつて大人気を誇った「機竜戦記メダリオン」。
そのプラモデルは、今でもマニアの間で高値で取引されている。
柳瀬先輩の従姉妹が結婚した旦那はメダリオンの大ファンだったが
結婚するときに新たなプラモデルは買わないと
嫁さんに約束していたはずだった。
しかしつい先日、こっそりと1体買ってしまっていた・・・
文庫で20ページほどの掌編で、ネタもまた他愛もない。
でもまあ、自分の "生きがい"(笑) を嫁に理解してもらえないという
同じような悩みを抱えたオタクさんは世に多いんではないか。
「今日から彼氏」
文庫で約100ページと、本書の厚みの1/3以上を占める中編。
タイトル通り、葉山くんに突然彼女ができる話。
お相手は映研で脚本を担当している同級生・入谷菜々香。
柳瀬先輩主演の映画が完成した日、彼女の方から告白してきたのだ。
突然の "彼女出現" 、そして追い打ちをかけるように
柳瀬先輩から「映画で共演した先輩とつきあう」と告げられ、
菜々香とつき合い始める葉山くんだったが・・・
異性に関してはとことん不器用で、
初デートでもドジを踏みまくってしまう。
このへんは読んでるほうが恥ずかしくなってしまいそうだ。
でも、奮戦の甲斐あってだんだん菜々香と打ち解けていく。
とは言ってもこれはミステリだから、このままでは済むまいなあ・・・
と思っていたら案の定、事態は意外な方向へ動き出していく。
「まもなく電車-」から「嫁と竜-」までの4作は、
分かってみれば実に些細な話なのだが
(当事者からしたら深刻なことなのだろうけど)
本作はいささかシリアスな展開を見せる。
例によってラストに登場する伊神先輩が
すべての事象の解説をしてくれるのだけど、
今回に限っては、彼もある意味当事者の一人で
読者の知り得ない情報も知っていたから、
純粋に推理で謎を解いたとは言えないかも知れないが
本作のメインはそこではなく、葉山くんと柳瀬先輩の
関係の変化にあるのではないかな。
巻末に載っている「あとがき」は、必読の "傑作" だ。
前作の「あとがき」もそうだったけど
ある意味、本書で一番 "笑える" 文章になってる。
日常や周囲の出来事などを惚けた口調でぼやいているだけなんだけど
これがもう、とてつもなく面白い。
ホラー・コメディとしても良く出来てるんじゃないの、これ。
いつかこの路線で一作書いてほしいなあ。
31さん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。
by mojo (2015-09-22 17:33)
コースケさん、こんばんは。
nice! ありがとうございます。
by mojo (2015-09-22 17:34)